ライトシーズンとダークシーズン/激しかれとは祈らぬものを
Posted at 10/04/27 PermaLink» Tweet
昨日夜帰郷。今日火曜日に午前中に松本に行く用事があったために慌ただしいが月曜のうちに帰郷した。帰りの特急の中では読むものが五冊あった。平野啓一郎『葬送』第一部下(新潮文庫、2005)、井形慶子『英国式スピリチュアルな暮らし方』(集英社文庫、2007)、佐藤愛子『こんなふうに死にたい』(新潮文庫、1992)、イビチャ・オシム『考えよ!』(角川Oneテーマ21、2010)、それに『日本の文学26 柳田国男・斎藤茂吉・折口信夫』(中央公論社、1969)。最後のものは前も書いたが、折口信夫「死者の書」を読むためだ。あ、考えてみれば全集の文庫本が東京にあったのだからそれを持ってくればよかったのだ。そういうことを考える暇がなかった。
英国式スピリチュアルな暮らし方 (集英社文庫)井形 慶子集英社このアイテムの詳細を見る |
最初の三冊を主に読んだ。井形の本はとても面白い。スピリチュアル、という言葉が入っているのでややアレルギーを起こしそうになるところはあるのだけど、そういうものにニュートラルな姿勢を保って読めば、そういう「文化」というものを素直に感じられる。
5月から10月までを「ライトシーズン」と呼び、11月から4月までを「ダークシーズン」とケルト暦では呼ぶのだそうだ。そしてライトシーズンの始まりである5月1日がメーデーであり、メイクイーン(五月の女王)を選んで悪霊や魔女が眠りに就くライトシーズンの到来を祝う。また10月の終わりには悪霊や魔女がやってこないようにハロウィンをして悪霊を追い払う。10月31日の夜から11月1日の朝にかけてが一年で一番霊的なエネルギーが高まるのだそうだ。そして11月5日のガイ・フォークス・デー。ガイ・フォークスとは17世紀に国王を爆殺しようとしたカトリック教徒の悪人の象徴だそうで、ハロウィンと同じように悪を払うという意味があるらしい。
フランス革命について研究していたときに、革命で植えられた「自由の木」とか「自由の女神」、社会契約を更新するとされる「連盟祭」などの催しがこうした文化的に古い基層を持つメーデーの行事と重ねあわされて行われた、という話を知ったのだけど、その内容があまりよくわからなかったのだが、上の記述を読んでそのイメージが大体つかめた。細かいところの違いはあるだろうけど、革命という人間世界の変容と、悪と善の交代期であるメーデーとが重ねあわされたということは面白いと思う。この人の本は読んでいると、色々想像力を刺激されるところがあるので、読みながらまた色々書いてみたいと思う。現在62/267ページ。
昨日の帰郷前に丸善の丸の内本店に立ち寄って本を物色したのだが、井形慶子という人はけっこうたくさん本を出していて、特に面白いと思ったのが日本の古いメゾネット型のアパートをロンドン的なフラットハウスに改造する、という内容の本だった。これは立ち読みしていてわくわくするような内容だったのだけど、読む本がたくさんあったから買うのはやめた。でも今でも読みたいと思うので、今度の帰京の際に買おうと思う。
こんなふうに死にたい (新潮文庫)佐藤 愛子新潮社このアイテムの詳細を見る |
佐藤愛子という人は知ってはいたけれど、ちゃんと読むのは初めてかもしれない。色々なところで少しだけ読んだことはあったが。彼女の父が小説家・佐藤紅緑、兄が詩人のサトウハチローなのだそうだ。佐藤紅緑という人はイメージがないが、サトウハチローは『百舌が枯れ木で』のイメージが強い。幼いころの死への恐怖の話、死に際し南無阿弥陀仏と三回唱えた父の話、北海道に建てた霊的な問題のある家の話、美輪明宏との交流。この話もとても面白い。まあスピリチュアルっぽくても新潮文庫だし、みたいな感じもあったが、そういう世間体的な逡巡に関係なく、この話はやはり面白い。現在38/158ページ。
葬送〈第1部(下)〉 (新潮文庫)平野 啓一郎新潮社このアイテムの詳細を見る |
『葬送』はだいぶ進んだ。266/364ページ。まあ、ショパンの話でなければ、私が平野啓一郎を読むということは多分なかっただろうなと思う。ドラクロワとかサンドの独白的な場面はどうも自分の神経に触るような感じのところが多いのだけど、ショパンの独白的なところは何というか透明な哀しみのようなものがあってもっと読みたい感じがする。私の中のショパンという人の基調イメージが、「感受性の強さ」と「世間的な無力さ」という感じが強いし、悲劇的なことはこういう繊細な人がサンドのようながさつな(と私には感じられる)女性を好きになってしまったところにあるのだと思う。まあそれも運命だというしかないんだよなあと思うが。ドラクロワの、かたくなな「イタリアかぶれ」への呪詛も読んでてだんだんいやになってくる。ドラクロワ自身のイタリアコンプレックスへの裏返しにすぎないということは作者も十分書いておきながら、その場面におけることの当否はドラクロワに寄り添って書いていて、なんだか甘いことを言って人をそそのかす悪質な詐欺師に引っ掛かっているような感じがするからだ。こういう書き方はサンドの独白の扱いも一緒で、そういう意味でこの二人の記述のところは読んでて不快な感じがするんだなと思う。
深夜の11時半に駅に着き、職場まで歩いて車に乗って帰宅。さすがに信州は寒く、東京では十分な上着もこちらではちょっと足りない感じだった。今日も外を歩くなら、ちゃんとコートを着た方がよさそうだ。朝はそれでも曇っていて、そう億劫な感じではなかった。朝食後、朝一で会計事務所によって決算書に署名捺印など。用事を終わらせて、松本へ。行ってみたら、日にちを間違えていた。参ったなあ。また明日出直さなければならない。大分時間を無駄にしてしまったので高速で帰ってきた。それが11時半ころ。いやあ、この日にちと時間の設定はどうもおかしいなあと思っていたので、土曜日にでも確認しておこうと思っていたのだけど、確認を怠ったのがまずかった。まあ今日は仏滅だし、そのくらいで悪いことが済んでくれればラッキーと考えておくかと思った。でも大分風雨が強くなってきたな。激しかれとは祈らぬものを。
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