白洲正子から学んだものを思う
Posted at 09/06/24 PermaLink» Tweet
朝起きたときには雨は降っていなかったのだが、6時前から降り出しさっきまでずっと降り続いていた。今は薄日もさしている。10時20分。いろいろと段取りが悪く振り回された感じだが、ちょっと時間ができたのでブログを書くことにした。緑が濡れるように美しい。「万緑の中や吾子の歯生え初むる」と詠んだのは中村草田男だった。万緑、という言葉が、この時期には実感される。
今までいろいろ模索をしてきた中で、見落としていた、と思うのは、「つながり」ということの大切さだ。クリエイティブであるということを、無から何かを生み出すこと、心の内奥から何かを拾い出すことだと思ってきた。それはどちらかというと信仰に近く、自分の中の創造の神話のようなものだった。村上春樹が、作家はエッセイを書かない方がいい、エッセイを書かずにそれを全部小説に生かす方がいい、ということを言っていて、こういうふうにブログにいろいろなことを書いたりするのは、クリエイティブな文章を書く上でマイナスなのかもしれないと思ったりもしたのだが、どうもそういうことでもないようだ。
村上がエッセイを書かない、というのは自分の中にある書く動機、書くべきもの、たちを無駄遣いしない、ということなのだろう。一方で肉体を鍛え、毎日同じペースで書きつづけることで、ペースを頑固に守っている。自分は毎日書くことで書くペースをつくっている。書くための身体になる、というのが村上の戦略だが、私の場合は書くための環境を作ることにもっと心を砕いてもいいと思った。
身の回りにクリエイティブなもの、美しいものを置くこと。常に創造的な、機能的な空間にしておくこと。そういうことが、クリエイティブな文章を生み出すことに地続きなのではないか、ということを『細川護煕 閑居に生きる』を読みながら思った。彼は政界引退後、場をつくり道具をつくり、弟子入りし、次々に新しいものを生み出す環境を整え、また作品を作りつづけている。場所作りは確かに作品と地続きだ。それは白洲正子がいいものをいつも身の回りにおいて使っていたということに通じる。
古いいいものを身の回りにおいて使う。それは、自分の今が、日本の歴史や文化、奥底の意味での伝統と地続きであることを感じることだ。白洲正子から学んだことはたくさんあるが、このことはかなり大きなことだろう。身の回りに石仏があって、そこから石仏への関心が生まれる。抽象的なものでなく、そこにいるいわば友達からの出発。
近江山河抄 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)白洲 正子講談社このアイテムの詳細を見る |
もうひとつ、昨日『近江山河抄』を読んでいて分ったが、このエッセイの冒頭はずっと、近江の「国誉め」の文章だ。歌うように、固有名詞を連ね、その場所をうたい、そこに住む人を歌い、そこにあるものを歌う。歌われた山河たちはいきいきとした表情を見せ始める。まるでそこに命があるように、山河の本当の姿を見せ始めるように、白洲は書く。
このリリカルな、抒情的な叙景、叙景的な抒情。この歌うような書き方を、自分はものにしなければと思う。
人はいろいろなものと繋がっている。過去とも未来とも繋がっている。あったはずの未来とのつながりが断ち切られる話が、『1Q84』だろうか。あったはずの過去とのつながりも断ち切られている。つながりが断ち切られたことに自覚的な人と無自覚な人。そのつながりをどう考えるか。
若い頃からずっと、どちらかというとつながったものよりも、かけ離れたもののほうに惹かれてきた。つながりがないからこそ面白い、と思ったことも多かった。しかし、自分が何かをやろうとしたとき、そのものとのつながりがなければそのものに付き合うこともできないのだR。この40年はだから、切断と接続の連続。つながりが感じられないものと付き合う消耗。つながりのあるものとの繋がり方への不満。断ち切ろうとしたつながりの重要性に何年もたって気づくこと。つながっていたはずのものがもう繋がっていなかったと気づく悲しさ。
自分の中が、何と繋がっていて何とは繋がっていないのか、繋がっているように見えたものたちと繋がっていないように見えたものたちと、その本当はどうだったのか。今になってみると、昔見えていたのとはまた、見え方が違ってきている。
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