自分の中の地層/対位法/『死者の書』
Posted at 10/04/23 PermaLink» Tweet
昨日はずっと激しい雨だった。風が強く、ガラスを揺さぶる音が聞こえた。昨日は午前中は自宅でずっと新しい作品の構想を進める。色々アイディアは出てくる。このところ錆びつかせていた神経を活性化させている感じ。自分の中の眠っていた部分を呼び起こす。それに共鳴して、周りでもいろいろなことが起こる。いいことも不思議なことも。周りで起こっていることの意味がわかることもあれば、よくわからないこともある。謎のままキープしておいた方がいいのか、それをある程度といておいた方がいいのかも。自分という人間が実に重層的な構造をしているのだということが痛感させられる。昨日掘っていた地層からある化石が出てきても、その地層がどの層なのか、今日になったら見失ったりする。それが音楽の方面から掘った場所なのか、文学の方面から掘った場所なのか、それらとは関係なく、自分の妄想的な想像力で掘った場所なのか、そういうことが分からなくなると、「昨日の続き」を掘るのが難しくなる。今日の自分は、昨日の自分とは違う人間になっていたりする。昨日その場所を掘ることで自分が違うものになった部分があって、一晩寝ると生物的な復元性でそこが元に戻っていたりすると、その痕跡をたどって昨日と同じ場所を掘るのが困難になる。あるいは、自分の真摯な思いがいつの間にか形骸化していたり、あるいは、今日の真摯さの置かれる場所が昨日とは違う場所になっていたりする。それは多分、人間というものはみなそうなんだろう。だから、同じ作品に継続して取り組むのは難しいことなのだ。感覚だけでなく、その底流にあるもの、たとえば構造的なものとか原理的なものがしっかりしないと、ある程度大きなものにはならない。
付随して色々なことを考える。考える中で自分の方向性がはっきりしてくることもあるし、逆に混乱してくることもある。混乱してくるときはなるべく考えるのをやめて原点に戻ろうと思う。混乱しているということはたいていの場合は、その方向でいけるところまで行ってしまってそこから先は掘り起こしてもあまり何も出てこないということが多い。しかしそこを突破すれば何か新しいものが見えたりすることもあるわけで、進むかやめるかの判断は常に難しい。私はそういうときの判断が概して余裕のないものになってしまうので、方向転換して次に進むのに手間がかかってしまうのだ。
ショパン:ピアノソナタ第2&3番ポリーニ(マウリツィオ)ユニバーサルクラシックこのアイテムの詳細を見る |
ショパンのピアノソナタ3番を聞いている。ポリーニのピアノ。この曲、聴き方がよくわからないところがあって今まであまり集中して聞けなかったのだが、今週の『ピアノの森』のせりふの中で「対位法的な扱い」ということばが佐賀と雨宮父から出てくる。「対位法」、というのは聞いたことがあったし理解したこともあったのだがよくわからなくなっていて、もう一度ウィキペディアで調べてみたら、要するに二つの旋律が同時に奏でられるということらしい。そういう例ですぐ思い浮かぶのはサイモン&ガーファンクルの「スカボローフェア」だ。あれは二人が同時に違う曲を歌っている。それが一つのハーモニーを奏でている。ショパンの表現は「対位法的」であって対位法そのものではないようだし、ウィキペディアの説明にもルネサンス期の聖歌などから近代にかけて色々な作曲家の名前もあがっていたがショパンは上がっていない。しかし、そういうものだと思って聞くと、このソナタはすごくよく聞こえてくる。つまり、かなり注意して聞かないといけない曲なのだ。少なくとも今の自分にとっては。両方が一体になって流れている部分はいいのだけど、それぞれが自己主張している部分は耳に入りにくいところがある。そう思って聞いているとわりと面白い表現だということが分かってくるし、今まであまり身を入れて聞いてなかった第三楽章ラルゴがすごくいい曲なのだということが分かってきていい。
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さっと出かけて、今日が発売日の『ジャイアントキリング』の14巻を買ってきた。さっと読んだ。「10年前の出来事」、というのはどうも気が重くなるような展開なのでさっさと終わってほしいのだが、14巻では途中までだ。来月出る15巻では最後まで行くと思うから、サッサと読み切って現代の話を堪能したい。ついでに楽譜の読み方のような本があるといいなと思い、探してみる。あんまり初歩っぽいものばかりだったのでとりあえずショパンを聞きたいことだし中道郁代編著『CDでわかるショパン鍵盤のミステリー』(ナツメ社、2010)を買う。楽譜付きで曲の内容を詳しく紹介していて、なかなかいい。ショパンの生涯なども含めちょっとわかりやすく作られ過ぎていて味がない感じもするが、つまりは中学生くらいの読者にも分かりやすく読めるように作ってあるのだろう。まあそれはそれでそういうものもあっていいかなと思う。
CDでわかる ショパン鍵盤のミステリー仲道 郁代ナツメ社このアイテムの詳細を見る |
昨日は会計事務所に出かける前に図書館によって本を探したが見つからず、決算の説明を聞いて話を済ませてから図書館に戻り、『日本の文学 第26巻 柳田国男・斎藤茂吉・折口信夫』(中央公論社、1969)を借りる。目当ては折口信夫「死者の書」。奈良時代初頭の「近代化」と伝統を墨守する側の貴族・大伴氏の確執。とても面白かったのだが、なぜか最後まで読めなくて、イメージだけが残っている。出来れば最後まで読んで、何かに使えればいいなと思って借りたのだが、私の場合、読むときには読むのに集中してしまい、何かを吸収するとかいうのは二の次になってしまうので、そういう目的で読むときはもう一度読み直さなければならず、すごく時間がかかる。まあしかしそれも仕方ないかとは思う。最初から二度読みするつもりで読み始めればいいともいえる。
死者の書・身毒丸 (中公文庫)折口 信夫中央公論新社このアイテムの詳細を見る |
少し読み始めたけれども、すでにすごくいい。「うつそみの人なる我や。明日よりは、二上山(フタカミヤマ)を愛兄弟(イロセ)と思はむ」これは万葉集にあったと思うが、調べればすぐどういう経緯かはわかるだろう。亡き人をしのんで歌を歌う。それは鎮魂であり、また愛の告白であり、魂のつながりの表現でもあり、言葉の力が何かを超えて結びつける二つのものをとらえているようでもある。折口という人は普通の意味での小説家ではないけれども、この小説は他に類例のない、エウリピデスのような魅力を持っている。日本には近代になってもそういう作品を書ける人がいるという点で、この西欧化された近代世界の中でもある特異な一点を占めているのだと思う。
頭の使い方とか、集中の仕方とか、ものを書くときのいろいろなことを、何か忘れているところがあって、それを思い出したりそのペースを出したりするのがまたいろいろ大変そうだが、とにかく動き続けようと思う。
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