オカマバーに連れて行ってくれた先生/理想係と実務係の思いやりとバランス
Posted at 10/08/07 PermaLink» Tweet
昨夜、教員時代の同僚からメールが入り、私が新規採用の時に生徒指導部長だった先生が亡くなったことを知った。わたしは東京都の高校教員になったとき都心部の商業高校に配置され(その高校も、今は統廃合されてなくなった)、生徒指導部に配属されたのだが、その時に部長だった体育の先生だ。一口で言えば、まあ一目見ればというか、一言話を聞けば忘れられない印象を残す類の人で、大学卒業後、しばらく演劇活動を続けながら塾講師をしていた自分にとってはえらいところに来てえらい人に会ってしまったという印象の残る人だった。商業高校の生徒指導というのは文字通りの超めんどくさい生徒指導で、スカートの丈が長いの短いの、髪が茶色いの、かばんを持って来い、かかとを踏むな、的なことをやる種の仕事で私はすぐに自分がこの仕事に向いてないことを悟ったが、何とか一年間ストレスに耐えながら続けた。この年は異常に煙草を吸ったしコーヒーも飲んだ。しかしそれよりも一年間で体重が数キロ増えるほど酒を「飲まされた」。そして率先して私たち生徒指導部員を連れて行くのがこの先生だったのだ。
土曜日ごとに近くの鮨屋(当時はまだ土曜日も授業があった)で飲む。ことあるごとに飲む。色々な場所で飲む。当時の校長がまた特攻帰りで昼間っから校内で酒を飲むような豪傑(今ではありえないな)で、この先生と馬が合ってよく体育教官室でも飲まされた。色々なところに連れていかれたが、一番覚えているのが「オカマバー」に連れて行かれた時だ。あれはゲイバーというよりはオカマバーだな。いや、そういうところに行ったのはその時だけなのでそういう店について知っているわけではないのだけど。何というか、ストレスも多い時期だったけど、その後の人生では経験していないいろいろなことを経験させてもらった先生だった。
私は次の年度から担任になり、その先生と直接の付き合いはなくなったが、その先生はエイズや薬害の指導に熱心で、私のクラスの女子生徒全員にコンドームを実際に棒にかぶせる実習とかをやらせていた。えらいことをするもんだなと思った覚えがあるが、実際彼女らにとっては必要な実習ではあっただろう。そういうことに対するある種の覚悟というものを自覚させるためにも。多分そういうある種破天荒なやり方に対して賛否両論で批判もだいぶあったのだとは思う。退職後はアメリカの大学で学位を取って薬物教育の活動を続けているようにきいていたが、年賀状のやりとりもあったりなかったりで、会う機会もだいぶ少なくなっていた。葬儀は都内でなく熊本の方でやるということで、私は長野県から少し動けない状況なので弔問も行けないし葬儀にも出られないが、元同僚によろしく頼むとメールした。世話になった先生、と書こうとして世話になったのかどうかわからないなと思ったが、やはり世話になったというべきなんだなと書きながら思った。こういう経験が、多分ものを書く上ではどこかで生きてくるんだと思う。ご冥福をお祈りしたい。
なぜ私が田舎から動けないかと言うと、叔父がなくなり、その葬儀が今度の日曜日にあるからだ。あまりそういうことを書かないようにしていたのだけど、この訃報について書くことにしたのでこの件も書いておこうと思ったのだ。色々仕事の上で助けてもらったり、先日はデジタルテレビを買い替えるから古いのをもらってくれと言ってホクホクもらったりした。おかげでジャイキリも見られるようになったし、色々とありがたかった。亡くなる前に一度病院にお見舞いに行ったのだけど、その時は好きなマグロを何枚も食べていて、まだまだ大丈夫だと思っていた。父が昨年亡くなったときは数ヶ月前からものを食べられなくなり、また言葉も喋れなくなって、ほぼひと月前に意識を失いそのままなくなったので、叔父のように好きなものを食べられるのはいいことだなあと思っていたのだ。父は一度入院してから結局家に帰ることなく転院してなくなったけど、叔父は一度退院して家に帰り、家の庭を眺めることが出来たので、それもよかったと思う。これから父の方も新盆で線香をあげに来る客がもうちらほらいるのだけど、この暑い夏に黒い服を着る機会が多いのは何というか。
叔父が気の毒だったのは、一昨年の暮れに高校生の孫を交通事故で亡くしたことだ。涼やかな好青年で将来豊かな雰囲気を持っていた彼を亡くしたことは、叔父にとっても痛恨事だっただろう。その父に当たる従兄夫婦は本当に嘆き悲しんでいて、いまでもその話題になると感情を押しとどめようがなくなるのだけど、叔父もそれ以来元気がなくなってしまった。叔母も一人になるので本当に元気でいてほしいと思う。
ちょうど昨日は広島原爆の日。8月は人の死について考える機会の多い月だ。
来週の金曜日は4巡り目の私の誕生日なのだが、見事に13日の金曜日で、しかも仏滅だ。七曜と六曜が重なるのは確率的には42分の一だが、その数よりも年齢を重ねているからそういう年があってもおかしくはないわけなんだけどね。
春の草 (日経ビジネス人文庫)岡 潔日本経済新聞出版社このアイテムの詳細を見る |
岡潔『春の草』読了。日本の文明は「情操型」で西洋の文明は「インスピレーション型」である、という考えが面白いと思った。なるほど情操の中で少しずつ生まれ育まれて行くのが日本的なものづくりなんだ、というのはわりと新鮮な発想だと思う。ものが生まれるときは「創造」的に、つまり一瞬のうちに何かが降臨して、という印象が私などには強いのだけど、でも無意識の中で情操を大切にしているところもある。私の場合はインスピレーション先行で情操を後付けする、というような形でものを作っているけれども、情操を練り上げてからインスピレーションの降臨を待つ、という行き方もあるなあと思う。ものを書く幅を広げて行きたいと思う。
着想を得て考えを広げ、深めて行く過程が情操が重要であるように思うし、どこかで飛躍が必要な時に向こうからやって来るのが霊感というものだろう。
いずれにしても何かをやるときにはその何かをやりたいという理想が必要だ。しかしその理想を実行するためには必ず実務が伴う。やりたいことをやるためには必ず裏がある。その裏というのが実務なのだけど、その実務と理想のバランスのようなものが大事になって来る。大体においてそういうものは役割分担というか、理想係と実務係のようなものに分かれるのだけど、理想係の人は実務の大変さを無視しがちだし、実務係の人は理想ばっかり言って、とぶつぶつ不満をためがちだ。実務は理想のためにあり、理想は実務に支えられている、ということをお互いによく認識しておかないといけない。政治家と役人の関係というのも本来そういうものだろう。政治家は熱っぽく理想を説き、役人を説得して理想実現のために努力しなければいけないし、役人は自己の利益を図るだけでなく理想の重要性をよく認識してその実現に努力しなければいけない。政治主導というのは事務方のサポートがあって初めて可能なことであるし、事務方に理想も実務も丸投げしていた体制自体がおかしいのだから、そのあたりを立て直すことは意味がある。
そういう言意味では政治家に理想がない、理念がないというのはかなり大きな問題で、どうもその様子を見ていると菅直人と言う人はその点において疑問符がないでもない。民主党の政治家たちもとにかく官僚に上げ足を取られないように戦々恐々という感じで理想を実現しきれていない。いや、正直いって民主党の政策というのはもともと生硬に過ぎて問題が多いと感じるものばかりなのでその辺で政策が淘汰されるのは悪いことではないのだけど、ただその過程で揉まれてグレードが上がった政策をとにかく作り出して行かなければ政治主導の意味がない。官僚にしてやられることを恐れるのでなく、より良い政策を作り上げて、それを実行して行くことにこそ意味があるはずだ。民主党・自民党を問わず、あるいはほかの党も含めて、本当に日本がよくなって行くような政策を、よく練り上げて実行して行ってもらいたいと思う。
なんか話がずれたが、人が何かやりたいことをやるということはそういうふうに、やりたいこと=理想とそれを実行するためのウラ=実務の両方が必要だ。私など、実務がめんどくさいことが分かるとやりたいことそのものにたいしてやる気がなくなることが多いのだけど、それは全く本末転倒だなと思う。やりたいことの実現を妨げている最大の障害は自分自身だ、というのは「宇宙兄弟」のせりふだが、それは私自身も肝に銘じておかなければならないことだと思う。
ああ、なんか久しぶりに語ってしまった。
亡くなったすべての人たちに合掌。今日は立秋。
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