『もののけ姫』
Posted at 10/10/12 PermaLink» Tweet
今朝は朝のうち雨が降ったりやんだりだったが、さっきは一時強い朝日が窓から入ってきていた。今はまた曇りガラス越しに薄暗い空が見えるだけなのだが、だんだん天気はよくなっているようだ。
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昨日は一日『もののけ姫』と格闘していたような感じ。一昨日の夜借りてきて休み休み一時間ほど見て寝たが、後半部分に入っても少し見ては受けとめ、少し見ては受けとめという感じでなかなか一気に見られない。劇場で見たらいっぺんにたくさんのものを叩き込まれるんだなあと思うが、最近は映画館も行ってないのでゆっくり自分のペースで見ている。昔だったら受け止めきれない部分をちゃんと受け止めようと思ったらもう一度映画館に足を運ぶしかなかったんだろう。
前半を見ているときは、昨日も書いたがこれはどういう映画なのかということをいろいろ自分の中の知識を総動員しながら受け止める枠を作ろうとして見ている。私も異界の存在をよく作中に出すが、「もののけ姫」をみていて思ったのは、そういう存在が基本的に登場人物の生死に関わるものでないとちゃんと対峙できないということ。そういうものにからかわれる、というような話を書いたことがあるが、それだけでは話はあまり面白くならないということかなと思った。
山の中のタタラの村は、宮崎駿らしいオリジナリティのある造形といっていいのではないかと思う。女護が島的な感じと、桃源郷的な感じと、大菩薩峠に出てくる共同体的な感じと、普通は女人禁制のタタラで女性のみが働いているという設定。桃源郷とは違い隠れ里ではあるが武装した集団。こういう設定は多分宮崎独自の思想的なものがあるだろう。
この作品世界で多くの部分で共通するものを感じるのは諸星大二郎だ。サンの存在はマッドメンを思わせる部分が多い。山犬の洞穴は『西遊妖猿伝』の水蓮洞。その当たりまでは何に似ている、これはこういうものと似ている、という感じで構造的にいろいろ引っ張って来ながら見ていた。
大きく言えばこの話は自然の生命力の礼賛とそれを滅ぼしていく人間と自然との対立、ということだけど、そこにこういう共同体をはさんで、共同体を狙う武士勢力やシシ神の首を狙う「天朝」を背景にした行者、といういくつもの勢力を絡み合わせ、自然神の世界も山犬のモロ、猪たち、猴々がそれぞれにシシ神を守ろうと戦い、その共同戦線のもつれから破局がもたらされる、という構想の壮大さは、私の見た・読んだ限りではほかに似たものがない。ここまで来てこの映画のスケールに始めて圧倒され、その世界に入り込んで行かざるをえなかった。
そして最後にシシ神は死ぬ。これは生命力に満ち溢れた太古の原生林が滅びるということの謂いだなと思う。原生林が一度滅びれはそれが蘇るまでには悠久のときを必要とするわけで、「シシ神は死んだ」(サン)というのも、「いや、死んでいない」(アシタカ)というのもどちらも本当といえるのだろう。しかし、人間の歴史のスパンである数百年の単位でいえば、シシ神は死んだというべきなのだろう。
昨日はいろいろなことをしたのだけど、寝て起きて夢の中のイメージは大部分が「もののけ姫」に占領されていた。ここから多くのものを汲み取らなければいけないという思いと、いつかこれを越えるものをつくりたいという思い。5分間の制作費が1億円、という作品を越えたものを作るのは容易なことではない。エリザベス・テーラーの『クレオパトラ』の豪華なセットとは全然違う金のかけ方だが、いろいろな意味でありったけのものがこの作品につぎ込まれていることは見れば納得せざるを得ない。
この物語を貫く縦糸は主人公アシタカなのだが、彼はスーパーヒーローであるけれどもそれが受け入れられるのはタタリ神の呪いにより死すべき運命を背負わされ、エミシの村を追放されて西に自らの運命を背負わせたものを「曇りなき目で」見に行こうとする存在であるからだろう。常に人と自然の和解を求めるアシタカの行動も、そこにしか自分が生きていく可能性が見出せない(文字通り死んでしまう)存在であるということによって絵空事の楽天的理想主義から救われている。よく考えられた設定だと思う。また、女たちが元気な桃源郷も、製鉄という人為の塊、すなわち自然破壊によってもたらされ、外部からの攻撃に対しては常に命を張って武装して戦う、そうした存在として存在が許される。カリスマ的な女性の支配によってそれが護られているという一点だけで成立させるには少し難しい存在だが、とりあえず物語内存在としてはないわけでもなかろうとは思う。
アシタカがカヤにもらった玉の小刀をサンにやってしまうのはどんなものかということと、最後にタタラの村に残ってエミシの村に帰らないことはどんなものかということは思ったが、やはり、最初「掟によって」見送らない、といわれて村を出るということは、「追放」ということなのだなと後で納得した。アシタカとサンの後日譚は嫌でも想像してしまうが、シシ神の死よりも大きいことは起こりえないわけだから、それはないほうがいいのかもしれないなと思う。
この作品は私の両親も劇場で見て感銘を受けていたし、甲野善紀氏が多大な衝撃を受けたことを氏のサイトで語られているが、それだけのものは確かにあると思った。
***
『もののけ姫』のちょうどクライマックスを見ているときに友人から電話が来て、午後会うことにする。残り20分ほどだったのでとにかく最後まで見て、支度して、出かける。昨日は日差しが強かったので、今年初めて帽子をかぶって出かける。夏にはかぶらなかったのに、夏が戻った日にかぶるというのも何だが。新御茶ノ水にでてがいあプロジェクト3階でお茶。中国に行った話などし、最新作を読んでもらっていろいろ感想を聞く。自分では見えにくいところが見えてきてありがたい。神保町で本を見て壱真珈琲店で続きのおしゃべり。御茶ノ水まで送って駅前の丸善でいろいろ本を探す。
なぜ日本人は落合博満が嫌いか? (角川oneテーマ21) | |
テリー 伊藤 | |
角川書店(角川グループパブリッシング) |
買ったのはテリー伊藤『なぜ日本人は落合博光が嫌いか?』(角川Oneテーマ21、2010)と森博嗣『小説家という職業』(集英社新書、2010)前者は落合という人間を描きたい、それを読ませたい、という執念が感じられる作品。後者は以前立ち読みでぱらぱら読んだことがあったが、小説というものを立体的に考えられる作品であるように思った。いずれにしても自分の人間観とぶつけながら読むことで得るところがありそうなもの、ということで買ってみたのだが、それが当たりかどうかは最後まで読んでみないとわからない。
小説家という職業 (集英社新書) | |
森 博嗣 | |
集英社 |
帰りに西友によって夕食の買い物。午前中にアリオ北砂の有機栽培米の店で買ってきた新米を炊くことにしたので久々に味噌汁も作る。炊いている途中で別の友人から電話がかかってきて火加減を見ながら話をした。人間をどういうふうに見るのか、というところに焦点を当ててみると、いろいろなことが見えてくるものだと思う。
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