サン=サーンス交響曲3番「オルガン付き」と芝居の記憶/もう一度戦いたい場所に立つために
Posted at 10/10/07 PermaLink» Tweet
友人とツイッターで話していて、21年前に自分たちでやった芝居について話していたのだが、その内容を全然覚えていないことに気がついて驚いた。21年前といえば確かにだいぶたってはいるが……考えてみれば私はまだ27歳か。やっぱりかなり前だな。
サン=サーンスの交響曲3番、「オルガン付き」。確かにこの曲は聞いた覚えがあるし、何か芝居で使ったことがあるのになぜ思い出せないのだろうと思っていたのだけど、つまりはこの曲は心の中で封印されていたのだ。そして昨日の朝、FMで偶然聞いたことによって封印が解かれたのだ。
サン=サーンス:交響曲第3番 | |
デュトワ(シャルル) | |
ユニバーサル ミュージック クラシック |
ツイッターがなければ、こんなこと誰に聞くということもなく、再び忘却の彼方に入っただろう。だいたい、曲は聞いたことがあるということは聞いているうちに分かったけれど、曲名は聞けなかったから、ネットで調べることが出来なければ曲名さえ分からず忘却されていただろう。そういう細い糸をたどってあの芝居にたどり着くと言うのは、それを今考えなければいけない何か必然性があったのだろうと思う。
あの芝居は自分にとっても大きなターニングポイントになった。
台本自体は、私自身愛着があったので、たぶん何度も読み返したし、ノベライズしようと思ったこともある。もともと『古事記』に出てくる眉輪王の説話をもとに構成した話で、その構造をもとに旧家の内紛の話にした。台本を書くときとか芝居の骨格を作ろうと言うときはいろいろどんなことをしたか思いだすのだけど、実際の舞台をほとんど覚えていない。
もちろん今考えると台本としても不十分なところの多い作品だったが、ネットを始めてからもしばらくその主人公の名をハンドルネームとして使っていた。今でもその時代にネットで知り合った人からはそのハンドルで呼びかけられるときがときどきある。
それからしばらくは芝居を続けて、自分の台本で3本、うち一本は自分で演出もして上演したけれども、諸般の事情で続けられなくなった。それでもいつかまたやることもあるかもしれないと心のどこかで思いながら何年もたって行くうちに、そのことに現実感が失われて行くということになってしまった。
とはいえ、昔話ばかり書いていても仕方がない。ただ、これは一度自分の中ではっきりさせておかなければならないことだったんだと思う。芝居はあきらめても――自分の中で完全にあきらめ切れたと言えるかどうかは分からないが、実際上相当困難ではある――、書くことはあきらめられない。舞台に立てないのであれば、私は書くことしか残されていない、ということだなと思う。
その後いろいろなことがあって、教員の仕事をしながら芝居もしばらくはやり、それを一度あきらめてからもう一つの夢だった大学院にも行ったがそれも実力不足で続かず、仕事も続かず結婚も失敗して、その後はいろいろなことをやりながらいろいろなものを書くことに試行錯誤してきた。いま自分の歩みをいろいろと総点検している中で、記憶がおぼろになってしまったけど大事なことが、あの曲の背景にはあるんだということを再確認した。
あのころできなかったこと、できなくなったことを今続けるのではない。その後の21年間で自分の中でもいろいろあったけれども、確かに自分の戦いたい場所で戦っていたあのころのことは自分にとっても重要な記憶で、そこをごまかしたら再び戦いたい場所に立てないだろうと思う。いま戦いたい場所は、まだもやもやと見えない部分はあるが、あのころとは違うだろうと思う。表現そのものではないけれども、あのころできなくて今は少しはできるようになったかなということもある。もう一度戦いたい場所に立つために、自分を鍛えなければいけないと思う。
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