本棚の整理と自我の整理
Posted at 09/08/25 PermaLink» Comment(2)» Tweet
今日も本棚のかたづけを続行。さすがに少しずつ目鼻がついてきた。マンガがだいぶ本棚に出してあるのだけど、実際には読んでないものも多いので、考えながらそういうものをしまうことにした。『銀と金』とか桜井章一の雀鬼ものなどとりあえずダンボールに詰める。どこにあるかわかっていればすぐに読めるし。横山光輝『三国志』60巻とかも仕舞いっ放しだなあ。時には取り出して並べてみるのもいいとは思うんだけど。
そうやって極力マンガを整理して、一つの本棚にまとめて最新資料のたなにも少し残しておく、という形で片付けてみたいと思う。山川出版の『歴史と地理』とか吉川弘文館の『日本歴史』とかそういう雑誌がかなり多いので、これもまとめてダンボールに入れておこうと思う。あとは分類の難しい同人誌とか自分の書いたノートの類、パンフレットに案内書など。
今日は仕事に行く前に山麓に行こうと思い、いつもより2時間早い電車に乗る。午前9時に門前仲町という時間で、少し止まった。10時新宿発。一番早い特急で、2時間9分で着いた。
家で少し話をして山麓へ。その前に従兄弟を見舞い、『ぐりとぐら』を渡す。山麓に1時間ほどいて帰ってきた。
特急の中でショパンのCDのライナーを読む。エチュードとバラードの曲紹介。エチュードはやはり手の練習的な要素が感じられる。バラードはまだあまり聞き込んでいないのだが、すごく複雑な感じがする。
磯崎憲一郎の作品についてつらつら考える。私の書くもの、書こうとしているものとの共通性をすごく感じるのだけど、こういう感性というのは、少し前には詩の世界にもあった気がする。しかし、最近の詩の雑誌などを読んでいると、もうそういう感性は追放されてしまったような気がする。世代間戦争の結果だろう。いろいろ輪廻転生して小説の世界でそういうものが表現され得るようになって来たというのは、流れが来たと言っていいのだろうと思う。集中して取り組まなければと思う。
自分を自分で認められない苦しさと、自分に酔ってしまう愚かさは、表裏一体だ。『ピアノの森』の中で、雨宮がいろいろな先生からアドバイスを受ける。ショパコンの審査員でもあるパヴラスからは、自分の音が聞こえるようになれば殻が破れる、といわれ、今でも自分は自分の音が聞こえる、と反論すると、自分の音が聞こえるピアニストなどほとんどいない、と諭される。これはすごくよくわかるし、それは自分の作品を自分から離れてみることが出来るということで、かなり大変なことだ。しかし一人で書いていく以上、それが出来なければいけない。評価も、改善策も、モチベーションも、すべて自分でやらなければならない。
特に大事なのは、自分で自分の作品の価値を知ることだ。自分の作品の価値は、結局自分にしかわからない。しかし自分は、何かしらそこに価値があることを知っているはずだ。しかしそれが言葉にならない。言葉になるくらいならその価値は新しくはないのだから。それを言葉にしようとしてものを書いているのに、それが言葉にならないのは苦しいことだし、それが言葉にならないとそれをどのように洗練させていったらいいのかもわからず、完全に手探りの暗中模索になる。
少年時代の雨宮が阿字野に、「君はもっと自分のピアノを好きになった方がいい」といわれる。五年後、成長しスランプに陥った雨宮は苦しみの中で呟く。「先生、僕はまだ自分のピアノが好きになれません」自分のピアノの価値を知ること。自分の作品の価値を知ること。自分のピアノが聞こえるようになること。そう、リスナーとして聴いていたってそうだが、本当に好きなピアノしか本当には耳に入ってこないではないか。そういう意味でも自分のピアノが聞こえるようになるというのは大変なことだ。カイには「森のピアノ」という原点があるので、いつでも森のピアノを自分で弾けばいい。カイは小さいときから、自分のピアノが聞こえている。それが何よりも強いのだろうと思う。
ショパンは苦しみや悲しみ、不安や絶望をも曲に書いたと言われ、演奏者にもそうした人生経験の深さが要求されるという話がある。ショパンは物語から独立した純粋な音楽を追求した人だ、という話があるが、それは確かにそうだと思う。しかし物語から離れても何かを描いているというところはあるし、それをどう表現するかが解釈の問題だから、ショパンの楽曲は解釈の占める重要性はとても大きいと思う。そうしたいわば近代的自我の深さや闇を、私はどちらかというと否定的に見てきたのだけど、最近はむしろそういうものにすごく魅力を感じている。それは、自分の悩みや苦しみが、結局は近代的自我の産物であることに気がついてきたからだ。私はどちらかというと前近代的な明るさの中で生きたいと思ってきたし、知性の部分ではそういうものの方を肯定するのだが、自我の苦しみの部分はどうにも近代的で、私はどうしてもそういうものを形にすることを求めてしまうのだと思う。ショパンの曲がそういうものであるということを理解したとき、ショパンは確かに自分にとって大きな救いになった。そしてそれを翻訳して届けてくれる人の中ではアシュケナージのピアノが別格だということにも気が付いた。
自分を知るということは酷く困難だ。自分の中にある、自分の知性の範囲内では整理がつかないものを一つずつ知り、一つずつ承認していかなければならない。それは本棚の整理に似ている。今な本を持っていたのか、と思って赤面するような本が、実際結構多い。そういうものを否定したくなる気持ちを抑えて、そういうものを買って読んでいた自分もいたのだということを認めなければならない。本棚の整理が進んできたことと自我の整理が進んできたことはそういう意味でパラレルなのだ。
自分の知性や理性が認め難い自分の自我の中の要素をきちんと知り表現することは苦しいことだが、少なくとも自分にとって、私という人間個人にとっては必要なことだと思われてならない。誰にとっても必要なことだとは限らないが。
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"本棚の整理と自我の整理"へのコメント
CommentData » Posted by Kaoru Takagi at 09/08/26
「ピアノの森」をめぐる深い洞察に畏敬の念を感じます。私のブログで紹介させていただきました(トラックバックが送れなかったので、コメントさせていただきます)。
CommentData » Posted by kous37 at 09/08/26
コメントありがとうございます。ブログ、拝読させていただきました。『ピアノの森』、とてもいろいろ考えさせられます。考えたことがときどきふっと頭に浮かび、それをブログに書いているだけなのですが、それを読んでいただいて何か伝わるものがあるならとてもうれしいです。
どうぞ今後ともよろしくお願いします。