ハンスの魚

Posted at 09/09/18

   ハンスの魚

朝早く電車に乗って海辺の駅で灰色の海を見なければならない。
頭の禿げた眼鏡をかけた親父のつまらないトークを聞かなければならない。

なんという退廃だ。なんという地獄の炎だ。

紫色に燃えたつ木々の間から木霊がにやりと笑う。
ちしゃ猫のようなその笑いはピグモンの亡霊を連れ回している。
キリコのようなマグリットのようなデルボーのような空間。
のうなしあんよがチェス盤の上で跳ねる。

ムダな歩みだ。
ムダな微笑だ。

絵の具を塗りたくられたキャンパスがトランプのドミノのように倒れてくる。
眼鏡をして懐中時計を持ったウサギが海岸沿いのアスファルトを駆けて来る。その向うには白い波が海岸に押し寄せている。

「イシャはどこだ!」

メメクラゲに刺された男がどんよりした空の下で波打ち際から上がってくる。
電線が風に鳴っている。
海岸段丘の上をプジョーが走り去る。

時間は止まっている。風景は動いているのに。
夕陽が上って来る。空が赤くなるにつれて海は暗くなる。

海鳴りが怪物のような海猫を連れてくる。
半魚人が走り回る。イワシの頭がヒイラギの葉に刺されて祀られて、焚火の周りを巫女が踊る。九〇は超えようという老婆が若い女の声で唸る。

目医者の看板が私を襲う。
塗り壁が百メートル競争をしている。誰も追い抜けない。
砂かけ婆が砂浜で砂のお城を作っている。
日輪の馬車が、イカロスを焼き殺した。

ようやく電車がきた。これで禿げの眼鏡の親父のトークから逃れることが出来る。
メメクラゲに刺された男と一緒に私は朝日に向かって出発した。

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by Luke Peterson

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