宮崎駿のアニメーションの作り方
Posted at 10/12/10 PermaLink» Tweet
火曜日、帰郷する前に丸の内丸善で本をいろいろ探した。宮崎駿関係のものもいくつか読んでみたのだが、結局買わなかった。宮崎自身の言葉が載っているものならまだいいのだが、宮崎の作品を批評したものをどうもあまり読む気にならない。『ユリイカ』などでも何度か宮崎の特集は組まれているようで、いくつか立ち読みして面白いなと思うところはあるのだけど、今のところ食手は伸びていない。
ユリイカ1997年8月臨時増刊号 総特集=宮崎駿の世界 | |
青土社 |
結局その時買ったのは『魔女の宅急便』の絵コンテ段階の宮崎の詩や作画担当者のラフスケッチのようなもので構成された『元気になれそう』というポエムブック?だった。ある種のメイキングで、最終作品でないこういうものも売ることで商売にしているというのはなかなか商魂たくましいという気はするが、確かに世に出さずにただ埋もれさせてしまうのは惜しいという感じがするものではある。
元気になれそう―映画「魔女の宅急便」より | |
宮崎 駿,大塚 伸治,近藤 勝也 | |
徳間書店 |
宮崎はある場面を描くときに作画担当者にこういうものだ、ということを示すために詩を書いて渡すことがあるのだという。『もののけ姫』の最初に出て来る「タタリ神」の性質をあらわした詩が岩波から出ている『折り返し点』という本に出ていた。『元気になれそう』もどうもそういうものらしく、共同作業で一つのものを作るときにさまざまな伝達手段が駆使されているんだなと思って興味深かった。
折り返し点―1997~2008 | |
宮崎 駿 | |
岩波書店 |
で、こういうやり方は一人で小説を書くときも使えるな、と思った。小説の大きな縛りは、人称の問題だ。一人称で書いていると、相手の心の動きとかをそのまま書くことはできない。三人称で俯瞰して書いていると、細かく書きわけることはできても作者自身の視点が定めがたく、散漫になってしまうところがある。ずっと主人公の視点で書いているとどうも主人公にとって都合がいい展開になったりしてしまうところがあって、これはだめだなと思うことが多いのだが、その部分を相手の心情とかを詩であるとか相手の視点から見た同じ場面を書いてみるとかして立体的にするという手はあると思う。人称を変えるにはいろいろ手続きが必要だからそれはしなくても、つまり使わない文章をそれなりに書いてみるということで、そういうことによって作品世界が支えられるということはあるよなあと思った。
ユリイカ2001年8月臨時増刊号 総特集=宮崎駿『千と千尋の神隠し』の世界 ファンタジーの力 | |
青土社 |
もう一つは、『千と千尋の神隠し』の特集で庵野秀明が答えていたインタビュー。庵野は『ナウシカ』のときに宮崎の下でアニメーターをした経験があり(巨神兵は庵野のデザインだという)、その後も関係を持っているようで、身近にいた人でないと分からないコメントがいろいろあって可笑しかった。一つへえ、と思った指摘は、宮崎は自分の作品に必ず自分を投影したキャラクターを出す、という話。『千と千尋』で言えば、釜爺がそうなのだという。何くれとなく千尋の面倒を見、恋の応援までしてくれるおせっかいな爺さんは、「10歳の一人の女の子のためにこの作品を作った」宮崎の姿そのものだ、というわけだ。
それではそれぞれの作品で、宮崎はどのキャラクターに投影されてるのか、ということを考えてみる。『ナウシカ』はユパだろうなと思う。『ラピュタ』はどうだろう。何人か出て来る爺さんのキャラクターかな。『トトロ』はお父さんだろうな。『魔女』は特定が難しい。『紅の豚』はポルコその人だとしか思えないが。『もののけ』は怪しげな策動をする爺さんでいいのかな。『ハウル』は、うーん。『ポニョ』は海の底に住む人間嫌いの科学者ということか。まあ、庵野が言うほどはっきりと投影されているキャラクターがあるのかどうかよくわからないのだけど、ただそういう視点で作品を見てみると面白いなとは思う。
まあそうなると、とにかく「子どものためのアニメ」という宮崎の姿勢ははっきりと見えてくるし、それを外した『紅の豚』はやはり特殊な作品ということになるなと思う。
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