破綻のない美と破壊力のある美
Posted at 09/03/11 PermaLink» Tweet
小堀遠州 綺麗さびの極み (とんぼの本)小堀 宗実,熊倉 功夫,磯崎 新新潮社このアイテムの詳細を見る |
昨日帰郷。行きがけに丸善に寄り、『小堀遠州 綺麗さびの極み』(新潮社とんぼの本、2006)を買う。千利休、古田織部と読んでくるとやはりその後を受けた小堀遠州のことも大まかなところは知っておきたい。ああそうか、と思ったのは建築家の磯崎新と遠州流の継承者、小堀宗実の対談で、桂離宮に遠州の美意識が体現されている、という話。桂離宮と遠州との関わりは史料的には欠けているようだが、両者は実際にはかなり関わりがあったのではないかと推測している。だから今のところ桂離宮が遠州の美意識の表現だという言い方は反則のようなのだが、こういう感じだといわれればなるほどという感じである。
利休が侘びを道具のシンプルさ、主張を消したような「黒さ」に求め、また茶席も思い切って狭くして主客の緊張感を高める工夫をし、また織部が道具の面白さ、特に食器のバラエティに富んだ華やかさに新境地を見出し、茶席でも趣向の新しさ、面白さを追求したけれども、遠州は両者の一部の数寄者しかついてこられないような高みへの追求だけでなく、万人向けに美を味わういわばマニュアルのようなものを提供したという感じがあるのだなと思った。利休も織部もいわば談志や初期のダウンタウンのような「分らないやつは笑わなくていい」という部分が強かったが、遠州は丁寧にいいところを分りやすく提示するだけでなく、茶席も広げて緊張感を減らし、また完成度を上げて織部のような実験的な試みは極力押さえているように思う。美のマクドナルド化といえば言い過ぎだが、遠州の人脈の広さ、敵の少なさには利休や織部にはないところがあり、逆にそういう点において晩年の織部とあまり上手く行かない点があったのではないかとも思った。この本はもともと『芸術新潮』誌上での特集を単行本化したものということで要するに万人向け、初心者向けの感じがあるから、遠州自身をもっと掘り下げたものを読んだり、同時代や後代の茶人、たとえば千宗旦や松平不昧などと比較してみる必要があるかもしれない。
私の感じとしては、やはり遠州の美は分り易すぎるという感じがちょっとする。桂離宮もあんまり入れ込む気になれないのはそういう部分な気がしていたので我が意を得たりという感じではあったが、おそらく実際に行く機会を得れば違う部分でものすごく感動するだろうという気もしないではない。(多分、使われている材木の良さとか、そういうところで感動するのではないかという気がする)
何というか、遠州の美には破綻がない。誰が見ても納得できる。たとえば利休好みの長次郎の黒楽茶碗とか、織部好みの歪んだ沓形茶碗などを見せても、何も知らない人だったら何がいいのか面食らうだろう。しかし遠州の作庭は何も知らない人でもいい庭だという気にさせるものがある。説明が多いといえばいいだろうか。庭の敷石一つにしても、きちんと直線を造った上でバラバラな形も埋め込み、わざと形を崩しているんですよ、ということを説明している。利休のように最初から真っ黒だったり、織部のように最初から歪めたり子どもの落書きのような染付けをしたりといった不親切なことはしないのである。
なんというか、自分がそれまでそういうものを求める傾向が強かったので、その感じはとても理解できる。理解されないものを作るよりは、理解されやすいものを作りたい、といえばいいか。しかし私が本当に好きなものは何を考えているのか分らない、見ていて呆然とするようなものなのだ。そのあたりにジレンマがある。
本当に時代を切り開くのは利休や織部のような破壊力のある個性だろう。しかし世の中が落ち着いてくると遠州のような世の好みを定式化する、超絶した美の天才の世界を社会に軟着陸させるような作品の作り方の方が大衆からも権力からも求められるようになる。スターリンは大衆によって支持され、天才たちを弾圧したのだ。遠州は権力者に求められる資質を兼ね備え、また広く大衆レベルで支持される個性を持っていた。
今の時代というのはまさに遠州のような人材がもてはやされている時代だなと思う。しかしそれでは不満だという人も多い。新しい織部や、新しい利休の出現を待望している人も多く、新しい織部、新しい利休たらんとする人も多く出てきているようにも思う。
***
いろいろ考えているうちに、白洲正子の書いていることが今やろうとしていることと関係ある感じがしてきた。とりあえず『遊鬼―わが師 わが友―』(新潮文庫、1998)を持って行く。
遊鬼―わが師わが友 (新潮文庫)白洲 正子新潮社このアイテムの詳細を見る |
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