ヌードと家族の両立/自分を駆り立てることと頑張ることの「意味」
Posted at 10/01/03 PermaLink» Tweet
今朝は7時前に起床。体調を整えていろいろやろうと思っていたけれども、結局8時からずっと箱根駅伝を見て、最後のランナーがゴールするまで見た。最初は活元運動をしながら見ていたのだけど、途中では朝食を食べたり昼食を買いに行ったりしながら結局最後まで見た。なんか貴重な時間だから有効に使いたい、どうすればいいかなと考えているうちに、結局全部を箱根駅伝に投資するとは。蕩尽にもほどがある。ときどきは『大鏡』(現代語訳学燈文庫、1983)を読んではいたが。
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なんだかそのせいか馬鹿にいらいらして、3時ごろもう爆発寸前になって出かけた。最初は印鑑証明でも取ろうかと思って区役所に行ったら証明書自動発行機も今日は稼動していないとのこと。なんのための機械なんだ。郵便局に行ってお金をおろし、マンションの管理費の口座に預け入れ。ちゃんと6日に管理費が落ちるかどうかが心配だ。先月は期限に遅れてしまった。図書館に行ってみたら閉まっていた。正月は何かと不便だ。
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駅前の文教堂で本を物色。どうも美術館に行きたいという飢餓感があることに気づき、とりあえず「散歩の達人」のムック『東京アート散歩』を買った。どこという当てもなく地下鉄に乗り、日本橋に出る。丸善で本を物色し、向かいの山本山でお茶を買う。プレッセが9時まで影響ということを確かめて、とにかく何かを見たいから手近なところでブリヂストン美術館へ。やっていたのは「安井曽太郎の肖像画」展。渋いなとは思ったが常設展もあることだしと思って入る。
入ってみて思ったが、やはり美術館という空間はそれだけで落ち着く。それも、西洋美術館とか公共の大きな美術館はなんとなくあわただしい感じがするのだけど、ここはいい。ミュージアムショップを見て、トイレに行ってコインロッカーに物を預けてから二階に上る。彫刻ギャラリーもわりといい。ブールデルの「風の中のベートーベン」とか。なんとなく『バカボンド』を思い出した。井上雄彦がベートーベンを描くと面白いだろうなと思う。ザツキンのいくつかの彫刻も好きだった。
安井曽太郎という画家についてはほとんど知らなかったが、いきなり『画室』という絵を見てぶっ飛んだ。日本の近代画家ってけっこう奇妙な人が多いなとは思っていたけれども、この絵は変すぎる。真ん中に裸のモデルが横たわっていて、その前に画家の妻と子の肖像、その後に甥の顔がのぞく。その前には何も架けてないイーゼルがおかれている。
何というか、マネの「草上の昼食」がもたらしたであろうスキャンダルと同じようなものを感じる。実に日常的な家族の肖像に、実に「芸術」的なヌードモデルが、同じような日本人の顔で並存している。昭和初年にこの作品が発表されたときには相当物議を醸したそうだが、さもありなん。この作品は、安井が15年に及ぶ「スランプ」の時期をようやく脱しようとした38歳のときの作品なのだという。
いろいろ解釈はありえようが、私はこの作品は、安井が「芸術=創作」と「生活」を両立させようとした、その決意の現われであったのではないかと感じた。芸術至上主義に行くのではなく、肖像画家として、しかし自らの芸術的な性向も捨てずに著名人や資産家の肖像画を描いていく、そういう決意の表れではないかという気がした。生活と創作の両立、というのはアートを志したものなら誰でもぶつかる壁であるけれども、安井はそういう形でこのブレークスルーを発見したのではないかと思う。それは妥協では必ずしもなかったのだろう。安井はひとつの肖像を描くのに物凄く時間と手間をかけている。相当のパワーを注ぎ込んでいるわけで、それが彼の芸術心を満足させるものになるまで妥協していないのだ。
黒を使っているのに明るい画面、という特徴が安井の肖像画にはある、という指摘を展示で読んだが、なるほどその通り。「座像」「女の顔」有名な「金蓉」といった女性を描いた作品もいいが、「玉蟲先生像」(胸像のもの)には思わず噴出した。あまりなデフォルメ。当時から漫画だ、という批評があったそうだが、性格をつかんだ戯画という趣は間違いなくある。楽しんで描いてはいるだろうが、でも明らかに大真面目で、丹念に工夫された結果のものであることには間違いがない。お手軽感がないのだ、面白いのに。
日銀総裁の深井英五は退任の際に慣例として送られる肖像画の画家として安井を指名し、できた作品が「深井英五氏像」なのだが、深井が何か喋ろうとするその瞬間をとらえた絵で、その一瞬の風情が永遠化している、優れた写真家の作品のような絵だ。他にも安倍能成や大内兵衛など、名前の知られているたくさんの有名人の肖像画を描いていて、近代史の一大ページェントのようにも思われた。
まあ何というか、ものすごくよかった、というようなものではないけれども、いろいろ思わされて面白い、というようなものだった。後半のコレクション展では久しぶりにピカソやカンディンスキーが見られてけっこう満足した。
カフェで洋梨のタルトとアッサムのセット。感想をノートに書いたり。時間が余ったので丸の内を歩いてブルックスブラザーズを探す。場所がよくわからないので南のほうにずっと行ったらコムデギャルソンがあったので入ってシャツを見たら、ジャケット並みの値段で思わず笑いそうになった。当分買えないなこれは。北のほうにずっと歩いていって、ブルックスブラザーズを見つけ、入店。少しだけ物色してまた日本橋に向かって歩く。妹と駅の改札で待ち合わせてものをわたし、また丸善へ。
本を物色して、結局中上健次『枯木灘』(河出文庫、1980)を買った。これは、中上と柄谷の対談で何度も言及されているので、一度読んでやろうと思って買ってみたのだ。その後でプレッセによって夕食の買い物をして帰る。
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***
結局今日は一日、午前中までにたまりに溜まったイライラ的なエネルギーを使って行動した。今日行動してみて気づいたのだけど、もともとわたしは自然に演劇に関わったりアートに関心を持ったりしたのではないのだ。不自然に、というか敢えて、自分の中の過剰なものを掻き立ててそっちの方に突っ走らせていたのだ。だから自分を客観的に見て自分の中から自然に湧いて来るものをもとに何かをやっていこうとしても、なんともならないのだ。「なぜ走るの」といわれて『ピアノの森』のカイは「自分を駆り立てるために」と答えているけれども、つまり私も常に自分を駆り立てていなければ、「自分の好きなこと」をすることは出来ないんだと思った。「余裕を持つこと」とか「遊びを持つこと」とそれがどういう関係を持つのかは分からない。しかし、「一歩引く」とか「手を抜く」とかいう意味で、つまり「楽をしようとする」と、結局私は自分のやりたいことはやれないのだ、ということがわかってきた。誰でもそうなのかもしれないけど。結局突っ張り続け、突っ走り続けるしかないらしい。やりたいことがやりたければ。
「休む」「力を蓄える」ことと「楽をする」ことは、多分全然違う。「休む」ためには全力で突っ張らなければ、本当には休めない。
それから、頑張ることの「意味」というものについても、どうも考え違いをしていたらしいことに気がついた。「意味」があるから頑張るのではない、「頑張る」から「意味が生まれる」のだ。わたしは今まで意味が見出せないものについて頑張っても仕方がない、意味がないと思っていて、そこで結果的にだいぶブレーキを踏んでしまっていたと思う。意味があるかどうかは、行動して見なければわからないし、行動してみればかなり多くの場合、そこに意味は生じるのだ。もっといえば、やりたいことというのはやってみてからこれがやりたいことだったのだということに気がつく。最初に感じる「やりたい」というのはカンに過ぎない。そのカンがやっているうちに確かなものになってくる。予感が確信に変わる、というようなものだ。
最近はとみにどこに出かけるのも億劫になっていたのだけれども、とにかく出かけてみればいい。何も買わなくても、何も見なくても、行ってみるだけでもいい。無駄足が人生だ。たぶん、どれだけ無駄足を踏んだかで、その人の成功が決まる、という面が人生というものにはある。効率だけを重視してもだめなのだ。忙しいからといって無駄を省こうとしてばかりいても省いてはいけない無駄もあるということは忘れないでいなければならないとおもった。
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