村上春樹は、ひとりでに世界で売れたわけじゃない:『考える人』村上春樹ロングインタビュー三日目
Posted at 10/07/15 PermaLink» Tweet
ここ数日出っぱなしだった大雨警報がようやく解除された。この期間、確かにかなり雨は降ったが、私のいるあたりでは被害が出るほどではなかった。長野県でも下伊那や木曽の方はだいぶ大変だったようだ。こちらはとりあえず、警報が解除されて安堵している。
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『考える人』村上春樹ロングインタビュー、三日目。翻訳や海外での活動の話など。作家論にもおよび、小説家の資質という問題について語っている。「小説家の資質として必要なのは、文体と内容とストラクチャーです。この三つがそろわないと、大きな問題を扱う大きな作品を書くことはできない。」という話。なるほどなあと思う。文体と内容はよく聞くが、ストラクチャーが大事だというのはあまり読んだ覚えはないけど、でも重要なことだなと思う。物語を成り立たせる構造というか、それをどういう構造を採用するかによってその構造に放り込めるものが決まってくる。書きたいことと文体があって、その二者だけである程度のものは書けるのだけど、構造がうまく成立しないとあまり大きなものは書けない。村上の物語の構造は、私が読んだ範囲では、基本的にシンプルだ。村上ではないが、「嵐が丘」とか「カラマーゾフの兄弟」とかはわりと複雑だけど。何ていうか、こういうのはシンプルな方が読むほうが安心して読めるという部分はあるように思う。問題は多分、20世紀の小説家にとっては構造自体に作者にとってのひりひりするような必然性が必要だということじゃないかと思う。この構造なら自分の全てを賭けられる、と思うような構造を掘り当てることがかなり大事だと思う。
村上の作家活動について、目を開かされたのは、彼がアメリカで、自分からかなり積極的なプロモーション活動をしているということ。読んだ人がいて、それが出版の話が来て…というふうな「ひとりでに売れた」、ということだと思ってたらとんでもない。日本で「ノルウェイの森」が100万部売れたとかレイモンド・カーヴァーの翻訳をやっているとかいうことがアメリカでの「名刺代わり」になった面はあったと言うが、基本的には自分でエージェントを選び、出版社の社長にも会い、他のアメリカ作家と同じような形で本を出して行ったのだという。アメリカ人はHaruki Murakamiが日本の作家だという認識がないと言うが、そういうことならそりゃそうだろうなと思う。何しろ、自分の小説の英語への翻訳家を自分で選んで契約し、自分でお金を払って英語の完成稿を用意して、それを出版社に持ちこむというのだから、生半可なことではない。
このあたり、村上隆とかと同じで、文字通り全部自分でやって世界で勝負しているのだから、英語圏の作家と全く同じ土俵で勝負していると言っていい。改めてすごいと思った。村上春樹は、ひとりでに世界で売れたわけではないのだ。
もう一つへえっと思ったのは、彼は早稲田の一文の出身だということは知ってたが、演劇科だったということだ。これはけっこう意外だった。彼は、あまり演劇的な要素を感じない人だからだ。しかし、でも本当は違うのかもしれない。考えてみれば、彼の小説というのは心理的というよりは肉体的だ。音楽が流れていたり、朗読があったり、ある意味舞台で進行する劇のような感じの場面が多い。そういうことをほとんど感じさせないのがある意味すごいと言うか、彼の文体の完成度という問題なのかもしれない。私はもともと戯曲の方を先に書いているので、小説の文体がなかなかできなくて苦労しているのだけど、やっぱりある意味手本になるところが村上の文体にはある。全体的に、読んでいてほんとに収穫のあるインタビューだった。
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