映画『ノルウェイの森』を見た。
Posted at 10/12/27 PermaLink» Tweet
26日日曜日。お昼に友達と約束して有楽町の三省堂へ。水嶋ヒロの『KAGEROU』を買った。日比谷の宝塚劇場の近くまで歩いて、MUJICAFEへ。自然食レストランという感じだが、お洒落。思ったより量が多かった。そこで話をし、また場所を変えて帝国ホテルの地下のとらやへ。最初は他の客がいなかったのにどんどん込んできて、となりに見合いらしき人たちが。最後には「若い二人」だけ残ってなんだか他人行儀な話をしていた。こちらは自我論とか欲望論とかなんだかきわどげな話をしていたので迷惑だったかもしれない。
KAGEROU | |
齋藤 智裕 | |
ポプラ社 |
有楽町に出て友人と別れ、さてどうしようかと考えて交通会館のビルの梅花亭で子福餅と柚子餅を買い、物産館で天然酵母パンを買った。銀座をぶらぶらしたあと、やはり『ノルウェイの森』を見ることにして、また日比谷に逆戻り。宝塚劇場の地下のスカラ座で4時20分の回に入ることにした。この映画、もともと見るつもりはあまりなく、DVDになってからTSUTAYAで借りてみればいいくらいに思っていたのだが、ツイッターで村上隆氏が絶賛の嵐だったので、どういうものなのか一度見てみようという気になったのだ。今日はたまたま日比谷に来ることになったので見る気になったら見ようくらいに思っていたのだけど、まあ今日を逃したらいつ見るか分からないなと思って結局見た。
ノルウェイの森 公式ガイドブック (1週間MOOK) | |
講談社 |
私は原作小説は読んでいない。読んでいる人と読んでいない人とではそれなりに感想は違うと思うし、特にあのラストに関してはきっといろいろ意見があるだろうなと思う。
しかし私としては、この映画は支持したいと思う。支持したいというのも硬い表現だが、要するに単純に面白いとか面白くないとかいうことができない映画なのだ。
見終わったあと、私はふらふらと銀座まで彷徨い出て、四丁目のNOAカフェに退避して生ハムとモツァレラのパニーニを夕飯に、ディタのグレープフルーツ割りを飲んだ。
見たあとで思ったことを断片的にツイート。
真っ先に思ったことは、村上春樹は生きるためにこの小説を書いたんだろうなということ。パンフレットを読んで監督と村上の間にあったやり取りについて知ると、原作との違いの最大の点は原作が回想という形で書かれているのに映画は現在形で作られているということなんだろうと思った。生と死、そして人は生きるためにセックスをする。人生の中にそういう時期は確実にある。というか少なくとも私にはあった。そして生きるために小説を書く。書かざるを得ない。という一点において私は村上に共感した。
1987年、この原作小説が出た年、私は「直子のような」人と付き合っていた。愛されているかどうかもわからない、でも人として放り出すわけには行かない、そんな出口のない苦しさ。映画では(小説を読んでないから映画だけを軸に書くけれども)結局緑の存在を告白された直子は徐々に現実に戻れなくなり自殺した恋人の後を(おそらくは)追って死んでしまう。緑の存在を告げたワタナベは誠実だったのかそれともおそらくはそうなることを心のどこかで感じてはいたのにそうしたのか、それはわからない。
「直子のような」人は私にこの『ノルウェイの森』のことを電話で話し、「私のような子が出てるんだよ」と言った。当時私は25歳、彼女は二つか三つ下だった。私は出来る限りのことをしたつもりだったけど、結局無力だった。精根尽き果てて別れたのだが、『ノルウェイの森』の話をしたのはその別れるか別れないかの境目の辺りのことだった。私はそのとき、この小説を読む、と彼女に約束した気がする。私はその約束を守らなかった。
だからこの映画を見たのは、ある意味23年たってようやくその約束を果たしたということなのかもしれない。見終わったあとの最初の感想は、そういうものだった。だから私は、あのラストにはとても共感する。自分はどこにいるのだろう。あの頃はいつも、そんなことは何も分からなかった。いつまでたっても出口はない。直子が死に、レイコと寝て、緑と付き合うことを決意しても、それで出口が見えたりはしない。見終わったあと、押し黙って映画館を出ていく人が多かったが、多くの人は最後に救いがあると思ったのだろう。馬鹿を言っちゃいけない。青春に救いなどないのだ。カタルシスもなく、「私の夏は明日も続く」(by石川セリ『八月の濡れた砂』)のである。
「青春とは青い春と書く。バラ色の春ではないのだ」、という言葉をどこかで読んだがそれは真実だと思う。人間にはできることと出来ないことがある、ということを思い知らされたのがそのときのことだった。そのとき以来、私は妙に慎重派になってしまった。
彼女が『ノルウェイの森』を読んでくれと言ったのは、自分を理解してほしいというメッセージなのかもしれなかったのだが、むしろ自分と別れたあとも苦しみながら生きて行ってほしいというメッセージだったんじゃないかなとこの映画を見終わったあと思った。別れたあと、彼女とは偶然出くわしたことが何度かあったが、幸いなことに直子のようにはならず見る限りでは元気そうだった。私に緑のような人が現れたかどうかは微妙だが、少なくとも重なってはいない。
もし私があの当時『ノルウェイの森』を読んでいたらどうだっただろう。読んでこの小説のメッセージを受け取れることが出来たか、それが25歳の私に出来たかどうかは心もとない。しかし、どこか今とは違う人生を生きていたかもしれないなあとは今日映画を見て初めて思った。
ノルウェイの森 上 (講談社文庫) | |
村上 春樹 | |
講談社 |
まあそういうわけで私はこの映画と原作小説にはまあいろいろあるのだけど、内容的にはとても興味深かった。映像もとても面白いしきれいだ。タルコフスキーか今村昌平でも見てるんかいなと思ったところもある。撮影監督がホウ・シャオシェンの『恋恋風塵』と『戯夢人生』を撮った台湾の人だと知って深く納得した。私の映画鑑賞人生の中でも一二を争う映像美の『恋恋風塵』を撮った人であるならば、この美しさは頷ける。画面のどこに人を配置するかという工夫がとても考えられていて面白いし、60年代終わりのありそうで絶対なさそうな直子とワタナベと緑のそれぞれの部屋の中。個人的には緑の部屋が好きだ。あのわけの分からん盆栽は何だ。それにしてもウルグアイ。
恋恋風塵 [DVD] | |
ホウ・シャオシェン監督作品 | |
紀伊國屋書店 |
友達に死なれる痛さ。
村上はそういう経験をしているのだろうか。本人は否定するだろうけど、想像だけでそれが書けるのか。
それがすべての始まりなんだよな。そして青春のすべてはノルウェイの深い森の中にある、わけだ。レイコが弾き、歌う「ノルウェーの森」がサントラに入っているのではないかと期待したけど、残念。
ノルウェイの森 オリジナル・サウンドトラック | |
サントラ | |
SMJ |
ああ、個々の場面のよさについてはまた改めて書く気になったら書こう。ご馳走のキャスティングとして糸井重里が大学教授役で出ているのは気づいたが、細野晴臣と高橋幸宏には気づかなかった。
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