『バカの壁』の続編/『ローマ人の物語』35~37/約束はさせないで
Posted at 09/09/09 PermaLink» Tweet
死の壁 (新潮新書)養老 孟司新潮社このアイテムの詳細を見る |
昨日帰郷。また少し早めに、10時の特急に乗ったのだが、その前にオアゾの中を通るともう丸善が開いていて、(9時開店らしい)3階に上って養老猛の新書を二冊買った。『バカの壁』の続編の『死の壁』(新潮新書、2004)と『超バカの壁』(新潮新書、2006)。『死の壁』の60/190ページまで読んだが、『バカの壁』の続編というか、もっとわかりやすいように、現代人が直面している問題を「死」ということを通して喋っていて、『バカの壁』に比べると格段に読みやすいが、そのぶん単純というか中身も薄い感じがする。そうだよなあとは思うが、それで自分自身を深く振り返られなければならない、というようなことがあまりない、今のところは。なんというか、前書は新書ではあるが結構渾身の内容だったと思うのだけど、この本は若い子にもわかる、という感じになってると思う。私にとっては前書を読んでいるので前書の内容を敷衍している部分などはすいすい読み飛ばせるという感じがあり、それでそう感じるのかもしれない。まあ骨が折れはするが、このシリーズを読むなら最初から読んだ方がいいように思う。
超バカの壁 (新潮新書 (149))養老 孟司新潮社このアイテムの詳細を見る |
なんというか、「泣き半荘」という感じだ。つまり、一晩徹マンして、じゃあ帰ろうぜとなったときに、一番負けているやつにあと半荘だけ、と泣きつかれてしょうがねえなあともう半荘やるというあれだ。「よくわかんないんですけど。何をどうしたらいいんですか?」「じゃあしょうがねえなあ。もう一冊書くから読んでくれ。」みたいな感じ。誠実に付き合ってはいるが、本人の本を書く面白さとしてはだいぶ減殺しているだろうなと思う。まあわかりやすくはあるんだが。まあでもだいぶ売れたみたいだし泣き半荘でも一人勝ちということかもしれない。
ローマ人の物語〈35〉最後の努力〈上〉 (新潮文庫)塩野 七生新潮社このアイテムの詳細を見る |
それも読みつつ、塩野七生『ローマ人の物語』35~37巻(新潮文庫、2009)を読む。現在37巻に入った。ディオクレティアヌスが主人公の間はどうもあまり面白くなくて、読んでいても古代史の学習の復習というか、まあ知らない部分もあるのだが、おさらいをしている感じだった。またもともと史料が少ないこともあるのだろう、推測が多かったり、全盛期ローマとの比較していても、全盛期の部分をふたたび詳しく述べて、この時期のことは大体推測して言うだけに留まる、という感じになってしまうところが多かった。
しかし、コンスタンティヌスが出て来ると話が俄然面白くなる。ディオクレティアヌスのテトラルキア(四頭制、四分統治)が後の東西ローマの分立とどこが違うのか、ということがあまりよくわかってなかったが、あくまでディオクレティアヌスは帝国全体の実権を握っており、ほかの皇帝たちはその地域の軍事指揮権を持っているだけで、防衛が主な任務だった、という分析はなるほどと腑に落ちた。一番へええと思ったのは、ディオクレティアヌスがさっさと引退したことと、引退後の彼が全く権威も権力も失い、自分の娘や妻の安全を守ることさえ出来なかったということだった。引き際が鮮やかだということは、そのあとの社会の安定があってはじめて意味を持つことで、韓国の大統領の引退後みたいなシビアな状況(ディオクレティアヌスの方がはるかに悲惨だ)が彼にもあったのだ、ということは慨嘆せざるを得ない。
コンスタンティヌスという男が副帝の長男でありながら帝位継承権のない位置からいかにのしあがり、ついには帝国全土を支配する存在になったか、というのはこれはやはり一つのストーリーとしてすごいものがある。また、彼はキリスト教の公認ということからキリスト教世界にとっては絶対の存在になるけれども、何と言うか相当なマキャベリストで、また軍事的才能も抜群というほどでもない、そういう生々しい人間性が上手く表現されているように思った。僭称者マクセンティウスを破ったミルヴィウス橋の戦闘の前夜、神のお告げがあって「これにて勝て」とキリスト教のマークが示された、という話は知っていたが、なんだか金の三本足の烏みたいな話で、あまりに神話的な人物という印象だったが、これを読んでいると人間としての彼が浮かび上がってくる感じがする。
コンスタンティヌス凱旋門の話も面白かった。あそこに掘られているレリーフの傑作のほとんどはもともと五賢帝時代の作品を持ってきてコラージュしたヌエ的なもので、新たに作られた4世紀の彫刻は、中世暗黒時代みたいなレベルになっていて、リアリズムという点、理想美の追求という点では相当後退している。中世は偶像崇拝を嫌うという観点からそういうものが発達しなかったのだと思っていたが、まだキリスト教が公認されるかされないかの時点で、しかもまだ異教徒のローマ市民と元老院が捧げた建築物なのにそういうことになっているということは、確かに200年余りの間に技術が決定的に失われたとしかいいようがないんだと思った。文明というものは破壊されてしまうものなんだと、しみじみ思われる。
***
昨日は夜10時過ぎまで仕事。寝たのは12時過ぎか。朝は6時前に目が覚めた。やるべきことを次々に思いついて頭の中が運動会状態。モーニングページに書き出してみたら少し落ち着いた。頭の中に渦巻かせて置くよりは、外在化させて頭から一度追い出してみると、やりたさとか重要度とか手順とかそういうことが思いつきやすい。書くということでいちど手を動かすしごとをすることにもなり、何もしていないという不全感が薄れることも大きいと思う。大概のことはそんな大したことではないのだが、頭の中であれもこれもと考えているとどうしたらいいかわからなくなってくる。書いてみるとわりとすらすら頭が動くので、書くという程度のレベルでも体を使って話をすすめるのは大事なんだと思う。
『バカの壁』の用語を使うといろいろとわかりやすくなることがあって、人生の目的みたいなことを言葉にすると自分自身を「情報化」してしまう、ということに気づいた。「こうしなきゃいけないという思い込み」が出来てそれに縛られてしまう。自分の考えていることを書いて外在化させることによって客観的にみる、というところまではいいのだけど、それを言葉にして人に言ってみたり、自分自身に言い聞かせたりするともうそれに縛られるようになる。情報は不変なので一度いった言葉はもう変わらないが、人間は生きている以上変化するので、その言葉と現在のやりたいことの違いが必ず現れてきて、それが自分を苦しめることになる。「約束はさせないで、守りきれたことがない」と中島みゆきも歌っているように、人間の心の弱い部分を約束にしてしまうと、必ず破綻して自己嫌悪に陥るという弊害が出てくる。
もちろんそういうことが必要な場面や、そういうことが有効なタイプの人もいるだろう。口にしたことで何がなんでもそれを実行する、というふうに退路を立つこと。しかしそれはいわば背水の陣であって、兵法的には奇道に属することだ。そういうやり方が誰にでもあっているとはいえないと思う。むしろ素直な人は、そう言うことをあまりやらない方がいいのではないかと思う。
「個性」とか、「したいことをやれ」とか、いろいろな人生のアドバイスがあるが、言葉にするということは結局自分の大事な部分を情報にしてしまうということであることは、気をつけなければいけないことだと思う。自分の心の湿った部分というか、デリケートな部分のことは約束などしない方がいい。自分が戦える部分でのみ、約束というものはするべきなのだと思う。だから自分がしたいことがそういうデリケートな部分に属するときは、言葉にすることは止めた方がいいのだと思う。「センター試験目標800点」なら言葉にしたって何ら差し支えはないだろうけど。
固定的な言葉による目標は、結局自分を情報と化させてしまう。人生の意味を情報にしてしまわないためには、実感とか、言葉にならない部分、言葉ではいわない部分を大切にしていくということなんだと思う。
人はどんな場合であっても生きようとしているのだし、人類は種を保とうとするのだから、あらゆる喜びはそれに合致したものであるはずだ。そういうものは、多分「当たり前」のこと、常識的なことに属するものなのだと思う。倒錯した喜びももちろんあるが、それは程々にしておいた方がいいというのも、また常識ではある。
時間がないときにこんなセンシティブなことを書くのは難しいな。
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