書くことの功罪/『小林秀雄をこえて』/新教養主義宣言
Posted at 09/12/29 PermaLink» Tweet
昨日帰郷。昨日のエントリを読み直してみたら、日常雑記はほぼゼロだった。まあ頭の中で起こったことを書いたのだから自分にとっては日常の一部みたいなものではあるのだが、ふだんの物事の進行と頭の中で起こることとのギャップにだんだん段差を感じるようになってきたのは、精神的なフットワークが少しのろくなってきたからだろう。あるいは、ブログなど書き始める前はひとつのことを何日も考えるようなことが珍しくなかったけれども、最近はブログを書くことで一日単位である程度片付けてしまうということもあるのかもしれない。自分の生理的なサイクルに一番合うやり方がどんなものなのか、一度検証してみたいのだけど、検証の仕方が難しい。
モーニングページを書いて、ブログを書く。それに加えてツイッターでつぶやく。本を読んだらノートを取る。何をやってもいちおう表現、ということを考えるから、といっても以前ほどそこに魂が入ってない感じがあるのだけど、実際そんなに気楽なわけでもない。しかし、いろいろ思ったことをそれなりに整理しながら書くことで自分の中に滞留するもの、渦巻くものから受けるプレッシャーのようなものはだいぶ減らせていることは確かだ。しかし、書くということを自分に習慣付ける、というか半ば義務付けることで自分の心の筋肉が少し硬化をおこしているところもあるような気がする。そのあたりのことを問題に感じてはいるのだけど、毎日書くことのプラスマイナス、功罪をはかりかねてはいる。いまや一日書かないとどうも気持ち悪くて仕方なくなってしまうからなあ。
小林秀雄をこえて―対談評論 (1979年)柄谷 行人,中上 健次河出書房新社このアイテムの詳細を見る |
柄谷行人・中上健次『小林秀雄をこえて』(河出書房新社、1979)読書中。まだ16/186ページ。いちいち考えさせられる、というか自分の「不勉強」が露呈してしまうのでその度に考えたり、調べたりする破目になる。あまり気にしないで一気に読んでもいい気もするのだけど、そういう読み方をするともったいない気もする。後で読み直してみよう、と思っても実際に読み直す本はごくわずかなので、この本も結局はたぶん読み直さないのではないかと思うけど、自分の中の小林秀雄の位置付けについて、かなり根本的に考え直さなければならない部分がありそうだということがわかってきた。
私は小林秀雄や白洲正子といった小林のスクールの人たちの批評・文章は面白いと思って読んで来たけれども、柄谷や中上の書いたものは実際ほとんど読んでいない。正直言って何を書いているのかよくわからないし、興味ももてないからだ。今この本を読んでそのことがなぜなのか少しだけわかったのは、彼らはマルクスを読むことで小林秀雄の地平を超えた、と考えている人たちだからだ、ということだ。私は正直言ってマルクスにはほとんど興味をもてない。もちろん大学の一般教養の社会思想史でやる程度のことはまあまあ知ってはいるけれども、マルクスを読んだ人たちによって作られた70年代のさまざまな知的営為、つまり段階の世代の人たちのやった仕事は映像や演劇関係を除いて正直興味がもてない。なんと言うか、彼らのマルクス体験は内に向かって閉じ過ぎているように思う。もはや90年代以降は「資本論」も解体的に読まれるようになってきているようだし、ようだしというのは解体的にでも読む気がないからだけど、団塊の世代のあの種の仕事はある種のパトスの産物としては面白いかもしれないが、世代を超えた普遍性のようなものは持ち得ないのではないかという気がする。
まあしかし、それもわからない。私の基本的な教養には、たぶん旧制高校の教養主義的なベースみたいなものが屈折しつつ反映されていると思うから、白樺派とか小林秀雄というものはわりあい入って来やすくても、団塊的なものが入ってきにくいということはあると思うので。そういうふうにちゃんと自分をとらえて、自分がどういうものに親和的でどういうものになじみにくいのかみておかないと、評価に客観性と公正性を欠くことになってしまう。またそういうものがわかってないと、自分の書いたものがどう評価されるべきなのかも見えなくなってしまう。私はもちろん世代的にはポスト団塊だし、新人類とかシラケ世代とか言われた年代だが、そういうのもいわば団塊に比較してのネーミングであって、団塊ジュニアとかポストモダンとかになって来るとまた話が合わなくなって来る。実際、私の年代の人はポストモダンの洗礼を受けた世代といっていいのだけど、私はそれらのものにほとんど関心を持たなかった。友人たちが面白がってるな、という程度の認識だったと思う、脱構築とかも。年齢を重ねてくるに連れて、私と、私およびそのあとの世代の人たちの教養の根本との間にけっこうギャップがあるということがわかってきて、でもそれがどういうギャップなのかはわからない、ということにけっこう苦しんでたなと思う。
実際は、だから私は教養の面から言えば旧制高校的な教養主義がベースにある、だからポスト団塊ではなく、プレ団塊世代というべきなんだろうと思う。天皇や皇室というものに親和的な気持ちを持つとか、人間というものに対する楽観的な信頼感とか、超越的なものに対する畏怖とか憧憬とか、そういうものというのは旧制高校的な教養主義の特徴といっていいような気がする。そういうものが自分にあって、そのあたりでは団塊の世代ともポストモダンの世代ともバッティングしてしまうということなんじゃないかなと思う。
しかしまあ、そんな風に考えてみると、思想的に自分に共感してくれる人などほっといて現れるものでは絶対無いわけで。70代以上の人ならともかく、思想的にビビッドなものを持っている人と本当に共感しあって語れるという可能性は限りなく小さい。だったら結局は、自分がある種のイデオローグになってそういうものを鼓吹していくしかなくなってしまう。そうなると、団塊の世代とかポストモダンの世代とかの言説を教養主義の立場から論破していかなければならなくなる。しかし、大正あるいは昭和前半の教養主義というのは、ある種の超越性の尊重が前提になっているので、それを信じないことを前提とした戦後世代の論者とは議論がかみ合うことは絶望的だなと思う。自分ひとりで、見捨てられつつある作品群を拾い上げて行くしかないのかもしれない。新教養主義の旗揚げ、といっても誰もついてきそうにないが。
自分の政治的な保守思想というのも、結局はそういうものに依拠しているんだよな。あんまりプラクティカルなものではなく、文化主義なのだ。だから、結局あんまり話が合う人はいない。
まあいちおう宣言だけしておくか。新教養主義宣言。中身はこれから。
プラクティカルな面で言うと、とりあえず『小林秀雄をこえて』を読んで論点を洗い出していくということになりそうだ。
とにかく、自分が面白いと思う作品が増えてほしいし、面白いと思う流れをおこしたい。そうじゃないと、生きていてもつまらないじゃないか。
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