『世論の曲解』レビュー:なぜ自民党は負けたのか、なぜ民主党は勝ったのか
Posted at 10/01/20 PermaLink» Tweet
昨日帰郷。いつもより早めの特急に乗りたいと思っていたのだけど、結局いつもの12時新宿発になった。列車の中では『世論の曲解』を読もうと思っていたのだが結局爆睡。ほとんど読めなかった。夜11時間くらい寝たのにまだ疲れは取れていないのだなと思う。戻ってきて部屋の下水管を調べたら、凍結はしていなかったが少し漏水がある。母に伝えてまた修理にきてもらうことにした。
午後から夜にかけて仕事。最初は全く暇だったが、途中からある程度仕事が入り、また新しい仕事の話も来たので、少し先が見える感じに。仕事のことも、自分を活性化する方向で対処していこうと思う。
世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)菅原琢光文社このアイテムの詳細を見る |
菅原琢『世論の曲解』(光文社新書、2009)読了。今までの政局論に飽き足りない人には大変面白い一冊だと思う。テレビにしろ新聞にしろ、評論家もコメンテーターもあるいは政治家自身も有権者の投票行動を一部の目につく現象にとらわれて論じる傾向が強いのが日本の特色だが、「世論調査」という方法を厳密に科学的に適用することで本当の投票行動の動向とその意味を探り出そうとする試み。案外これは野心作かもしれない。
この本では、2005年総選挙(いわゆる郵政選挙)から2009年総選挙(自民党が大敗した政権交代選挙)にかけての自民党の凋落・民主党の躍進に対し、以上の方法に基づいて下した菅原の結論。あくまで菅原の結論である。
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自民党は従来、経済成長・「福祉」重視政策をとり、成長に取り残された農村地域に所得を再分配し、インフラ整備や保護主義的農業政策によって農村の急速な貧困化を抑え、土木建設という新たな雇用を生み出してきた。高度経済成長の果実を農村に再分配することを通して自民党は農村を中心とした強固な支持基盤を確保してきたのである。(p.67-8)しかし高度経済成長が終わり、財政健全化が必要になっても自民党は支持基盤を傷つける政策転換が果たせず、都市部の有権者の意見が反映されない体制が固着化してしまった。しかしバブル崩壊後の不況により、財政出動をしても経済成長に反映されないという破綻をきたすことになった。また農村の極端な高齢化により、農村に依拠した支持構造に先が見えないこともあった。
小泉構造改革はこの構造を転換することを目指すものであり、「痛みを伴う」と宣言したにも関わらず小泉は都市の有権者の支持を獲得した。2005年総選挙の自民党の大勝は小泉政権が改革指向の都市の若年・中年層を自民党にひきつけることによって起こったものであった。
しかし安倍政権以降の自民党政権は(選挙対策に関して)対応を誤り、有権者の離反を招いた。
まず、2005年に小泉政権を支持した人たちの中にはもともと野党的な信条の人も多かったことがあげられる。彼らは安倍政権が保守イデオロギーに則った政策を打ち出したために離反した。
また、同じく2005年の支持者のうち比較的与党支持だった改革指向の人びとが、安倍政権における郵政造反組の復党や、安倍・福田政権の公共工事重視の政策の復活に失望し、離反した。それにも関わらず、2007年参議院選挙の敗因を「小泉政権の負の遺産」と位置付ける論調が定説になってしまったため、「古い自民党」が勢いづき、公共工事重視の政策が改まらなかった。
自民党のリーダー育成がうまく機能しなくなり、「次を待つ」ポジションを持ちつづけた麻生が過大な評価を獲得し、自民党の中心層まで根拠のあやふやな麻生人気に期待してしまった。実際には国民的な人気はなかった麻生が政権の座につき、選挙を先延ばしして民主党の選挙活動を十分に行わせたために、自民党は歴史的な大惨敗を喫したのである。
もうひとつ考えなければならないのは民主党の選挙戦略の成功であり、それは社民党・国民新党との選挙協力によるものである。民主党の地盤が弱いところで一定の支持基盤を持つ社民党や国民新党と協力することによって民主党は弱点を補い、選挙態勢を強化することに成功した。2009年総選挙の民主党大勝は自民党の自滅に助けられただけでなく、民主党自体が強化に成功したことによる必然的なものであった。
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以上の結論が妥当なものかどうか、それはこの本を読んで判断してもらうしかないのだが、私はおおむねこれらの議論は妥当なものであると思った。政策判断の是非論ではなく、どういう層がどういう政策を支持したためにこういう現象がおき、自民党政権や政治評論家が何を見誤って惨敗を喫し、また妥当でない議論に陥ったのか、というシビアな現実をうまくとらえていると思う。
もちろんこの本で用いられている方法自体を検証し、その妥当性を検討することもよいとは思うが、私は以上の結論を元にして、自民党をいかにして再生するか、ということを考えてみたい。
一番大きな問題は、自民党が従来の農村に支持基盤を持つ「古い自民党」と、小泉改革によって獲得した都市の支持層を中心とする「新しい自民党」の二つに完全に分裂してしまって身動きが取れなくなっているということにある。これはイデオロギーの問題というよりは、支持基盤の問題だ。
安倍内閣において憲法改正のために必要な法整備をしたりしたなど、保守的な政策をとったことによってもともと野党的なリベラル・左派層が離反したが、これはもう仕方がないものと思ってよいと思う。こうしたかなり極端にスタンスが違う人びとをもひきつけたのは小泉という現代にあっては希代のカリスマがあって初めて可能だったのであり、自民党が保守性というとしての本来性を全うするためには、こうした支持者たちが離れていくのは留めようがないと思う。
問題は、都市派=改革重視か農村派=公共事業重視かの争いであり、現在の自民党が混迷している最大の原因もここにある。小泉が獲得した都市の有権者は現在ほとんどが民主党に流れているといっていい。その支持層を自民党に取り戻すためには、自民党がさらに改革を進める正当になるしかない。若手の主張はそこにある。しかし、実際に大惨敗の中で生き残った自民党議員は大部分が農村派であり、そうした主張に与することが出来ない。しかし、高齢化が進む一方で今のままでは将来が期待できず、また財政的にも負担になるだけでほとんど効果が期待できない公共事業に頼らざるを得ない農村派の主張は、すでにそれだけで政権を奪えるほどの支持基盤には決してなりえないことは明らかだといっていいだろう。先の総裁選でも若手の政治家は明確に改革に舵を切ることを主張し、また渡辺喜実のように自ら党を割って流れを作ろうとするものも現れた。しかし、現実に多数を占める農村は議員は明確なビジョンはもてないが自らの路線が破綻したことも認めてはおらず、結局宥和的なスタンスを取る谷垣を後継総裁として選出した。谷垣はそういう意味では決して勝利することが出来ない気の毒な立場での総裁であり、自ら捨て石と称したのも無理からぬところがあるとは言える。
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そういう意味でいえば、自民党は対極的にはイデオロギー的には保守、路線的には都市派の改革中心路線で行くしか将来は見えないだろう。農村対策も必要だが、公共事業路線以外の違う発想によるものが出てこないと難しい。保守派というのは有権者の中で決して多数派ではないが、左派も多数派ではない。ここは希望としてということになるが、自民党は保守政党であり続けてほしい。
また、民主党も、なぜ小沢が三党連立にこれほど固執するのかというのも、こうした分析を見れば見えてくる。民主党の強さは、三党連立によってのみ発揮されるのである、今のところ。普天間問題や亀井の暴走があっても、民主党は両党を切れないのである。
***
もう一つの問題は、世論調査を虚心に読めば見えてくる以上の構造が、なぜこれほど歪められて捉えられたか、ということだ。これは政治評論家、自民党の政治家、マスコミそれぞれに原因があると考えられるが、菅原は以下のように述べている。まず分析した学者の統計指標の不適切な扱い。これは巻末で指導教員であると紹介している人の分析をも不適切と指摘しているのである意味すごいと思う。簡単に言えば、「2007年参議院選挙における農村の自民党からの離反」という分析は事実に反していた、ということである。
しかし、これは「小泉改革の負の遺産」と強調したい人々、つまり「古い自民党」の政治家たちと反グローバル派=左派の評論家たちにとって好都合の分析であった。以後この評価が一人歩きすることによって、自民党凋落の道は変えることができなかったというわけだ。
それから、一部の現象を取り上げてそれを過度の一般化を行う評論家およびマスコミの姿勢である。典型的な例は、「ネットで麻生が人気」という言説で、それがどれだけ国民的な意味を持つのかという解釈である。菅原はこれはネットの中でもごく一部の熱心な支持者が行ったことだと指摘しているし、「秋葉原における人気」というのも同様だとしている。確かに、あの当時麻生を支持した人たちは、麻生がマスコミでどんなに叩かれ、どんなに世論調査で人気が急落しても、支持を変えていないし今なお麻生を惜しんでいる。それは私にもそういう心情がある程度はあるからわかる。しかしそれが国民規模のものでないことは、世論調査の結果も、何より昨年の総選挙の結果が示している。それがいつのまにか「麻生は国民に人気がある」ということになってしまった。
それは小泉が国民的に人気があったということとは根本的に違うと菅原はいう。小泉は自らの言葉で構造改革の必要性を訴え、自民党をぶっ壊すとまでいった。有権者はそうした小泉に強い期待をもった。小泉は自らのアクションで国民の支持を獲得したのである。それに対し麻生の支持は、いつの「次の総理」候補であり続けたことによる。小泉政権下で次の総理候補は安倍・福田・麻生の三人(あえて付け加えれば谷垣・この四人で麻垣康三といわれていた)であり、安倍・福田が政権についたことによって数年に渡って次の総理候補と認識されたのは麻生一人になった、という受動的な理由による、というわけである。
また「若者の右傾化」というのも幻想だと菅原は言う。いわゆるネット右翼が目立つために社会学系統の学者がそういう言説を行うが、政治学プロパーでは全く問題視されていないのだそうだ。まず、ネットである以上、右翼的な言説を吐く人間の年齢は本当にはわからない。稚拙な発言が多いために若者と見なされているが、これだけネットが普及してきた現在、30代~50代のネット人口は20代よりも多いわけで、ネウヨが若者であるという証拠はないわけだ。
ただ、これに関しては私は多少異論がある。右傾化、という若者全般ではかられなければならない現象はともかく、保守的な政策を支持する若者は、特に将来のリーダー層と思われる部分で増えているのではないか、とこれは実感に基づく感想であるけれども、そう思う。結果として政治家を目指す層がどちらかというと右派・保守派が多いのではないかということだ。しかし、ジャーナリストを目指す層は相変わらず左派が多いそう(これも伝聞だが)なので、そんなに根本的な変化はおきてないのかもしれない。いずれにしても、世論調査などの方法では証明の仕様がない実感ではある。
それにしてもこういう「世論の曲解」がなぜ起こるのか、というと、政治の専門家たちは政治に詳しすぎ、一般の人の政治への無関心が理解し切れないところがある、という指摘はその通りだと思う。また、評論家たちも勘に頼る玄人化が進みすぎて、世論調査のような方法を軽視する傾向があるのではないかと思う。世論調査も妥当でない方法を取ればとんでもない結論が出る、ということはこの本でも扱っているが、逆にその報道機関の調査の欠陥をその欠陥によるバイアスの度合いをはかるために使っていたりして、なかなか面白い。こうした人事に関する事象に関しては、勘を重視するスタイルそのもの派必要だし亡くならないと思うけれども、こういうデータやその分析はそれはそれとして生かしていく度量がこれからは必要だと思う。
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