三軒茶屋のカフェ二つ/中村佑介『Blue』

Posted at 10/02/23 Comment(2)»

昨日。朝、友人から電話がかかってきて、お茶をしないかということなので、『東京カフェじかん』のページをパッと開いて出た三軒茶屋のカフェに行くことにした。

東京カフェじかん。 (2010年版) (SEIBIDO MOOK)

成美堂出版

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東西線からは、実は九段下で乗り換えれば一回で済むので、案外行きやすいという事実を把握。片道380円というのも実はリーズナブルだ。

世田谷は、大学が近くにあったので下北沢はよく行ったけれども、通りひとつ違う三軒茶屋はあまり行ったことがない。東急玉川線の終点ということで子供のころからなんとなく憧れの場所なのだが、首都高の下のなんとなく落ち着かない街という印象が強かった。六本木もそうなのだけど。

最初に行った店は衣更えしていてカフェではなくなっていたので、もう一度別の店を探しなおす。道がよく分からず、ごみごみした裏通りの飲み屋街の中をしばらく彷徨。ようやく見つけた店は階段を上った二階で、現代音楽のようなのがかかって外人や子どもが騒いでいたりする雰囲気だったので、最初はなんだか外れだったかなと思ったが、塩豚と煮豆のセットとか、スイーツと蓮茶とかも美味しくて、食べているうちに客が入れ替わってくるとお洒落な雰囲気のカフェであることが判明。「レインオンザルーフ」と言う名の、確かに雨宿りして雨上がりの時間を待つという感じ。賑やかに世間話をすることも、しっとり長話をすることもできる、という感じかな。腰を落ち着けて友人の衝撃の告白(というかびっくりするくらい前向きの話)を聞いたりしていたらだいぶ長居をした。あまりにラジカルで前向きの話で、いやあやるなあ、私も頑張らなければいけないなあと身の引き締まる思いがしたり。いや、その人ならきっと出来ると思う。応援したいなと思う。

居心地はいいのだけど、椅子の高さが低くて、前に向いて話をしているうちに腰が辛くなってきたので場所を変える。お互いに運動不足なのでしばらく当たりを散策。三軒茶屋から太子堂、若林と歩き、茶沢通りに戻って教会の前を過ぎ、見上げて人参色のビルを見る。なるほどキャロットタワー。そう来たか。

玉川線の三軒茶屋駅の裏の「カフェ・マメヒコ」へ。よく知らなかったけど、この店はずいぶん面白い店で、店員が舞台に出るのだそうだ。レモンケーキとコーヒーを注文し、あとでホエー豚の生ハムを食べた。やりたいことをやりたいようにやっているのに居心地がいい、という感じで、客もみな思い思いに好きなことをやっているという感じ。変に気取ってても仕方ないという感じの、不思議な空間だった。でも、ちょっと食べ過ぎたな。

この店ではこの店のやっていること自体を面白がっているうちに時間が過ぎたが、平野啓一郎『葬送』の話とか、先日少し自覚した、自分の自分と他人の壁の緩さみたいな話を少しした。

葬送〈第1部(下)〉 (新潮文庫)
平野 啓一郎
新潮社

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夕方の、段々日が傾いてきて西日が差し込んでくる感じを楽しんでから店を出て、わたしは半蔵門線直通で九段下まで行き、東西線に乗り換えて大手町に出る。本を見ようと思って丸善へ行く。平野啓一郎の『葬送』、多分続きを読む気にはなりそうなので、第一部の下巻も買う。表紙はドラクロワ。ということでドラクロワの画集が見たくなり、美術書のコーナーへ。ドラクロワは見たものの、途中で中村佑介『Blue』(飛鳥新社、2009)に引っかかる。このイラストレーション、すごく懐かしい感じがして好きだなと思うのだけど、なんとなく背徳的な感じがして、買いにくい感じがすごくあった。この感じ、何かを買ったときにも感じたなあと思ったのだけど、さんざん迷った末、買った。ちょうど『ユリイカ』の増刊号で特集を組まれていて、それも読んだのだけど、対談者が山本直樹だったりやはりエロ方面の人と、宇野亜喜良とかイラストレーション系の人で、やはり私の感じているある種の背徳的な感じというのはちょっと当たっている感じだった。今上記のリンクを見て、『夜は短し歩けよ乙女』の表紙を書いている人だと知り、そうか!と思う。この本は、表紙に魅かれて買いそうになった覚えがある。立ち読みして中を読んで結局買わなかったけど。

いろいろ考えて、自我の境目が曖昧ということこういう作品にひかれるエロス性というものと、日本の文化の無言の以心伝心を重視する文化とか、自分の他者に対する違和感を克服しようとしてのメンタルな奇妙な操作の方法とか、「自他一体」というある種の思想性の問題とか、さまざまなものが複雑に絡み合っているのだなということにだんだん気がついてきた。まあしかしめんどくさいのでこれらの糸をほどくのは今日はやめておこうと思う。

中村佑介のイラストレーションに感じるものと同じ系統のものを感じたのはなんだろう、と思って、最初に思いついたのが伊藤重夫『チョコレートスフィンクス考』で、次に思いついたのがひさうちみちお『夢の贈物』。それから結局、線画系のイラストレーションということで山田章博も自分の中では同系統だなと思い、よく考えて見るとこれらの人々はみな大阪か阪神間の人だということに気がつく。東京の人に比べて大阪の人は自我の壁が緩い感じがするが、壁がゆるいというよりは垣根が低いということで、中にいるおっちゃんは恐かったりする。

私はもともと東京志向が強い人間なので、関西の文化圏にいたときはそういうものが苦手に感じられたのだけど、ある程度社交性が出てくるとそういう壁を感じさせない文化に洗脳された面もあって、自他の意識をはっきり持つ自分と自他の壁を取り払う自分と、どちらが本当の自分なのか分からないという感じが混乱の元だったような気もする。

Blue-中村佑介画集
中村 佑介
飛鳥新社

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中村佑介がいいなあと思うのはその少女の描写もそうなのだけど、バッタにまたがったり上半身が魚の少年と歩いたりという絵の奇想性がごくナチュラルに表現されているところがいいなあと思う。単なるメルヘンでなく、またフェリーニの二番煎じでもなく、そこに現れるエロス性というか、やはり未分化の魅力、孵りかけの卵のような境界性、そこに現れる生命性のようなものが絵として概念化されているというか、筆致の明晰さによってその一瞬性がとらえられている感じというか、そういうものが好きなんだなと思う。この人は多分本当に楽しんで描いているなと思うし、そこにクリエイティブなすごさと、やはりクリエイティブであることに伴う、つまり不完全な人間が神の行為であるべき創造行為を行うというある種の倒錯性から来る背徳性のようなものがあるということを感じてどきどきする。

なんてことを絵を見ながら思った。気がついてみればこの人の絵、そこら中に溢れているな、既に。


ユリイカ2010年2月臨時増刊号 総特集=中村佑介 イロヅク乙女ノユートピア
中村 佑介,宇野 亜喜良,山本 直樹,村田 蓮爾,後藤 正文,松井 みどり
青土社

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絵として林静一の影響を受けている、という指摘があって全くその通りだと思うのだけど、でも林の作品はそんなに欲しいと思わないけど中村のものは欲しくなる。何か自分に訴えかけてくるものがあるんだなあ。それはなんだろう。

"三軒茶屋のカフェ二つ/中村佑介『Blue』"へのコメント

CommentData » Posted by behind-Eyes at 10/02/23

こんにちは。

東京城東地区の出身者としては、世田谷あたりは遠い山の手となり微妙になじめない思いがあります。おなじ西でも庶民的な香りのある中央線沿線の方に惹かれたりするわけです。とは言いつつそれはあまりにも雑なイメージの持ち方で、成城とか用賀などが嫌いなわけではありませんし、世田谷線沿線あたりの風情に惹かれたりもします。その始発駅である三軒茶屋だと、世田谷パブリックシアターやシアタートラムに行くための駅という認識になるのですが、そんなユニークなカフェがあったりもするのがさすが世田谷!とつい思ってしまいました。あ、劇場ということでは、むしろ下北沢に足繁く通いました。kous37さんの方がずっとたくさんご覧になっていそうですね。

中村佑介はあんまり知らないのですが、リンクされたサイトを見て、情念=エロスをポップさで封印しながら透かしているところが今的だと思いました。その感じでいうと一気に江戸までさかのぼり、鈴木春信を思い浮かべます。あの軽やかなエロスにはつよく心惹かれるんです。ところで、関西圏の「壁」のゆるやかさ、東人としてもちろん世田谷の比ではなく違和感を覚えますが、それは同時にあこがれでもあります。あんなふうにできたらいいなぁ、と。京都のような高い壁もあるんですけどね。(そして、それにもまたあこがれるわけですが)

CommentData » Posted by kous37 at 10/02/23

コメントありがとうございます。

やはり、世田谷なら、そういう面白いカフェを開いても客が来るんだなと思いますね。三軒茶屋はごみごみした飲み屋街とか、住宅地とかアパートとか大きなビルだとか首都高速だとかいろいろなものが同居した面白い街だなと思います。

鈴木春信ですか、なるほど。ちょっと近いかもしれません。

関西圏の壁の低さ、関東圏の壁の高さ。私の友人でも大阪に行って感動していた人がいましたね。私も関西に行くと自分のノリが変化するのを感じます。一年に一度くらいは、京大阪をたずねてみたいものだと思います。

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by Luke Peterson

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