生活リズムを守りたい/父のこと
Posted at 09/11/26 PermaLink» Tweet
状況は日々一定していないので、その日によって違う行動を取ることになるわけだが、私はいつの頃からか自分がルーチン的にこなす内容を重視するようになってきていて、どんなに変わった状況になってもなるべく毎日の生活リズムを崩さないようにしたいと思っている。もちろん全然無理な状況もあるのだけど、そういうときもなるべく日課的なことはこなす、というか。毎日モーニングページを書いて毎日ブログを更新する。それも日々の営みなので、なるべくそれをやろうと思う。モーニングページを朝書けない状況はかなりあるのだけど。
ツイッターと携帯百景は携帯で出来るのでどんな状況でもだいたい対応できる。病院の周りが実はとても景色がいいので、病室を出て外を歩くと写真に撮りたいところばかりだ。この病院を選んだ一つの理由が窓からの景色がいいということだったのだけど、それだけはよかったことは間違いない。
病院に泊まりながらも少しずつ自分のペースでやれるようになってきたので、もう少しクリエイティブなこともしていきたいのだが、集中して本を読むことがなかなか出来ない、というか集中して読んで面白い本になかなかめぐり合えないというか。
自分の娯楽というのは雑学というか、といってもいわゆる(B級知識的、あるいはクイズ的物知り的)雑学ではなく、いろんな専門に首を突っ込んでいろいろな本を読むというのが娯楽といっていいのかもしれないと思う。以前はそれを自分の仕事的にとらえていたからそこで生産性が生まれないことに四苦八苦したりしていたのだけど、それは娯楽だと割り切ればいい気がする。そこから生まれてくるものもないとはいえないけど、それはプラスαと考えた方がいいなと思う。そういうものだったら表面的に撫ぜてもいいし勝手に一定突っ込んでもいい。そこから一歩突っ込んで実際に花を生けたりするのも娯楽なんだとしておける。
私の仕事は書くこと以外にないのだけど、それは思考をシェイプするということなんだと思う。小林秀雄や白洲正子を読んだのは、何かをほめるための練習だと自分では思う。私は今文学の世界で主流であるような意味では文学的な人間ではないし、歴史学の世界で主流であるような意味では歴史学的な人間でもない。自分の書きたいことをいいたいように伝えたいように書く、というそれだけのことが、なぜこんなに難しいのかよくわからなくなってきている。技術とか流れとか傾向とかそういうものに自分を合わせようとしてきたことがよくなかったことはわかっている。
そうでない自分の軸になるようなもの――社会正義を追い求めるとか万人の幸福を追求するとか――を見据えないといけないんだろう。
ここに書くと変な感じもするが、私の父は「すべての人の幸福」というものをけっこう本気で考えた人だ。小学生のときに敗戦でショックを受け、戦後は「科学」というものに未来を見た。浪人時代にはマルクスをだいぶ読んだらしい。しかし60年安保に参加して樺美智子が死んだ6月15日の国会の混乱に遭遇し、自分も怪我をして帰ってきて、「これではだめだ」と思ったのだと昔話してくれたことがある。その後は幸福の理論ということで山岸巳代蔵の思想に共鳴し、幸福実現のための方法論として川喜田二郎のKJ法を研究した。川喜田氏とはかなり交流があったのだが、その川喜田氏も今年亡くなった。自分も体が動かない状態のため葬儀に行けなかったことは多分かなり心残りだったと思う。
ヤマギシズムの運動も七転八倒状態になっているし、多分そういう現実に幻滅を感じる部分もとても多かっただろうと思う。最近では原始仏教の「法句経(ダンマパダ)」をKJ法で本質を探りつつ読むとか、KJ法を用いた大学院の実践とか、山岸とKJ法に関するさまざまな論文とかを書きながら塾を経営していたが、ここ2年ほどは仕事らしい仕事は出来なくなっていた。
父は宮沢賢治の「農民芸術概論綱要」に感動したり、いつもある意味現実離れした理想にしか関心のない人だ。まわりはある意味迷惑なのだけど、ずっとそれを追求しつづけることができたという意味では幸せな人といえるとは思う。
父に比べると多分、私は何も信じていないし、信じられない、という感じがする。父を見て、もっと地に足のついたことを、とずっと思ってきたのだけど、多分私自身の資質も父に似た部分が多くて、何が地に足についたことなのかあまりよくわかってないのだと思う。
幸福ということに関しては、すべての人を幸福にするということが、一つの理論で出来るとは私には思えない。人間というのはもっと複雑で多様でわけのわからない矛盾したもので、共産主義社会に生きることが幸福だという人もあれば、部族社会のしがらみの中にいることが幸せだという人だっている。すべての人の幸福、というものはありえないんじゃないかとしか思えないが、でも逆にいえばすべての人は幸福を目指すことはできる。でもそれはその道を選ぶかどうかもすべてその人次第。というようなことを考えると幸福ということを考えることの意味があるのかと思う。
でも多分、こうすれば人は幸せになるよ、という方法の一つを知って、それを実行している人ならば、その人は多分幸福に近づいている。家族を大事にするとか、おいしいものをつくってあげるとか。私は今回父のそばにいる時間が長くなってみて、人を大事にするっていいことだなととても思った。両方とも元気なときはずいぶん反発したものだったけど、こうなってみると角が取れた関係になれるんだなという面もある。
全然関係ないが、むかし鼻行類というものが流行ったことがあった。あれを面白いという人もずいぶんいたが、私は全く面白くもなかったし関心も持たなかった。それはどうしてだろうと思ってみると、あの物自体が魅力的でないからだ。かっこよくもなければきれいでもない。ユーモラスかもしれないが、私の感じる魅力のツボとはずれている。私はやはりカッコいいものきれいなもの、にひかれる人間なんだと思う。
あれがもし一角獣とか、ケンタウロスとかカッコいいものだったらもっと関心を持っただろう。私がナルニアが好きなのもそういうことがあると思う。のうなしあんよとかは考えてみれば鼻行類的だが、でものうなしあんよの方がはるかに好きだ。なんか存在しないものを「科学的に」書いて人を担ごうという発想そのものが魅力的に感じられない。科学というものを私が余り魅力的に感じてないからだろう。理屈だけで話を構成しようとすること自体があまり好きではないんだろうと思う。なんだかどうしても不自由さを感じてしまう。
父と私の対立点――私が一方的に突っかかっていっただけかもしれないのだけど――も一つはそんなところにある。父は科学というものに大きな希望を抱いていた。戦後第一世代というのはそういうものだったのだろうと思う。私が科学を信用しないのは、たぶん「すべての人の幸福」を信じないのと同じ理由なんだと思う。信じたいために疑い続ける、と岡林信康は歌ったが、私も多分何か強い信念を持ちたいのだけど、「正しい顔」をしているものすべてを信じられないというジレンマがある。それも多分おなじところに淵源がある気がしてきた。
私は原則より例外に、オーソドックスより異端に、本題より余談に、強く惹かれてしまう傾向があるのだけど、自分の資質はより本道的なところにあるとも思う。そのアンビバレントが自分のなかで消化しきれていないことがいまの私の一番大きな問題なんだろう。
ああ、父のことについて書いてみたが、確かに私の問題の大きな部分が父に関連するところにあるということはわかってきた。こういうのも、広義のエディプスコンプレックスなんだろう。大儀なことだ。
放蕩息子はどこに行くのだろうか。自分でもまだよくわからない。
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