夜中のピアノ/谷啓のインテリジェンス

Posted at 10/09/12 Trackback(1)»

昨日上京。体感としては、だいぶ涼しくなってきた気がする。先週までは東京にいるときは窓を開けたまま寝ていたのだけど、昨夜はちゃんと閉めて寝た。それでもあまり汗をかかずに目が覚めたので、やはり涼しいんだなと思う。今は東側の部屋でブログを書いているが、風がよく通る。季節は確実に移り変わっているのだろう。

ただ、あまり汗をかかなかったのは、睡眠時間が少ないせいもあるかもしれない。いつもそんなに長くはないとはいえ6時間くらいは寝るのだけど、昨夜から今朝にかけては4時間ほどしか寝ていない。1時過ぎに入浴してさて寝るかとなんとなくテレビを見ていたら仲道郁代のショパンの弾き方講座をやっていて、ついキーボードを弾きながら見てしまった。ピアノと違って音を落とせるので深夜でも弾けるというのがキーボードのいいところだ。もともと水曜夜の番組のようだが、BSでは土曜深夜(日曜未明)に再放送ということのようだ。しかし午前2時10分から35分か。毎週見るのは大変そうではある。

フランス中世歴史散歩 (白水uブックス)
レジーヌ ペルヌー,ジョルジュ ペルヌー
白水社

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ペルヌー『フランス中世歴史散歩』100/262ページ。ようやくイル・ド・フランスの章を読み終わり、「巡礼の国オーヴェルニュ」の章に入った。イル・ド・フランスの章は長々とパリ周辺のいろいろな事物について書いている。中世の国王の財物の徴収能力が実に低いということは大変よくわかった。カペー朝時代の有力な国王といえばフィリップ・オーギュスト(フィリップ2世・尊厳王)、フィリップ・ル・ベル(フィリップ4世・美麗王)らがいて、イングランドのジョン失地王との争いの過程などから既にフィリップ2世の時点でかなり中央集権の実を挙げているようなイメージを持っていたのだけど、実際にはヴァロワ朝に入ってルイ11世やシャルル8世の時代になるまで権威とか権力とかはともかく機構としての王権は大変弱かったのだなと再確認した。

もう一つ興味深かったのはパリ大学の話。教授と学生の組合が司教から独立することを教皇から承認されたのが大学の起源で、ということは中世における大学というのはある意味自然発生的に生まれたもので、それが後に権威によって承認されたという過程をとったということなのだなと思う。79~87ページに当時の大学の様子が描かれているが、知っていたこともあるけれども全体像が有機的に結びついていろいろ興味深かった。

碧巌録〈下〉 (タチバナ教養文庫)
大森 曹玄
橘出版

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しばらく読んでいなかった『碧巌録』を帰りの特急で読んだ。六十六則から六十八則。読んでよくわかるとはいえないけれども、少しは雰囲気がわかってきた感じがする。こういうものは丁寧に読むことが大事だなと思う。アンチョコ的なものを読んで理解した気になっても仕方がない。どういうことなんだろうと自分で考えてみること自体に意味があるということだと思う。目の付け所はいろいろあると思う。野口晴哉の『碧巌ところどころ』の読み方が興味深い。独特な見方で読んでいて百年の知己みたいな感じで論じている。私も私なりの読み方ができたらと思う。昨日読んでいたのでは六十八則が面白かった。自分なりに訳すとこうだ。

「お前は誰だ?」
「俺はお前だ。」
「俺は俺だぞ。」
「俺も俺だ。」
 そこで二人は大笑い。

 ……わけがわからないといえばそれまでだが、つまりは自他一体の境地と唯我独尊の境地の自由な往来、ということだと考えた。なんかこのあたりはおおらかで楽しくなる感じがある。

***

谷啓氏死去、78歳。階段で転んだのが死因、というのがあっけないというかでもどこか谷啓らしいという感じがする。谷啓といえば「ガチョーン!」だが、ここは「合ッ掌ーン!」といいたい。ご冥福をお祈りする。

谷啓という芸名はアメリカのコメディアン、ダニー・ケイを文字って付けたということは聞いたことがあったが、改めて昔の映像を見ていると、名手といわれたトロンボーンの演奏やどんなことでも笑いに結び付けられるあのとぼけた雰囲気、とんでもなく凝り性なところなどがいろいろ見られてよかった。面白い人だったんだなあと改めて思う。ビートたけしが「進駐軍のキャンプのドサ回りから始めた」というようなことを言ってたけど、そういう世代というのがあって、今の70代後半から生きていれば90歳くらいの芸能人たちのうち、世にでるきっかけがそうだった人たちはずいぶんいると思う。楽器がやれて、コメディがやれる。クレージーキャッツはそういう「進駐軍文化」の一つの粋だったのだと思う。それが次の世代のザ・ドリフターズに受け継がれて。だから、80年代の初めにドリフから漫才やひょうきん族的なものに笑いの中心が移行したということは、そこで進駐軍文化からある意味伝統的な日本文化に回帰したという意味があったのかもしれないと思う。谷啓はかっこいいけど、その原形はやはりアメリカのミュージシャンでありコメディアンだという感じがする。もちろん、それを完璧にこなして自分のものにはしているし、いつまで経ってもある意味素人的・等身大的・親しみやすさ本位だったドリフとは違うなと思う。インテリジェンスの違いというべきか。なんだか彼は、確固とした「個人」というものを持っている感じがするのだ。いずれにしても、流れ去って行ったものの中に何かきらめくものがあったのだなあと思うし、その事実は覚えていたい。ご冥福をお祈りしたい。

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