女性の美しさと自分の好みについて大まじめに論じるドイツ観念論哲学者
Posted at 09/07/18 PermaLink» Tweet
昨日は夜十時過ぎまで仕事をし、帰って来て夕食、少し全英オープンを見る。これを書いている時点で石川の最終成績は知らないのだが、よく頑張っているなあと思う。
今日は朝、八ヶ岳の山麓に出かける。土曜日なので遅い時間になると道が混むから大変だと思ったのだが、向うの都合もあるので8時半ころに出発。ほぼ国道を通るルートで行って、行きはまずまず順調に流れ、30分弱で着いた。向うで10時頃までいたから、大体1時間。少し話して愉気をしたりしたが、昨日まで湖畔にいて移ったばかりなので少しまだ慣れない感じだった。帰りがだいぶ道が混んでいて、違うルートを探しながら帰ったが、40分以上かかった。八ヶ岳の方面はほとんど車で行ったことがないので道を知らなくて困る。
美と崇高との感情性に関する観察 (岩波文庫 青 626-0)イマヌエル・カント岩波書店このアイテムの詳細を見る |
カントを読む。なんだか話がずっと女性美の話になってきていて、おやおやという感じだ。この書の成立年は1764年。カントが何歳のときなのか今調べがつかないのだが、かなり若いときかもしれない。美と崇高の概念が女性の顔つきに表れているときの記述。ことば遣いなどを少し(かなり)読みやすく変更。元は49ページ。
「その人間性に適う快適さが、主として『崇高』の人間感情的表現を目立たせている婦人を、本当の意味において美しいということが出来るだろう。また人間感情の様子が顔つきや顔立ちに『美』の性質をあらわしている婦人は快さを感じさせ、もっとその程度が高くなると可愛らしいということができる。」
難しいことを言っているが、「美と崇高」の対照で、「崇高さ」を感じさせるのが「きれい系」、「美」を感じさせるのが「かわいい系」、ということだ。
「「崇高さ」を感じさせる女性は平静な顔つきと高貴な容姿の下に、謙遜な眼つきから出る美しい知性の光をのぞかせていて、やさしい感情と好意あるこころとをその顔に顕して男の心の欲情と尊敬とを集める。「美」を感じさせる女性は笑うまなざしの中に活気と機知とを示し、品のある気ままさとひょうきんさといたずらっ気のある堅気さを持っている。前者が感ぜしむるとすれば、後者は面白がらせる。そして後者がいだいていてまた他人に吹き込む愛の感情は、ふわふわしているが美しく、それに対して前者が抱いている感情はやさしくて尊敬を伴い、また変わりがない。」
カントはやはりきれい系の知性美を持った女性が好きなんだなと感じさせる。そういうのは結局好みだということにカント自身が気づいているようで、
「私はこの種の詳しすぎる分析に入り込むことを欲しない。なぜかというに、こんな場合には著者というものは、常に彼自身の傾向を描くように思われるからである。」
と書いている。こんなものを大まじめに訳している日本のドイツ哲学の先学が何を思いながら訳していたのかと想像してみると噴出してしまう。解説を読むと、「本論文はカントの諸著作のうちでも異色のものとなっている」と書いてあって、そのあたりの感想から出たのかもしれないなと思う。
大体カントは先のところで、女性は知性を磨くのではなく美的感覚を磨くべきだ、見たいなことを主張しているのに知性的な女性が好みだというのは矛盾している。しかし、知性を磨くのに反対しているのは、頭の中が物理学でいっぱいの女学者、みたいなものに対する否定的な見解からきているので、つまりは男というのはかってなものだ、ということだ。女が勝手なものであるのと同じ程度には。
以下引用は原文ママ。(旧字体は新字体にした)
「フォン・ビュフォン氏の推定せるところ、すなわちこの衝動が尚ほ新しく発展しかけた頃に、第一印象を与へた其姿が原型として残り、将来空想的な憧憬を起こさせうる凡ゆる女性の形姿は、多少に拘わらずこの原形を指示するに相違なく、かなり粗笨な欲情はこれによって、一つの性のさまざまの相手の内から選択することを強制するのであるといふのは、正しいことかも知れぬ。」
難しいことを書いているが、つまりは結局最初の女――女性を意識した存在、という意味で――の印象に将来に渡って男の欲望は縛られる、ということだ。
「チルカシアとゲオルギアの女子達は、其の地を旅行する凡てのヨーロッパ人から、いつでも非常に美しいとされた。」
ゲオルギアはグルジアのことだろうが、チルカシアはどこだろう。つまり、美人は誰が見ても美人、ということを言っている。
しかし、顔つきの問題に道義性が加味されると、其の好みは異なってくるという。「きつぱりと麗しくないために、初めて会った時は別段感心もしなかつた容姿が、普通には、よく知つて好きになりだすと、またずつと牽きつけ、ますます美しくなるように見えることがある。これに反し、突然現はれた麗しい見かけが、漸次に冷やかに見られるようになることもある。」
こんなこと大まじめに言われても困るなあと思うが、「四畳半襖の下張り」とか江戸時代のばれ話を古書で読んでいるような感覚に近いなあと思う。
まあとにかくカントがこんなことを書いてるんだと思うと可笑しいし変に共感してしまう。
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