洗いあがった洗濯物はひんやりと湿っている/生きのびるのは愛かいのちか
Posted at 10/08/23 PermaLink» Comment(4)» Tweet
ブログを書こうと思って書きあぐねていて、マインスイーパを何度も失敗しながら洗濯物を干したりして、喉が渇いたけどもう牛乳も白湯も飲みたくなかったので、冷凍庫に入っていたギルビーズのジンを取り出し、ショットグラスに注いだら空になった。冷蔵庫に入っていたチンザノのロッソを少し加えて水を注いでバースプン代わりに箸でかき混ぜ、一息で飲み干す。チンザノの甘さがジンの辛さを抑えて、それなりに暑気払いの一杯に。なんとなく頭が停滞して、PCの前に座ってもまだ書きたくならない。またマインスイーパをやっていたら、猛然と汗が出てきた。暑い夏は汗をかいて当然なのだけど、どういう理由かで汗が止まることがある。気持ちよく汗をかいたら、そんなことからブログでも書こうかと思い立ち、ようやく書き始めた。もうお昼をまわっている。
朝は昨日考えたことなどを寝床の中で反芻しながらなかなか起きられなかったのだが、あっと思って飛び起きて時計を見ると7時半。ハイビジョンをつけたらもう『ゲゲゲの女房』がはじまっていたので、45分からBS2で見ることにして、テレビを見ながら布団をたたむ。だいぶ寝汗をかいたので布団を干してシーツを洗うことにする。その前に洗濯機の中に突っ込んだものを洗わないとと思い、タオルや下着を突っ込んで洗濯機を回し始める。土曜日の夜からしか東京にいないのに既に洗濯物はだいぶ溜まっている、汗をかいて限界になるとその都度着替えているのでそういうことになる。エアコンはない。というか数年前に故障してそのまま放置してある。今年はそういうパターンの人が部屋の中で熱射病で死ぬケースが何件かあったが、まあ一日中部屋の中にいるわけでもないし週のうち二日しかいないのだから、とそのままになっている。毎年この時期になると安売りのエアコンを買えば、といわれるのだが、ここまで頑張ったのに今更買うという気にもならない、というのも毎年のことだ。今日は処暑。暑さも一段落、のはずなのだ。開け放しの窓から入ってくる風が、少し涼しい。夏の間はそういう風もあまりない。信州にいるときも最近では部屋の中にかなり大きい風が吹き込むようになって来た。秋は確実に近づいている。秋は気温ではない。風だ。あまりに暑いので上半身裸で作業する。洗いあがった洗濯物がひんやりと湿っているのが腕に胸に心地よい。
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昨日借りてきたり買ったりした本のうち、まず「Folie a Deux」を読んでみる。バージョンが四つ。野中柊訳、柴田元幸訳、それから原書、そしてレベッカ本人による朗読。野中柊訳から読み始め、途中で柴田元幸訳にチェンジし、そして朗読を聞く。どれも最後まで成し遂げられず、昨日は寝てしまった。今朝、朝の家事を一段落させたあとソファにねっころがって柴田元幸訳を最後まで読んだ。途中は少しかったるいのだが、最後まで来てそうかこういう話かと思う。最初から、このラストに向かって突き進んでいるのだ、この話は。邦題は野中訳が「お馬鹿さんなふたり」、柴田訳が「私たちのやったこと」で、野中訳は直訳――なぜか原題がフランス語なのだが――で、柴田訳は書き出しの衝撃を生かそうという付け方だ。
以下はネタバレなので一応たたもう。
私は書き出し自体にはあまり衝撃を受けなかったのでそんなに書き出しにこだわることはないと思ったのだけど、まあ普通は衝撃的なのかな、と思う。二人の愛を確かなものにするために一人は目を潰し、もう一人は耳を潰す。それは愛のためにはいいアイディアだ、と思うだろうか。私は思わない。というか、そこまで賭けるには、愛は不確か過ぎるし、世界が二人で完結するものではない、と思ってしまうからだろう。ただ、愛の陶酔の中にいるときにそれに近い思いにとらわれることは感じとしてはわかる。というか、その陶酔を表現する行為としてそうするならわかる。しかし人間は作品ではなく、陶酔だけでなく日常も生きなければならないし、二人の世界だけでなく多くの人たちの世界の一部としても生きなければならない。まあ結局、物語はその通りに展開していく。あなたはピアニストで、私はアーティスト。目の見えないピアニストと耳の聞こえないアーティスト。文字通り、お互いがいなければ生きていけなくなった二人は、見なければいけない仕事は私がし、きかなければいけない仕事はあなたがする。しかし一歩家を出て、演奏会場に行っても私はあなたの演奏を聞くことは出来ない。絵を見に行ってもあなたはわたしの説明を理解することは出来ない。パーティーに行っていたずらで二人が引き離されたとき、あなたは心の底から恐怖をかじる。そして再び二人は家を出なくなる。私はあなたの呼吸の音を想像した作品の制作に没頭する。そしてその間に、あなたは命を断つ。私は電話で救急車を呼ぶことは出来ても、向こうの応答を聞くことは出来ない。ただただ、同じことを繰り返すだけ。
うーんなんだろう。愛の悲劇、としかいえないのだが、考えてみると、今までの私自身の愛の終わりというのも、いつもこんな風だったかもしれないという気がしてきた。お互いがお互いの愛という牢獄から逃れられないようにすることを強く望み、そしてお互いの罠の中で二人は身動きが取れなくなっていく。目を潰し、耳を潰すというのは一つの比喩に過ぎない。恋人たちは、往々にして相手が世界に接することを恐れる。そこで愛という血が流れ出して、どんどん流れ出して、そして涸れていくことがまざまざと想像できるからだ。しかしいつか、縛りあっていることによって、愛そのものがいのちを失っていく。失われてしまうのは愛かいのちか。いのちを失うことが出来ない者は、愛を失う。愛を失ったものは、命のほうが失われるべきだったのではないかと問い返す。しかしそれはできない。だから、いのちが失われるような恋愛に憧れる。そういう意味ではこれはロミオとジュリエット以来繰り返されてきた悲恋の現代的なバージョンで、あなたも私も男か女かはわからないように書かれている。なんとなく、私は女でありあなたは男であるように柴田訳ではなっているが、でもあなたも女かもしれないと思うところもある。私は女として読むのが自然な感じがするが、そういう男がいても多分そんなに不思議ではない。
幻想的、といえばそうなのだが、あまりにまざまざと想像できる以上、リアリズムだと考えてもおかしくない気はする。『体の贈り物』のリアルな描写が、逆にある種の非現実感を伴うことを考えると、この二つの作品の距離はそんなにないような気もする。
今日は処暑。まだ暑い。頭の中をぐるぐる回っている愛と血について考え続けるには、暑すぎる。
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"洗いあがった洗濯物はひんやりと湿っている/生きのびるのは愛かいのちか"へのコメント
CommentData » Posted by fleurette at 10/08/23
愛が不確かなものだとわかっていたから、目を潰し耳を潰して、二人で一人、互いに離れては生きられない存在となりたかった。それでも愛は完璧にならない。想いが強ければ強いほど、愛の女神が嫉妬して破滅へと導くかのように、それは少しずつカタチを変え、やがて残酷な結末が…。
って感じでしょうか。全然知らないんですけどネ、レベッカ・ブラウン。
kous37さんのテキストを読んで、つい『お馬鹿な二人』を読んだような気になってしまいました。大変失礼致しました。
あ、はじめまして!
CommentData » Posted by kous37 at 10/08/23
>fleuretteさん
はじめまして!コメントありがとうございます。
>kous37さんのテキストを読んで、つい『お馬鹿な二人』を読んだような気になってしまいました。
ありがとうございます。ネタバレですけど、ぜひ読んでください、レベッカ・ブラウン。面白いですよ!
CommentData » Posted by kous37 at 10/08/23
あ、13日にコメントいただいてますね!
再度ありがとうございます。
CommentData » Posted by fleurette at 10/08/23
はっ、そうでした!
重ね重ね、失礼致しました。