『茶道の歴史』:茶道と仏教の深い関わり
Posted at 09/07/04 PermaLink» Trackback(1)» Tweet
茶道の歴史 (講談社学術文庫 453)桑田 忠親講談社このアイテムの詳細を見る |
桑田忠親『茶道の歴史』(講談社学術文庫、1987)読了。何かインスパイヤされるものがあるのではないかと期待して読んだのだが、結局お勉強の本だったという印象が強い。しかし茶道の歴史についての全体像は確かによくわかった。能阿弥、村田珠光、武野紹鴎、千利休という流れ。利休に至るまでの歴史は読んだことはあったが、この本が一番判りやすいと思う。利休とその弟子たち、古田織部・小堀遠州までの時代については古田織部について調べたときにかなり読んでいたので、そう新しい発見はなかった。
この本の収穫は、それ以降だ。江戸初期の千宗旦と三千家の成立、片桐石州の石州流、松平不昧と川上不白、家元制度の成立、明治以降の茶道、財界人の茶道など、利休以後の茶道の歴史を概観できたのは良かった。
利休において、他者に頼ることなく目を磨き、工夫することが求められていたのが、江戸時代の身分制の確定と家元制度の縛りによって、茶道がどんどん自由度がなくなっていく様はなるほどなあと思いながら読んでいた。マンガや文学作品などに現れる利休、歴史文書に現れる利休の苛烈なまでの意志と、現在の「茶道」というものが持つ雰囲気とがどうしてギャップがあるのかよく分からなかったが、このように説明されるとなるほどと思う。
特になるほどと思ったのは石州の書いた秘伝書に、どうしてもお茶事にはなければならない道具として掛け物がある、という話だ。掛け物が席内の雰囲気を規定する。だからこれがなければただお茶をがぶがぶ飲めばよく、コーヒーを飲むのと同じことだ。「掛物があるのではじめてお茶になる。床の間の掛物は、仏様の存在を象徴するものです。だから墨蹟にせよ、何にせよ、床の間に掛物がかかっているということは、ここは茶室である、聖なる場所である、ということです。そういうところでお茶をやるのが、茶道ですから、掛物がなかったら、お茶にはならない。」(p.179)
なるほどと思う。お茶は、ある種の仏事だったから精神性が高いのであって、仏事だったからこそ墨蹟を飾り、禅となじみが深いのだ。いや鶏と卵だが。実際には真似事的な茶事にしか出たことがなくその席では掛物すらないのでそんなことを考えたことがなかったのだが、もてなしとか一期一会というのもそういうバックボーンがあるのだということを知ると正しく腑に落ちる。まさに目から鱗が落ちた感じだった。
今まで読んだ本に、茶の湯について芸道との関わりを解説してあるものはあっても、これだけ明確に仏教、特に禅との関わりについて書いてあるものはなかった。しかしこれは本質的に重要なことだ。茶道をやる人はそういう宗教性のようなものをあまり強調したくないのかもしれない。特に学校でも茶道部などをやっているからあまり宗教性が強調されては何かと良くない面もあるのかもしれない。しかし芸能というもので、全く宗教と関係ないものはありえないわけで、そんなことを言い出すともともと神事である相撲も公立学校ではできなくなってしまう。しかしそんな形で脱宗教色が強調されすぎるとそういう芸能の持つ本当の力というものが曖昧にされてしまうことにもなる。少なくとも本質を見る際には、そういう宗教的な要素は避けて通るべきではない。
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