忌野清志郎賛江
Posted at 09/05/10 PermaLink» Tweet
昨日。忌野清志郎の葬儀式に出かけた友人から何枚も写メールが届いた。夕方仕事を終わって上京したが、調子もいまいち不安だったので私は行かなかったのだけど、参列者4万人超、すごいことになっていたらしい。
帰ってきてネットをみながらいろいろ思い出し、そしてレコードをかける。私が持っているのは『シングル・マン』と『Please』『Rhapsody』の3枚。シングル・マンはハードフォークの時代の末期、プリーズとラプソディーはロックバンドになってからだ。まだまだ完全にブレイクする前の作品で、このあたりのものが私は一番好きだ。いろいろサイトを調べて見ると『Blue』というアルバムがあり、これはもともとカセットでしかでてなかったらしい。戸川純の『裏玉姫』みたいだな。でもこの中にいろいろ話題になっている曲も入っているし、ちょっとこれは改めて聞いてみたい気がした。
忌野清志郎はその後坂本龍一とのコラボで完全ブレイクし、RCは日本を代表するロックバンドになった。プリーズってもうそういう時代だとなんとなく思ってたけど、これよく考えてみたらまだ久保講堂なんて小さな会場のライブなんだよな。大学生のころの自分にとって1000人収容のコンサートホールなんて巨大な感じだったけど。
清志郎はその後原発問題や昭和天皇の病気の自粛ムードを批判したりして、ちょっと社会派っぽくなっていった。私自身も原発問題を扱った芝居を書いたりしていたので、方向性は似てるなと思ったのだけど、平成に入る頃からそういう方向ってなんだか変だなと思い始めていて、そっちに突っ走る清志郎に違和感を覚えていった。あのころにはもうあまり清志郎は聞かなくなっていた。実際、原発問題を扱ったアルバムの発売停止などをめぐってRCのメンバーの中でも分裂があったみたいで、それは気持ちはよくわかる。なんかね、平成になったころってみんな社会派を気取る傾向があって、そういうのすごく嫌いだったんだな。清志郎もまあそこだけ見たら似てる感じがして、「何だよこいつもジョン・レノンになっちゃうのかよ」と思ってた。そしたら『イマジン』とか歌っちゃってさ。やだったな。
だから平成に入ってからは、思い出したようにしかRCのレコードも聞かなかった。レコード針もいかれちゃったし。CD買う気にはならなかった。
今こうして、清志郎が死んで、何万人も葬儀に参加したって話を聞いて、ちょっと反発さえ感じた。みんな本当に清志郎が好きだったのか?どこがよかったんだよ、って。ビートたけしの出てる番組で齋藤孝が、清志郎は戦後民主主義をいい意味で一番体現してたって言ってて、ああそうかも、って思ったりした。まあ言いたいことはわかる。
でもまあ、本当はそんなものに、そんな枠に収まる人じゃないんだ、ってやっぱり思って。で、レコードを出してきて聞いてた。ネットでまたいろいろ調べたり。『スローバラード』が好きだった。作詞者にもう一人名前が出ている「みかん」という人は、そのころの清志郎の彼女だったんだそうだ。そのみかんさんも、もうなくなったらしい。時というのはそうやって過ぎて行っちゃうんだなと思う。
RCも死者を送るうたがいくつかあって、「ヒッピーに捧ぐ」と「エンジェル」。「ヒッピーに捧ぐ」、こないだ夜車の中でFMをつけてたらかかってて、ヒッピーと言うのは売れない時代のRCのマネージャーだった人なのだ、ということを始めて知った。ネットって便利だな。あのころ全然知らなくて、最近になってネットで知ったことって本当にたくさんある。でもそれって本当にいいことなのかな。知らない方がよかったんじゃないかという気もする。いや、そんなことはいいんだけど、「検死官と市役所は君が死んだなんていうのさ」って歌詞があって、今清志郎の死に際してそう思ってる人ってたくさんいるよなあと思った。だって、声に存在感がありすぎる。今だって、自由自在にいろいろな歌を歌う清志郎の声をまざまざと想像できるもの。その声が聞けないなんて本当に悪い冗談だ。「電車は走り出した ブタどもを乗せて 僕を乗せて」・・・こんな歌詞を書く人が戦後民主主義の優等生じゃないよな。
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「エンジェル」。一番いいなと思ったのは、「嘘つきだから 甘いメロディー知ってる」というところ。言葉の使い方が本当に上手い。「いけないルージュマジック」でもコマーシャルで「いけない」という言葉はないんじゃないかと指摘されて、「ばかじゃないの。危ないからかっこいいんじゃないか」といったというけど、80年代最初には本当に新鮮な感覚だったんだ。
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『シングル・マン』にはホーンセクションで来日中のタワー・オブ・パワーとか(知らなかったけど)、キーボードでミッキー吉野、加入前のG2などが参加してるんだと言う。でも権利関係でそれらがクレジットされなかったらしく、で、ジャケットに「このレコードは世界的なスタジオ・ミュージシャンを豊富に使用しております。安心してご利用ください」というふざけたコメントが乗せられている。最初見たとき何の洒落だか全然わからず、なんだかめちゃくちゃふざけたバンドなんだなと思っただけだったのだが、本当に世界的なスタジオミュージシャンを使用していたとは思わなかった。ジャケットは「幼児児童絵画統覚検査図版」とかいうよくわからない絵を載せてて、ぺらぺらの中ジャケはこの絵を真似たメンバーが変な格好して写ってる。最初見たとき「ジャンキーのままごと」って感じの印象を受けたが、マジでやばかった。
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で、それからジャケットのコメントを見るのが楽しみだったのだが、プリーズには「このレコードには、人工甘味料、合成着色料、防腐剤などは、一切使用されておらず、すべてバンドマンだけで演奏されています。安心してご利用ください。」と書いてあるし、ラプソディには「このレコードはなるべく大きなボリュームで聞いて下さい。尚、小さな音量でも安心してご利用いただけます。」と書かれている。甲本ヒロトが弔辞で言ってたように、「数々の冗談、ありがとう。いまいち笑えなかったけど。はは…」って感じだ。
実際、甲本ヒロトの弔辞を読んでて、私は初めて泣いた。ようやく自分の哀しみに、本当に気づいた。『でも今思えば、全部冗談だったんだよな。うーん。今日も「清志郎どんな格好してた?」って知り合いに聞いたら、「ステージ衣装のまま寝転がってたよ」っていうもんだから、「そうか、じゃあおれも革ジャン着ていくか」って来たら、なんか、浮いてるし。…清志郎のまねをすれば、浮くのは当然。でもあなたは、ステージの上はすごく似合ってたよ。ステージの上の人だったんだな。』
そうだったんだな、と思う。清志郎の真似をしたら、浮くのは当然なんだ。でも、周りから浮くのがロックの精神て言うもんだよなと思う。RCも、最初は全然理解されなくて、スローバラードなんてどう考えても名曲なのに全然売れなくて、人が何人も死んで、もうめちゃくちゃだったのに、それを通り越してメジャーになった。もうなんていうか、彼らの存在自体が奇跡だったとしか言いようがない。清志郎も最初から最後までずっと浮きまくってたのに、アレだけ成功してしまった。南こうせつが清志郎のことを、「本当は何を考えてたのか、教えて欲しい」といってたけど、その気持ちはすごくよくわかる。何も考えてなかったんだと思う。考えることを捨てたんだと思う。感じることを歌ったんだ。だからあれだけ突き抜けることが出来た。そういうふうにしか思えない。
忌野清志郎の名を最初に知ったのは、井上陽水のアルバム、『氷の世界』を買った中二のときで、その中の『帰れない二人』の作詞者としてクレジットされていたのをみたときだ。1976年。それからもう、33年かあ。いま、『氷の世界』を自分のレコード棚で探したけど出て来ない。自分で初めて買ったLPだったんだが。まあそれはいいとして。あの時、こんなリリカルな詞を書く人がああいうヴォーカルなんだとは全然知らなかった。
やっぱり、私にとって清志郎は「声」だなと思う。あの声。全知全能。何でも歌える。何を歌っても清志郎になる。その声が原因だったのか、喉を病み、そして逝った。享年58歳。
最後にやはり甲本ヒロトの言葉で締めたい。
「あと1つ残るのは、今日もたくさん外で待っているあなたのファンです。彼らに、ありがとうは僕は言いません。僕もその1人だからです。それはあなたが言ってください。どうもありがとう、ありがとう!(遺影に右手を振る)」
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