槇村さとる『スタイル・ノート』/ありのままのあがいている人間であり続けたい
Posted at 10/06/10 PermaLink» Tweet
一昨日帰郷。昨日は午前中、ずっと作品の清書をしていたのでブログを更新する暇がなかった。槇村さとる『スタイル・ノート』は読了。これはかなりいい本だった。「スタイル」のことということで、おしゃれルール、買い物ルール、カラダルール、生き方ルールと4本立て。なるほどと思う分かりやすい構成。「お洒落」あるいは「スタイルのある人」であるためにはどうすればいいか。50歳になった槇村さとるが20代から今までの自分をふりかえり、現在の自分の考え方と、そしてこれからの自分がどうありたいかを見通してさまざまなポイントについて書いている。随所に女性ならではの視点があって感心させられる。こだわりポイントや買い物のルールの話も実に参考になるのだが、「からだ」という視点が新鮮。確かに50歳前後になってくると、ますます「美しい」ということと「健康である」ということは同義語になってくる、という指摘は正しいなと思う。
スタイル・ノート (幻冬舎文庫)槇村 さとる幻冬舎このアイテムの詳細を見る |
で、私の今の立ち位置から見て発見だったのは、「おしゃれ」ということ、あるいは「装い」というものが、本質的には「からだ」の問題、身体性の問題なのだ、ということだった。私はやはり「着る」ということが好きで、まあその割にはお金がないので大したものを来ているわけではないし、関心が薄れてくるとヘボいものでも身につけてしまうのだが、関心が薄れてくるというのは自分や他人に対する関心が薄れるということでもあって、確かにこれは自分の調子のバロメーターではある。こういうところは私の中の女性的な要素だなと思うが、本当はタイプの問題で性別の問題ではないのかもしれない。調子いい時ほど服装に気を使わないというタイプもいるが、私はそうではない。また、着るものというものは、やはり来ている「人間」の「身体」を感じさせるものだ。身についていない服を着ていると浮き上がって見えるし、中身がはつらつとしていても着ているものがしょぼいととても残念な感じがする。衣服というのは、身体の延長なのだ。そして物事というのは、末端に行けば行くほど本質を現すという場合もあるわけだ。
私は着るものが好きなのだが、たとえば衣服のデザイナーになりたいとか、そういうことは考えたことがない。洋服を作りたいということも、ない。欲しいものを買って、着たいものを着れれば十分だ。ただこの年になってくると、似合う服が限定されてきているようには感じる。背広を着て過ごす時間が長い種族ではないから、普段着で自分の着たいものの種類が豊富であると嬉しいのだけど、やはり男ものは女もののようには豊富にはないし、面白いものはもう少し若くないと似合わないかなと思うものが多い。安定と挑戦のバランスのようなものを醸し出すのは難しい。一番手っ取り早いのは多分和服なのだが、和服でできる仕事でもない。まあ、普段から和服で過ごせるお大尽になるのが理想といえば理想か。
買い物ルールに出てくる衣服の整理の仕方でなるほどと思ったのは、種類別でなく「色別に吊る」という考え方。どういう色のものを何通り持っているか、という考え方。こういう考え方は自分に近い。ただ、そういう仕方が出来るとは限らないんだけど。麻の生成りに近い灰色のジャケットの掘り出し物があって、それを数年着ていたのだけど、さすがにもうくたびれて着れないとなってから同じような色を探してもなかなかないし、あっても高い。しっかりしたブランド物で値段は抑えめ、というところのバーゲンを狙う、という戦略も結構限界がある。結果、たんすの中を思ったような色のバランスになかなかできない、ということになる。昔は妙なものがたんすの中にたくさんあったのだが、最近では定番的な無難なものが多くなってきていてそれもなんだかあまり面白くはない。ブラックスーツが3着もあるのもなんだか自分らしくないといえばない。
ああ、なんか自分の実態を書いていてもあまり面白くないな。ただこの本を読むと、もっと工夫の仕方はいくらでもあるんだよな!と思える。お金とか手間とか他とのバランスとか、若いころはあんまり考えてなかった、つまりは「安定」というもの、を優先している結果だ。「安定」というのは大事なことなのだけど、あまりそれに囚われていると勇気がなくなる。勇気がなくなることは、いのちがその分不活性になって、何か先々のいのちを今使ってしまっているような、貯金を崩しているような感じがする。
それはうーん、私の場合、自分の精神のバランスを取るということがものすごく大変だ、ということなんだよな。そのバランスを取るために、いつも自分の中に緊張があって、なんだかそれも本末転倒な感じがするのだが、ある意味バランスを崩さなければ前には進めないわけだし、バランスを保って立っていようという感じと、バランスを崩して前に進もうという感じと、いかに両立するか、ということになる。
投資しなければ新しいことはできないが、投資すればお金は減る。お金が減るということは、今の自分をある意味危なくすることだ。その緊張感と、充実感のバランス。安定していれば緊張しなくてすむが充実もしない。そして、緊張は先に来るけど、充実は後からついてきて、やってみなければわからない部分がある。
ただまあ、生きるってことは本来、そういうことなんだろう。一生安穏に暮す、というのはある種の幻想で、それはたまたまそういう時期を経験することが出来たからそういうこともありかなと錯覚しているにすぎないんだろう。いつまでも子どもではないし、いつまでも若くはない。かといって今突然老人になるわけでもない。いまの自分は否応なく今の自分だ。
考えるべきことは、何が自分を未来に連れて行ってくれるのか、ということなんだろうな。具体的な手ごたえを早く得られるように、頑張るしかないと思う。
楽しいことって世の中にたくさんあって、でも、その楽しいことが、自分を未来に連れて行ってくれるとは限らない。それはいわゆる楽しみでもそうだし、仕事でもそうだ。辛くても、自分を未来に連れて行ってくれる仕事というのはある。だから大変な時期というのは、目をつぶって息を止めて全力で突破するしかない。
いや、なんか話がずれた。からだルールのところで「背骨を意識する」とかヨガの話とかエクササイズの先生の選び方とか、健康管理のいくつかの考え方とか、そういう話がとても面白いなと思ったのだ。
結局何が面白いかというと、男というのは、どうも「先生」になってしまうんだな。あるいは、「批判者」になる。もちろん、女性でも本を書くと「先生」になってしまう人も多いし、「批判者」もいなくはないけど、先生でも批判者でもなく「実践者」としてこの本は書かれている。つまり、同じ目線で読めるといえばいいか。つまりこちらが、このあたりは共感できる、このあたりは自分は考え方が違うな、と思いながら引き出しとして利用しやすいように見えて、それでいて著者でなければ書けない視線で書かれているという絶妙さが面白いということなんだろう。
考えてみたら、私が読んでいて面白いと思うのは、男でもそういうタイプの人が多いな。甲野善紀とか、桜井章一とか、彼らは絶対「先生」にならない。そうそう、いつまでも現役の実践者なんだな。ああそうか、私が先生という仕事が好きだし楽しいのだけどいまいち面白くない、自分を未来に連れて行かない感じがするのは、自分自身が実践者という立場を退かなければならないからなんだ。そうかそうか。
まあ考えてみると、このブログも、結局自分が生きている今を等身大というかなるべくありのままに書こうとしているのも、自分が「教えてやる」とか「情報を提供してやる」とか「恩恵を与える」という立場に立ちたくないからなんだなと思う。あくまでも私自身は生きようとして「あがいている」人間にすぎない、自分はそういう人間であり続けたい、と思っているのだ。「教える立場」になって、「いっちょあがり」になりたくないのだ。
そう思いつつものを書くということは、ある意味難しい。自分を権威づけてそれに説得力を持たせ、情報を仕入れて売る、ある意味そういう切り売り的なことや、自分自身の切り売り的なことをするのが、物書きの在り方のある種の定番だろう。「ありのままのあがいている人間」でありながら物書きとして飯を食うということは、困難な細い道だ。ラクダが針の穴を通るような道だなと見えなくもない。
ただきっと、そうして生きなければ、本当の満足というのは得られないだろうなと思う。そういう意味では、そっちに向かってただ進むしかない。「ありのままのあがいている自分」であることに飽きるまで。ということは、たぶん死ぬまで、ということになるんだろうけどね。
ああ、話ずれまくり。でもまあ、とにかく『スタイル・ノート』はいい本だったよ。
今日は木曜日。それも「ピアノの森」が掲載されているモーニングの発売日なので、また早く目が覚めてしまった。5時半に起きてしまったが、6時になるのを待ちかねて職場に出て不燃ごみを処理し、帰りにモーニングとビックコミックを買って帰る。今週のモーニングはかなり面白い。「特上カバチ!」児童虐待編佳境。「ジャイキリ」スタンドにいる選手たちの意味は?「宇宙兄弟」ビンスの泣き顔に泣く。「ルシフェルの右手」≪ああそうか。俺は前にも一度…≫こういうセリフが実感がこもってくる年になったんだなと思う。「イチローとエリザベス」新人。いい。「シマシマ」ウソがあるからぼやけてくる。満たされないことも創作には必要。「僕小」赤ちゃん編オモ。「Ns'あおい」不安と恐怖を打ち消すにはひたすら歩くしかなかった。踏み出すしかない。ただただ自分を信じて。「ピアノの森」審査佳境。「一度目の通過者リストは破棄され…」アダムスキ落選を思い出させて二週間後までサヨウナラ。しかし注目は読者プレゼント。2次審査を通過する12名当てって、コアな読者なら誰も外さないんじゃないか、(笑)狙いすぎない限り。私はオーソドックスに選んで、もう携帯で応募した。何か当らないかな。ワクワク。「ライスショルダー」予想外の人物がダウン。さすがだな。ビックコミック。巻頭が「ゴルゴ13」よく考えたね。「黄金のラフ」マイト最悪。「太陽の黙示録」わかんなくなってきた。「江戸の検屍官」青年誌の連載に慣れてきたという感じ。「S」初めて面白いと思ったな。「築地魚河岸三代目」謎かけ。「上京花日」いっきいっかい。「ダブルフェイス」ウーダンから先は?ビッコミもかなり面白かった。
息の発見 (角川文庫)玄侑 宗久,五木 寛之角川書店(角川グループパブリッシング)このアイテムの詳細を見る |
昨日。本屋に出かけて、五木寛之・玄侑宗久『息の発見』(角川文庫、2010)を買ってきた。他にも『霊の発見』『神の発見』があるはずなのだが、書店に見当たらなかった。『気の発見』を読み終わったら読んでみようと思う。
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