言葉の扱い方/欲望と理由を合致させる
Posted at 10/12/20 PermaLink» Tweet
自分の体調というのは精神状態と関係がある、ということは昔から気がついてはいたのだけど、精神状態といっても表面的な気分や機嫌の浮いたり沈んだりの波だけではなく、というよりむしろそうではなくてもっと深いところの精神的なうねりのようなものが体調にかなり関係してくるのだなとここ二三日思っている。
自分のそのあたりのところをうまく言葉にするのは難しい。ときどき、妙にうまく言葉がつながって自分のことを書きまくるときもあるのだけど、それもまた一つの自分の面には違いないが、今のようになかなか言葉が出てこなくて、しかもその言葉の一つ一つがうまくつながらない、その関連性をうまく説明できない、ということもまたある意味で自分の真実でもある。
そのつながらない言葉をつなげることが自分を自分として保つことだと、昔はどちらかというとそう考えていたのだけど、最近はその断片性もまた自分のある種のあり方、求めているものではないけれども、ありのままの自分ということでもある、とは思っている。それはなんだろう、それが進んでいくと自分という人格の統合性に難がでてくるということなのかもしれないが、どうもそのあたりの精神とか人格というもののあり方というものはよく分からない。
でもたぶん、言葉というものは自分という人格を統合するためにすごく重要なツールである一方で、言葉というものによって自分の人格とか精神性のようなものが分断されてしまうという部分もあり、なかなか扱いの難しいツールだよなと思ったりする。
その言葉の扱い方をもっとうまくなりたいと思っているのだけど、それはなかなか難しい。言葉というものは音と意味から成っているだけでなく、字面とかその言葉が使われてきた背景とか、その言葉が使われがちな文脈とかそういう過去に縛られているし、またその言葉をそういうふうに使うかというその人の個性というものもあらわすし、またなるほどそういうふうに使うのかというその言葉の未来というか将来性のようなものもまた含まれているわけで、本当に一筋縄では行かない。一つの作品の中でもここの「さびしさ」はひらがなにしたいがこの「淋しさ」は漢字にしたいとか、しかしそうなるとこの作品の中でも「さびしさ」という言葉の意味する統合性が損なわれるとか、かと行って対比的に説明するほどその要素が重要でなかったりとか、けっこう考え出すと底なしの泥沼のようなものだったりする。
私はその場面その場面で最も適した言葉の使い方をしたい、と思うのだけど、作品が一つの有機的な連関性を持っているということもまた大事なことで、それがなるべくビビッドに人の心に届くようにしたいと思うのだけど、まだまだ修業が足りず、どうも不満が残る。
ああ、内容が創作ノートの方に傾いてしまったが、今書きたかったのはそういうことよりも自分という人間の精神と肉体の統合みたいなことだ。まあもともとそんなにバランスがよい方ではないとは思うけど、そのバランスを取るのに子どものころからいろいろな方法を取っていて、でも一つの方法を取り続けてくると制度疲労的にイヤになってきたりするし、人間社会生活を送るためには本音ばかりで生活していくわけにもいかない。というか、本音が一体何なのかがわからなくなることがひとつの自分の問題だったりするわけで、でも心の中のどろどろした部分をただ封印を解けばそれがプラスになるかといえばそういうわけでもない。やっぱりそういうところはコントロールしなければならない部分もあって、そのあたりは東京都条例みたいな話なのだけど、自分の精神の内実みたいなところは結局よく分からない、底なしみたいなところもある。でもその同じ場所に光を当ててみたら実はけっこうがらんどうのぽかっとした空間だったりすることもあって、「気持ちの持ちよう」みたいなところもすごく大きく、そのあたりはまた肉体的な調子によっても左右されるし、理性によってコントロールできる部分もある。
そのあたりを整えながら毎日の生活を送っているわけだ。創作というのは本当に人格の深い部分まで降りていってしまうので、帰ってくるのがかなり大変なのだが、その過程でそこにあるものをつい自分自身で批判してしまったりすると自分で手の届かないところに傷を負ってしまうことになったりして、あとでかなり大変になったりする。まあそういう意味で、創作というのは危険極まりない作業ではあるなと思う。
何というか、自分がこの世に存在していい理由と、自分がこの世に存在したい理由と、生きている自分について考えるとその二つに問いが収斂していくわけだけど、まあ実際のところ本当は生まれてきたから生きているのだし、生き物だから生きていたいというのが本当は身も蓋もない結論ではあるが、それを言葉で表そうとするとけっこう大変なことになる。頭でそれを納得していたいタイプというのは、それを言葉で現わさなければ成らなくなる。しかし、本当は「いのちだから生きていていいのだし、いのちだから生きていたいのだ」という根源的なところから生まれている。というかそれにつながらない理由は理由として機能しない。
類としての存在として自分が存在していい理由というのはまあ普通にあっても、個としての自分が存在していい理由というのはなかなか難しい。ほかに代わりがきく、と思ったらなぜ自分が存在していいのか分からなくなるからだ。まあそういう理由を考え出すと考えられるのは一つしかなくて、それは自分にしかつくれないものを自分がつくる、自分にしか出来ないことを自分はやる、ということになる。そしてそれは、自分がこの世に存在したい理由というものとも深くつながっている。自分がこの世に存在したい理由というのが欲望の充足を味わうことで楽しいということ、というのが生命としての原動力であるから、欲しいものがないとか食べたいものがないとかやりたいことがないというのは生命としてはなかなか危ない。性的な充足や食的な充足、あるいは家族に囲まれて楽しく過ごすとか、そういう関係的な充足というものもあるし好きなものに囲まれる物質的な充足というのもあるけれども、そういうものだけでは何か足りないという感じはある人にはあると思う。何かを作り出す、この世にないものをこの世にひねり出すというのはまた一つの大きな喜びであって、作りたい気持ちがあるうちはこの世に生きていてもいいという感じはある。
私の場合はその二つ、欲望と理由といえばいいか、その二つがなかなか合致しないというか、理由をつけてみて欲望の所在を探してみてもなかなか欲望の側が合意しなかったり、とにかく何かを書きたいという欲望に突き上げられて何かを書き始めて見たけど何を書きたいのか全然分からずただただ長大な文章になるということもよくある。それを一つの対象に的を絞って結実させる技を繰り返し磨いてはいるのだけど、「書きたいもの」がなかなか「書かれるべきもの」に合致するその着地点に達するのはかなりの力が必要だということが書けば書くほどわかってくる。まだまだ見つけなければならないものが多くて、先は長い。
と、こういう文章はどんなに長くても断片だ。
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