今年読んで面白かった本(7・8月編)

Posted at 10/12/29

昨日。午前中は松本に出かけ、操法を受ける。行きは高速で岡谷から塩尻北まで乗ったが、帰りは久しぶりにずっと下の道を走った。乗ってもETC割引だと250円とか350円とかなので乗ってもいいのだが、下の道は下の道でいい。渋滞に引っ掛かるときはあるけど。昼食を取って仕事。そのまま夜10時まで。このシーズンは忙しい。夕食を取って風呂に入って自室に戻ったら布団を敷く前にかなりうたた寝をしてしまった。

「今年読んで面白かった本」の続き。7月に読んで面白かった本、印象に残った本はまず東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』。それから本というか、雑誌『考える人』に掲載された村上春樹ロングインタビュー。

クォンタム・ファミリーズ
東 浩紀
新潮社

『クォンタム・ファミリーズ』はツイッターで東氏をフォローしているということもあって話題になっていたので読んだのだが、小説というものもこんな書き方があるんだなあと思わせてくれた作品。彼の評論家としてのバックボーンがかなり前面に押し出されてきていたのでそのあたりを理解しようとネグリ・ハートの『帝国』を買ってみたり『米軍再編』とか『グローバル資本主義と日本の選択』というブックレットを読んでみたりした。まあしかしこのあたりはもう7~8年前に読んでおくべきもので、世界はもう次のステージに進んでいるという感じもする。最近、「読むべき時に読むべきもの」があるということ、「書くべき時に書くべきもの」があるということを強く感じるようになってきた。世界から、あるいは自分自身からも自分を隔離して自分の充実を図らなければならないことがあるという前提に立った上で、世界に参戦して生きるということはタイミングというものが重要だと感じている。内容としては、ショッピングモールの惨劇の描写とかがリアルだったなという記憶があるが、物語の結構は理屈ではわかるが感覚的にはつかみきれないものがある。まあそういう部分が「先を行く」小説には必要なんだろうなとも思う。

考える人 2010年 08月号 [雑誌]
新潮社

『考える人』の村上春樹ロングインタビュー。読み直してみて、このインタビューを読んだことは自分にとってすごく大きな影響が与えられているなということに気がついて驚いた。村上と言う人は私と主義主張は相当違うのだが、井戸を掘っていくとかなり近いところに出て驚いた、という感じの人だ。実際、自分がものを書くときの考え方とか方針とかのところで無意識のうちに相当取り入れているところがあると思った。また、「自由」とか「オリジナリティ」についての考え方が似ているところがあって、面白いなと思った。結局私は村上をかなり信用しているんだなと思う。

この時期、希望と尊厳の再配分とか、自由と尊厳の対立とか、そういうことを考えた覚えがある。『ゲゲゲの女房』を毎朝見ていた記憶もある。

8月はかなり収穫があった。読んだ順番に書いていくと夏目漱石『三四郎』、村上春樹『東京奇譚集』、赤染晶子『乙女の密告』、『小川洋子対話集』。それからこの本で対話をしているレベッカ・ブラウンを4冊読んだ。今年新たに出会った作家では一番印象が強かったのはこの人かもしれない。マンガでは大原由軌子『京都ゲイタン物語』、山岸涼子の短編集『白眼子』『常世長鳴鳥』、それから恒例の塩野七生『ローマ人の物語 キリストの勝利』。月によってだいぶバラツキがある。

『三四郎』を思い立って読んでみた理由がよく思い出せないのだけど、今まで読んだ漱石の中で私はこれが一番面白いんじゃないかと思った。人物一人ひとりがネタになる感じの人が出てきて、みなそれぞれの意見を言ったりうーんと思うような行動をしたりする。漱石が受けるのは本当はこういうところなのかもしれないと読んでいて思った。

三四郎 (新潮文庫)
夏目 漱石
新潮社

『東京奇譚集』は最初はどうということなく軽い気持ちで読んで、最後の方になって唸らされたという感じ。短編集の順序の付け方とかの参考になるなと思う。連作としての短編集の作り方に関しても。もう村上に関しては常に学ぶ姿勢で読んでるなということに改めて気づく。

東京奇譚集 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社

『乙女の密告』芥川賞作品。2000年以降の受賞作はすべて読んでいるのでその流れで読んだのだが、これも今までの芥川賞の流れからはちょっと離れたところにある感じで、こういうものが受賞するということ自体が面白いと思った。

乙女の密告
赤染 晶子
新潮社

『小川洋子対話集』対談本だが、これは次に書くレベッカ・ブラウンを知ったことが特に大きい。あとは江夏豊と佐野元春。

小川洋子対話集 (幻冬舎文庫)
小川 洋子
幻冬舎

レベッカ・ブラウン。この人の書くものはとても面白くて、短編集では『わたしたちがやったこと』、エッセイ集では『若かった日々』、実録ものというか死の記録というかでは『体の贈り物』と『家庭の医学』。完全なフィクションの『わたしたちがやったこと』もいろいろと考えさせられて面白かったが、エイズ患者のホスピスをやった経験を記した『体の贈り物』という本は圧倒的なすごさがあった。また、彼女の人間形成がよくわかる『若かった日々』も面白かったし、母の死を記した『家庭の医学』もよい。二冊に絞れば『体の贈り物』と『わたしたちがやったこと』になるかな。

私たちがやったこと (新潮文庫)
体の贈り物 (新潮文庫)
レベッカ ブラウン
新潮社

『京都ゲイタン物語』は、若きクリエイター達の煩悩と逸脱と努力の日々が描かれていていろいろ思わせられた。自分が大学生のころは全然別次元のことをやってた気がする。

京都ゲイタン物語
大原 由軌子
文藝春秋

山岸涼子の短編集は、正直どれもはずれがない。

白眼子 (潮漫画文庫)
山岸 凉子
常世長鳴鳥 (山岸凉子スペシャルセレクション 7)
山岸 凉子
潮出版社

このころには自分が書くことについて何か質的な転換が起きていた時期だと思う。まだまだ試行錯誤は続いているが、7月に一つの300枚ほどの小説を完成させて、それについていろいろ振り返ったり何を書きたいか自分の中で卵を温めていたような時期だった気がする。

***

ちょっといろいろずらずら書きすぎたが、他の月の面白いものと同じレベルのものという選択になるとこんな感じになってしまった。

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