『この世界の片隅に』/「学び」と「機」

Posted at 09/12/21

昨夜は寝るのが遅くなって、結局3時半になってしまった。今朝の起床は7時半。普通に起きて普通にしようと思っていたのだが、昨日から読みかけのこうの史代『この世界の片隅に』上中下(双葉社、2008-9)を読んでいたらつい読みふけってしまい、9時過ぎまで手が離せなくなった。

この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)
こうの 史代
双葉社

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一言で言ってこの本は、今年もっともよかった作品の一つに入る。今思い浮かべるもので言えば、『ピアノの森』と『日出処の天子』に並ぶ、といっても過言ではない。こうの史代は、『夕凪の町・桜の国』で並々ならぬ才能を感じたけれども、この作品ではそれをさらに上回っている気がする。一度だけ、『週刊アクション』を買って雑誌連載されているのを読んだけれども、この作品が雑誌に乗っているだけでなんだか奇跡なような気がしてしょうがない。個人雑誌『わしズム』を発刊していた小林よしのりが彼女の作品に感動し、彼の主張をどんなに曲げても、反戦ものでも左翼ものでもいいから描いてほしい、と頼んだというその力のすごさはこの作品でさらに遺憾なく発揮されていると思う。

絵を描くのが好きな10代の女の子が、顔も知らない人のお嫁にいく。そこで繰り広げられる毎日の哀歓。毎回必ず落ちがつけられる律儀さもこうのらしくていい。読み直していて気づいたが、最初の回で主人公すずは将来夫になる周作に出会っている。

上巻、中巻と淡々と進む物語。偶然出会って親しくなった赤線の娼婦りんが、周作の過去の女であったことに気づいてしまうことで、ぼうっとして明るい一方のすずの心におこる腹が立って仕方ない気持ち。りんは全てを知っても、その明るい諦念ですずの心に火を灯す。敵わないなとすずに代わって私が思ってしまう。

この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)
こうの 史代
双葉社

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下巻は、書くのが辛くなるような展開。しかし、それが戦争というものだとしみじみ思う。読みながら、変な声を上げてしまった。泣くと言うより、哭くというのにふさわしいような。広島と呉を舞台に繰り広げられる物語が、まっすぐと8月6日に向かって進んでいく。そしてそれを通り過ぎ、15日を通り過ぎる。何があったか、今はまだここに書きたくない。翌年の一月、広島で出会った一人の孤児を呉に連れて帰り、どうやら彼女の面倒を見ることになることで全巻が幕となる。死と再生というには、あまりに辛い物語。でもこれほど明るく戦争を書いた作品もないかもしれない。こうの史代の並々ならぬ力は、こういう題材においてこそ発揮されるのだと改めて感じた。この作品に出会ったことの幸福を心から感じらる作品。

日本辺境論 (新潮新書)
内田 樹
新潮社

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読み終えて、少し家事をやって家を出る。新宿12時の特急で帰郷。車内では自分の今後のあり方というか、生きる姿勢についてぼーっとしながら考えていた。考えながら読んでいたのが内田樹『日本辺境論』。「学び」と「機」の思想。白刃の下にある自分として生まれ直した自分が、その瞬間瞬間をさらに分節して体験する「機」の思想こそが、辺境人であるがゆえに「学び」をその国民性とし、それがゆえに「ロードスで飛べない」限界を超えるための方法だという話で、なるほどと思った。あらかじめ用意していてはだめなのだ。備えをきちんとするという考え方では、予想のつかないことに対処することが出来ない。瞬間瞬間に生まれなおすという考え方でこそ、そんな事態にも対処できるという主張。できるか出来ないかはともかく、そういうふうに生きなければ、予想も出来ないこの人生を満足に生きていくことは確かに出来ないと思った。

それは結局、準備や備えに頼らない生き方、ということなのだと思う。瞬間瞬間の主体たる自分がそのときそのときに生まれなおして対処する。そういうふうに考えてみると、人生は楽しいんじゃないかという気もする。

音楽の友 2010年 01月号 [雑誌]

音楽之友社

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実家でいくつか仕事をし、郵便局と銀行を回ってから職場に出て、ちょっとした仕事を片付けてから、蔦屋に出かけて『音楽の友』1月号を買ってきた。表紙はマルタ・アルゲリッチ。彼女の白髪の混じり方は、だいたいいまの私と同じくらい。しかしアルゲリッチは私より20歳以上年上だからなあ。私の白髪が多すぎるんだろうなあと思う。

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by Luke Peterson

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