今に残る進駐軍文化の影響
Posted at 10/09/18 PermaLink» Tweet
「進駐軍文化」という言葉を谷啓について書いたときに使ったが、考えてみると「進駐軍文化」の影響は芸能スタイルの問題に限られるものではない。アメリカと死力を尽くして戦った日本が敗れた時、多くの人は虚脱感に陥っただろう。そして様々な価値観が失われた時、それを提供したのが進駐軍だった。そういう意味で、戦前と戦後の文化の断絶というものは甚だしい。考えてみれば、日本国憲法そのものも進駐軍文化そのものなわけだ。戦後65年たっても日本国憲法を維持しているということは、日本はいまだに進駐軍文化を骨格において維持し続けているということになる。
戦後、これからは科学の時代だ、と思った人々は多かった。戦時中の精神偏重主義への反発もあっただろう。合理的なアメリカ的な進駐軍思想が魅力的に感じられる条件はそろっていたように思われれる。「科学的社会主義」が絶大な人気を誇ったのも、そういう条件下であっただろう。アメリカへの憧れは、科学への憧れであり、豊かな生活への憧れであり、自由への憧れであり、世界への憧れでもあった。進駐軍が日本に及ぼした影響は絶大なものがあった。
中には進駐軍自体がプログラムした成果、戦争犯罪宣伝計画(War guilt information program)で戦前の日本が極悪であったというイメージを日本人自身に植え付けると言ったこともあったが、日本人が自発的に進駐軍から吸収したものの方が実際には多かったのではないか。また、六三制の実施や復員、ベビーブームなどによって一気に文化の恩恵を受ける階層や人口が巨大化したことも大きかった。戦前の文化の輝きというのがあっという間に遠くの小さな星になってしまい、進駐軍文化の巨大な太陽の前には昼間の星のようになってしまったのではないかと思う。
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午前中、オードリー・ヘプバーンとフレッド・アステアが出ている『ファニーフェイス(日本公開時の題名は『パリの恋人』)』を見ていたのだが、アステアはやはりダンスはすごいし歌も魅力的だ。それを見ながら立川談志がアステアを絶賛していたのを思い出した。彼もあの時代のアメリカ映画やアメリカの芸人の話をしたら止まらなくなる。以前MXテレビでやっていた『談志陳平の言いたい放題』という番組でしょっちゅうその話をしていたが、考えてみれば小学校高学年で終戦を迎えた世代にとって、これから価値観の根本を作ろうと言う時に洪水のような進駐軍文化を浴びさせられたら、誰でも強い影響を受けあるだろう。
私の父なども科学少年になったし、後年まで科学というものの価値を疑うところのまったくない人だった。考えてみたら、日本が戦争に負けなかったら、進駐してきたのがアメリカでなかったら、そうはならなかったことというのはたくさんあるのではないかと思う。多くの人は進駐してきたのがアメリカであったのは幸運だったというし、他の国が、たとえばソ連や中国が進駐してきたらどうなっただろうと考えると空恐ろしいことではある。一方で戦後の日本はひどい状態だったとみな言うけれども、もっとひどいことになる可能性はなかったとは言えない。というようなことを考えると、今の日本というのは進駐軍文化の影響を抜きにしては考えられない。
まあ自分の脳髄の中にも知らず知らずに進駐軍文化の影響を強く受けている部分があるなあと思うし、どこからどこまでが影響でどこからどこまでが自分の頭で考えたことかなど分からなくなっている。成長した後で自覚的に受け入れたものではないから、有機的に結びついていて整理も難しい。またその中でもよいものもあれば問題のあるものもあるわけで、まあそういう自分にとっての基準をもとにして整理して行くしかない。
個人の問題に限らず、今後の日本が何を大切にして行くべきなのか、という問題は簡単ではないなと思う。戦前までの文化のエッセンスのようなものも、復活できるようなことがあれば復活してほしいとも思うが、現代文化との整合性という点では相当難しいところも多いだろう。結局博物館的な扱いをされて終わりなのかもしれない。
また、日本が受けた進駐軍文化の影響というのは、日本文化がアメリカ文化と同じになったということとは違うし、共通するものを持っているが故の違和感というようなものも多分かなりある。それでも、日本人が留学して一番上手くやれるのは多分アメリカであろうし、成果を上げやすいのもアメリカだと思う。色々な理由があるが、大きいのはやはり日本の現代文化が進駐軍文化を一つの大きな柱として作り上げられてきた65年の歴史があるからだろうと思う。
そういうことをどのように受け止め、どのように評価すべきなのかは、一筋縄ではいかない問題だ。ただ実態として、そうなっているということから逃げるわけにはいかないと思う。
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