今年読んで面白かった本(9~12月編)

Posted at 10/12/30

30日。今日は午前中から雪が降り出した。今車は屋根のない駐車場に止めているので、降って来たことに気がついてフロントガラスにシートをかけに行った。気温は0度。地面の雪は融けているのでそんなに気にすることもないと思うが、お昼に動けないと困る。あまり降るとあとの雪かきが大変なのでた意外なところで降りやんでほしいと思うが、そういう要望をなかなか冬将軍様は聞いてくれないので困る。

今年読んで面白かった本、今日は9月から12月まで一気に。というか、本当は一回でやってしまうような企画だと思うのだけど、やっているうちに面白くなってしまったのでゆっくりになったし、この一年の間でも自分の考えていること、やっていることはずいぶん変わったんだなと実感を持ったので、それを振り返るのが楽しかったということもある。8月まででも十分面白かったが、9月からが変化の本番だということが読み返しながら実感した。

ガラスの街
ポール・オースター
新潮社

8月に久しぶりに300枚を越す小説を上げたのだけどそれはいろいろと懸案が残り、それについていろいろ考えたり何を意識しながら書けばいいかというようなことを9月は考えながらいろいろなものに触れていたようで、読むものが大体何でも面白いという時期に入って来たようだ。その中でフィクションで面白かったのがオースター『ガラスの街』、タブッキ『インド夜想曲』、カミュ『異邦人』。『ガラスの街』はミステリーでもこういうのなら読む気がするなとか。『インド夜想曲』は生きるということと旅。『異邦人』は自由とは何か。いろいろ考えさせられた。自分の小説のスタイルへの影響が一番考えられるのは『インド夜想曲』かなと思う。エッセイでは野口昭子『時計の歌』、マンガではヤマザキマリ『テルマエロマエ』。

インド夜想曲 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
アントニオ タブッキ
白水社

この時期には自分の考え方の根本にあるものを問い返し始めている。それは今でも続いていて、『バガヴァッド・ギーター』なんかを読んでいるわけだけど、自分はすべての存在を疑っていて、じゃあ何に頼ればいいかと言うと、そうだ、自分でやるしかないんだ、みたいなことを考えていて、「われ思う故に我あり」というのはそういうことなんじゃないかなと思ったりしていた。

音楽は相変わらずショパンを中心に聞いていたが、アンジェラ・アキの『LIFE』が出てポピュラーも少し聞いたことと、野口晴哉の本を読んでウラディミール・ド・パハマンというピアニストに興味を持って聞きだして、野口昭子が『時計の歌』でそれに触れていることを知って読みこんだりしたことを思い出した。リパッティとかパハマンとかSP時代のピアニストには何か古怪な魅力があって魅かれるものがある。

異邦人 (新潮文庫)
カミュ
新潮社

名作と言われるものや時代を風靡した、変化させた作品を一通りチェックしようという意識をこの時期の少し前から持っていて、『異邦人』を読んだのもその一環なのだけど、小説だけでなく映画も見ようと思って見始めたのが9月だった。映画で印象に残ったのはゴダール『勝手にしやがれ』とルーカス『スター・ウォーズ』三部作。世に流行しているものに影響されるのが嫌だという意識がとても強くて、今まであまりメジャーなものは見ないようにしていたのだけど、ようやくその禁を破って『スターウォーズ』を見た。少しずつ自分の防衛的なものの中のやや過剰な部分を開いて少し風通しがあるようにして行く方向へ動き始めた。『スターウォーズ』は自分にとってすごく面白いというほどでもなかったけど、みたことで世の中の作品の中に含まれている私が理解できなかった「成分」みたいなものが分かって、そういう意味で世の中をより理解できるようになったという理由でとても意味があったと思う。『テルマエ・ロマエ』を読んだのも、流行っているうちに流行りものを読んでおく意味があるなと思ったことも大きい。流行りものを読むと今という時代については理解が進むことは確かだと思う。

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)
ヤマザキマリ
エンターブレイン

『勝手にしやがれ』は思ったより、というか思った以上に面白かった。他にも『気違いピエロ』とか『大人は判ってくれない』とかも見たけどそれほどでもという感じだった。

***

10月が今年一番すごい勢いでいろいろなものを吸収した月だった。その中で自分のメルクマールになる短編を一作、書けた。記念すべき月。

映画に関して(自分の中で)エポックメーキングなのが『風の谷のナウシカ』以降の宮崎駿監督作品を一気に全部見たこと。ジブリも今まで一本も見ていなかったので、まずは甲野善紀氏が絶望の淵に落ちたという『もののけ姫』から見た。そしてなだれ落ちるように『ラピュタ』『ナウシカ』『トトロ』『千尋』『ポニョ』『豚』『ハウル』『魔女』と半月で全部見た。その中で『エヴァ』や『スカイ・クロラ』『タイタニック』も見ている。でもジブリ以外で面白かったのは『スカイ・クロラ』だけだった。

宮崎の作品を見て、自分の中ですごく共感するものがあって、自分のやりたいことに一番近いことをやっているのは実は宮崎なんじゃないかと思った。宮崎は思想信条主義主張の面では私とはかなり違うけれども、創造というレベルではすごく魅かれるものがあり、それは今でも変わらない。

黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集〈1〉ゴシック編 (新潮文庫)
エドガー・アラン ポー
新潮社

小説ではポーの『黒猫・アッシャー家の崩壊』。ただこの短編集、面白く感じるものとそうでないものの落差があって、まだ全部読んではいない。「黒猫」と「赤き死の仮面」は私はとても好きだった。中でも「赤き死の仮面」は小学校に入る前に読んだことがあって、実はポーの作品だったということを初めて知った。全部読んでない本を「面白かった」と上げることはまずないのだけど、この本はやはり上げなくてはならないと思う。

小説家という職業 (集英社新書)
森 博嗣
集英社

小説系ではまず森博嗣の『小説家という職業』をはじめとする3作品。この作者にはものの考え方において共感するところがすごくあって、かなりいろいろなものを得たと思うし、10月から12月にかけて取り組んだ300枚ほどの作品のなかの一つのモチーフも得ているので、自分にとって大きい。それから村上春樹『若い読者のための短編小説案内』。作品紹介も面白かったが、短編に取り組む姿勢みたいなものを書いてくれてあったのがとても参考になった。

必生 闘う仏教 (集英社新書)
佐々井 秀嶺
集英社

そのほかでは佐々井秀嶺『必生 闘う仏教』。インド仏教の指導者の日本人の破天荒な人生は『破天』があるが、本人の日本での講演がこの『必生』。すべての人が読むべき、と感じさせるような本。小西浩文『勝ち残る!腹力トレーニング』他1作。生きるために体と心について大事なことが書いてある、という感じだった。

いい顔してる人
荒木 経惟
PHP研究所

あとは荒木経惟『いい顔してる人』。荒木作品やエッセイというのは自分にとってはやや読みにくいものなのだけど、この本で初めて荒木の魅力を受け入れられた気がする。すごいとは思っていても自分としてはどうかという感じがずっとあった。サンデル『これから正義の話をしよう』正義の概念の三つの柱として「自由・幸福・美徳」を上げていたり、正義という概念についてかなり整理してもらえたことはありがたい感じがする。これも共感できないところもかなりあったけど、ロールズの思想やその延長線上に出て来るアファーマティブ・アクションの考え方などを少しは理解できるようになったのもよかったかなと思う。

風の谷のナウシカ 1 (アニメージュコミックスワイド判)
宮崎 駿
徳間書店

マンガでは宮崎駿『風の谷のナウシカ』1~7巻。アニメより広い世界を描いていて、『ラピュタ』にもつながるものを感じた。文明と個人という問題について考えさせられる。考えてみれば自分の最近作でも同じ問題を扱ったけど姿勢が全然違うな。まあ「文明」のあり方自体が違うのだけど。それからアサミ・マート『木造迷宮』。女中さんもの。この作品はなぜか私の創作心をくすぐるものがある。きづきあきら『セックスなんか興味ない』。その後人間が生きることにとってのセックスの意味みたいなものを問う作品をたくさん読むようになったけど、そのきっかけになったもの。この問題に私が今踏み込むことが出来るかどうかは何とも言えない。

***

現代霊性論
内田 樹,釈 徹宗
講談社

11月は基本的にただひたすら小説を書き続けた。その中で読んだ本の数は多くないし、いまの自分に受け入れられないと思ったらさっと読むのをやめたので読み切ったものも少ない。小説ではこれというものがない。他の本では、内田樹・釈徹宗『現代霊性論』。戦後から現代日本の宗教シーンについて基本的な理解が得られたという感じ。このあたりのところ、実は自分のあり方という視点から見ても無視できないところがある。もう一冊印象に残ったエマーソン『自己信頼』とともに、また考えなければいけないかもしれない。性よりもまず神とか我とかについて考える方が自分にとっては先かもしれない。

自己信頼[新訳]
ラルフ・ウォルドー・エマソン
海と月社

本以外では『魔女の宅急便』のDVDを買った。こういう作品が作りたい、と言うのに一番近いのがこれかなと。どういう子どもをどういうふうに応援するか、というところはかなり違うが、自分の今回の作品はそういうものになった。見たものでは同じくジブリの『耳をすませば』と『猫の恩返し』。『耳すま』はすごく好きだった。『猫』ものんびりしたところがいい。高畑勲の作品も少し見たけど私には合わない感じがした。CDでは『スタジオジブリの歌』と『モーツァルトバイオリン協奏曲集』。後者はツイッターで江川紹子さん関係で読んで買ってみたもの。この両方とも、車に乗っているときによくかけている。というわけでわりとあっさりと。

***

虫眼とアニ眼 (新潮文庫 み 39-1)
養老 孟司,宮崎 駿
新潮社

いよいよ12月。時間をかけて小説を読み直し、書きなおしていた。まだ12月は終わってないし、読みかけの本とかもあるので総括はまだ早いとは思うのだけど。小説では『KAGEROU』を読んでいるが、今のところそう面白いとは思わない。そのほかの本では養老孟司・宮崎駿『虫眼とアニ眼』宮崎が何を求めているのかがよくわかる。山崎将志『残念な人の仕事の習慣』。残念な例よりも、これはいいな、と思う例がいくつも上がっていてそれが面白かった。

芸術闘争論
村上 隆
幻冬舎

しかし最も印象に残ったのは村上隆『芸術闘争論』。現代美術の見方、みたいなものがこれですっきりしたし、芸術というものが社会の中にどう存在すべきなのかということについてもかなり腑に落ちた感じがする。芸術は逃避行の先にあるものではなく、行って帰って来る場所であり、社会や自分を映す鏡でもあるし、エネルギーがもらえるものでもある。芸術は闘っているし、それは生きるということは闘いを避けることが出来ない部分があるからでもあって、そういうことが確認できて元気が出る感じがした。とてもいい本。

バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)
上村勝彦訳
岩波書店

あとは読みかけの『バガヴァッド・ギーター』と、上村勝彦『バガヴァッド・ギーターの世界』。「われ」はあるのかという問題(ヴェーダ哲学以来の梵我一如=有我論と、仏教的な無我論の対立)について、ヴィヴィッドに考えられる感じがする。私は今まで無我論的な思想を持ってたけど、有我論の方が心の底では納得できるんだなということが最近分かって来た。この辺についてもう少し考えたい。多分作品にもそういうものは出てくるだろう。というか、作品を書きながら考えることになるだろうと思う。

映画では、久しぶりに映画館に行ったということが大きいが、トラン・アン・ユン監督『ノルウェイの森』を見た。これについてはつい最近書いたが、久々に映画として面白いと思った作品だった。

誰にも言えない
シギサワ カヤ
白泉社

マンガではシギサワカヤ『誰にも言えない』二宮ひかる『アイで遊ぶ』ヤマシタトモコ『HER』。女性の方がセックスについて自分を掘り下げて考えていく深さがあるなと思う。あとは市川春子『虫と歌』こういう世界もいいなと思う。

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)
市川 春子
講談社

さてとにかく一気に書いてみた。エネルギーがあったらまた今年全体を振り返って印象に残る作品ベストいくつかをやってみたいと思う。

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