読む快感と読まれる快感
Posted at 10/06/07 PermaLink» Tweet
ブログは誰にむけて書いているかというと、読んでくれる人にむけて書いているわけだが、読んでくれているかどうかはともかく、参加しているリンク集の人がどうしても想定される第一の読者になる。と、そういう人たちが読んでくれそうな文章を書こうとする傾向が強くなり、自分の中ではある種の偏りが生じる。文章というものは、書かなければ存在しないので、書いたものを読めば私の中の何かが現れているけれども、当たり前だけどそれらはすべて自分の中の一部でしかない。
ここに書いてあるものは、自分の「芸」としての文章かというとまあそういう部分もないことはない、というか適当に粉飾しているところは芸といえば芸なのだけど、どちらかといえばもっと生理的なもの、つまり身体的なレベルで書いていることが多い。そればっかりではないが。しかし、書いていて、「こう書いたほうが客観的だしわかりやすいな」という文章がある場合でも、生理的にそれが気に入らない場合はそうは書かず、生理的な好みでこう書きたい、という書き方で書いている。だから、返ってわかりにくく書いている場合もままあるように思う。以前は、なるべくわかりやすく、初めて読む人にもわかるように、ということを心がけて書いていたときもあるのだけど、どうもそういう文章も自分自身に益するところがあまり多くない感じがして、最近はより独りよがりな文章になってるなあと思う。
「作品がすべてだ」、という人がいて、じゃあ「作品」って一体なんだろう、と思ったときに、文章について考えていてもあまりよくわからなかったのだが、舞台について考えてみると、それはつまり「芸」だけでなく、芸と「身体性」とを一体としてトータルで表されたものが「作品」なんだよな、と思う。身体性をより削りに削って、芸だけを突き詰めて、それこそが作品だという考え方もあると思うが、それだとたとえばいわゆる「日本人のピアノ」のように、正確で音はきれいだけれども人の心を打つものがない、というものに落ち込んでしまう可能性もある。表現の幅を広げる、ということは結局は「自分を出していく」ということしかないわけで、それは高度なレベルにおいてではあるけれども、身体性の表出に他ならない。演劇とか舞踏とか舞台芸術においてはそれはわかりやすいし、また音楽とか声の、つまり身体の絡む芸術、また絵画のように「タッチ」の、これもまた身体の絡むアートはそこに回帰していくことはそう難しくはない。追求の仕方によってではあるが、芸をきわめていけば行くほど身体が露わになる、というものもある。
いろいろな舞台を見ていて思うけれども、その身体性と演者との向き合い方というのもみなそれぞれで、舞台上に身体を晒し、見られる快感というものを一つの原動力にするタイプと、逆にそういうものを出来るだけ排除して行こうという方向性があるように思われる。これは歌舞伎などを見ているとすごくよくわかるのだけど。見られる快感と、観客が「見る快感」が一体となったときにある種の幸福感に舞台は包まれる。「スター」の舞台というのは、そういう部分がある。もちろん、みられる側はそんな単純なものではなく、もっといろいろな戦略に基づいた見せ方をしているのが普通だけれども。
まあなんというか、文章を書いていて、昔はやはり「芸」としての文章をいかに書くかということに集中していたのだけれども、ここのところはより身体性に近い部分のことを特にブログなんかでは書いているように思うのだけど、まあそれも無自覚で書いていたので、ちょっとそのあたりのところを意識してみた方がいいなと思ったのだった。
芸でも身体性でもない部分というのは、多分情報ということになるのだけど、まあおそらくたまたまこのブログにやってくる人のほとんどはその情報が欲しいのだと思うのだけど、情報については私自身がほとんど書く気がない。まあ全然かいてないわけでもないし、玉にこのことは絶対書きたいということもあるんだけど。絶対書きたい情報というのはある意味私の身体性の一部であるといえないこともないけどな。
私は舞台においては、見られる快感が原動力になるタイプだったから、たぶん、文章においても読まれる快感というのがさらに書くときの原動力になるタイプではあると思う。舞台では観客がいるから見られているのは生で実感できるが、文章というのは読まれているということはなかなか実感するのが難しい。アクセス数にこだわってしまうのは、多分そういう部分があるんだろうなと思う。しかし、芸として成立しているかどうかわからない身体性丸出しみたいな文章のときはアクセス数が伸びないのも仕方ないなあと思ったりはする。私自身は身体性がよくでている芸とか文章というものは嫌いではないのだけど、嫌いな人は大嫌いだろうしまああまり一般受けするものではないということはわかる。
作家といっても、個性のある文章を書く人というのは十分その人の身体性が文章に表れていると思う。村上春樹もそうだし、三島由紀夫もそうだ。精神性、と思われている部分のうち、多くの部分は本当は身体性というべきなんじゃないかと思うことがある。
まあいずれにしても、文章そのものを、研ぎ澄ます、研磨する方法を、あるいはふくらみを持たせる方法を、何というか自分が納得のいく読める文章にするための方法を、はっきりさせていこうと思う。私がたぶん、とりあえず目指すのは、読まれる快感があって、それと感応して読む快感が生じるような、相互交流のある文章だなあと思う。
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