「自分に問いかける」ことは「自分を疑う」ことではない
Posted at 09/03/02 PermaLink» Tweet
Comic ZERO-SUM (コミック ゼロサム) 2009年 04月号 [雑誌]一迅社このアイテムの詳細を見る |
土曜。午前中蔦屋に行って少し立ち読みし、コミックゼロサムを買って帰る。『ランドリオール』はサムライの人。夏休み編が続くが、アカデミーからの使者が到来し、そろそろストーリーが動き出しそうな感じ。仕事をして夜の特急で帰京。
ANSWER<初回生産限定盤>ERJ(SME)(M)このアイテムの詳細を見る |
帰ったらアンジェラ・アキのニューアルバム、『ANSWER』が届いていた。これは昨年ヒットした「手紙 拝啓十五の君へ」を中心にしたアルバムだが、ややベスト盤ぽい構成な気がする。まだちゃんと聞き込んでないので何とも言えない部分もあるのだが、印象に残ったのは3曲目の表題曲「ANSWER」と9曲目の「We're all alone」。これはインディーズで出した最初のアルバム、『One』に収められていたボズ・スキャッグスのコピー。私が最初に買ったCDはメジャーデビューアルバムの『Home』だったが、アコースティックなピアノのみの演奏の『One』は捨てがたい魅力がある。たとえば「Rain」は『Home』にも収められているが、バックバンドのついた『Home』のバージョンもいいけれども、アコースティックな『One』は一味違って心に染みる。
『日本歴史』の3月号も。関心があった論文は木下聡「中世後期における武家と受領官途」と山田康弘「細川幽斎の養父について」。中田興吉「王の後継者候補」も。山田論文は近世大名の肥後細川家が室町幕府の管領細川家と基本的に関係がないということを明らかにしようというもので、興味深い。幽斎の出自については以前から不思議に思っていたので、これはかなり興味深い論文だと思った。木下論文は戦国大名たちの受領名と領国支配の関係についてのもの。どうも何だかはっきりしない感じで、これが決定版というのでもないのではないかという気がする。今のところ以前読んだ今谷明とかのものの方の印象がまだ強い。
わしズム 2009年 3/25号 [雑誌]小学館このアイテムの詳細を見る |
日曜。朝から確定申告の書類作成。ネット上で作成したのだが、アクロバットの新しいバージョンが要求されたりして思ったより時間を食ってしまった。でも2時間くらいか。それから友人と電話で少し話し、買い物に。友人に紹介された本を探したのだが、見つからなくて結局『わしズム』の最終号を買って帰った。小林よしのりが佐藤優と『SAPIO』誌上で対立していることは知っていたが、この号ではその経緯が実に細かくぶちまけてあって爽快感さえある。そういう経緯もあったからこの号は多分読み応え十分だろうと思って買ったのだが、案に相違せず読み応え十分だった。小林よしのりも久々に気合十分で、また一時のような台風の目となる活動を再開するのかどうか、注目している。今は彼は「天皇論」に取り組んでいるが、昭和後期の一般の人々の素朴な天皇観に依拠したもので、いつも読むたびにこの人は真っ当だなあと思う。
ブッダ (1) (手塚治虫漫画全集 (287))手塚 治虫講談社このアイテムの詳細を見る |
自分と学問の関係について。考え始めると考えきれず、思考がストップしてしまう。なのに異常に疲れる。そういうことを繰り返していた。何か考える材料を入れないと、風呂釜の空焚きのようになりそうだったので久々に手塚治虫『ブッダ』を13巻読み返した。改めて読み返してみてもやっぱり手塚治虫は天才だと思う。ことばがストレートに心に届く。カットも素晴らしい。ギャグの挿入の仕方も今読んでもまだまだ色あせていない感じがする。絵についても今改めてみると本当にすごいなあと思う。もし手塚を読んでいない人が今の漫画家の作品を読んで手塚と同じことをしたとしたら、きっとすごく斬新なコマの割り方だと感心するだろうものがたくさんある。今の作家ならもっと大ゴマで割るだろうと思うようなものを小さなコマで表現したりしている。『ブッダ』もわずか13巻だが、今の作家なら同じネタでもっともっと長大に書くだろう。手塚のマンガはエッセンスが本当に詰まっていると思う。
ネームというかセリフにしても読んでいてそのコマを見て本当に心を打たれるのは、そこに「叫び」があるからなんだなと思った。本当に魂の底からの感情の吐露。生死の境目で生きる古代インドの人々の、もちろんフィクションだし手塚ワールドではあるのだが、そのなかでぎりぎりのところで生きる人たちを描き出すがゆえに魂からの叫びとしか思えないような言葉を発することが出来るのだろう。もちろん客観的に見たら批判できるところはいくらでもあるが、読んでいる最中はそんなことどうでもいいと思うようなことばかりだ。
エンゼルバンク 5―ドラゴン桜外伝 (5) (モーニングKC)三田 紀房講談社このアイテムの詳細を見る |
先週発売の『モーニング』、「へうげもの」ばかりが印象に残ったので書いていなかったが、「エンゼルバンク」の中に出てきた言葉を思い出した。それは、まとめれば
客観性は育てられるが、当事者意識は育てられない。
というものだ。これはなるほどなあと思った。というよりも、何をやるにしても当事者意識のない人と仕事をするのは敵わない。また自分の人生に対しても当事者意識というのは大事なことだ。なんでも人のせいにする人というのは基本的に自分の人生に対する当事者意識が欠けているといえる。マンガを読んでいても、没入して読んでいるときはそこから何かを受け取ろうと全力で読み取ろうとしている。そういう時はまさに当事者意識全開である。というか当事者そのものでそのことを意識すらしていない。読み終えたあとでつらつら思い出すときはやや客観的になっていることも多く、そういうときに結構作品の中の矛盾だとか細かいミスに気がつくものだ。
しかし作品としての価値がそういうことで損なわれるという考え方はつまらないと思う。没入して読んだときに何が受け取れるか。そこに魂の深いところで受け渡される何かがあるのであって、言葉にしきれない交流がそこに生じるのだ。
もう一つ、なんとなくテレビを見ていたらNHK教育の「こころの時代」の再放送で元花園大学学長・大珠院住職の盛永宗興氏が話しているのを聞いていたら、面白いと思ったことがあった。それは、うろ覚えなので正確ではないが、「正しいことをしようとしたらだめだ。自分が間違ったことをしていないか、と問いかけなさい」ということばだった。
これは花園大学が経営している幼稚園の父母の前で話したことで、今日家に帰って言われたとおりの「ただしい」ことを子どもたちに急にやろうとしてもだめだ、そんなことをしたら子どもが混乱する、ということだ。これはすごくよくわかる。私も今まで、いろいろ考えたり本を読んだりしてひとつの結論に達し、「これが正しい」と思うと、その通りに実行しようとしてやけに軋轢を起こし、結局長続きしないということをよくやっていた。自分以外のところに「正しい何か」があり、それを導入すれば万事解決する、という考え自体が問題があるということなのだ。これは息を止めてプールに飛び込むようなもので、ある程度は泳げようが長続きはしない。それまでの自分というのは捨てようと思っても捨てられるものではなく、必ずついてくるし、捨てようとした自分自身に必ずしっぺ返しをする。
自分が新しい局面に乗り出したり、あるいは自分を取り巻く環境の大きな流れが変わったりしたときにそれに対応するために変化するというなら話は違うのだが、正しい方向に自分を変えようとするのではなく、それを聞いて、自分が間違っていないかどうかを自分に問いかけてみる、間違っていたら直す、という考え方がだいじで、その結果が正しい方向に進むことになる、ということを言いたいのではないかと思った。
仏教には八正道というものがあるから、「正しい道」があってそれをやるかどうかの問題だ、という考えがあったのだけど、というよりは自分がそれを聞いたときに「間違っていないかどうかを自分に問いかける」ことが大切なことなんだと思った。
まあなかなか人生間違いだらけで、いちいち間違いを認識していたら気が狂うのではないかという気もするが、まあ直せるところから直していけば少しはましになるということもあるだろう。一気に正しさを実現できるという考え自体が横着なんだろう。
もう少し考えを進めて思ったのは、「自分に問いかける」ということは「自分を疑う」ということとは違うことだ、ということだ。「自分に問いかける」のはいいが、「自分を疑う」のはよくないことだ。この当たりに誤解があって、「自分は反省しない」と公言する人が出るんだろう。私も正直言って、自分に問いかけようとすると自信のない自分がわめき出しそうになる感じがあった。しかしそれは、常に自分自身に疑われてきた自分のある種の正当防衛だったのだと今では思う。
考えてみればわかることだが、人に疑われてばかりの人間が自信を持てるだろうか。その疑う人間が自分自身であったら。いつもおどおどして緊張して何か言われないかとびくびくしている状態になるのは当たり前だろう。通常の状況で人を疑うのはよくないことだ。人を疑うというのは、すでにある意味で戦闘状態に入っているのだ。戦わなければならないとき、疑わなければならないことも当然出てくるだろう。しかしそういう状況でないのなら、あるいはそういう状況でないという前提で行動しなければならないほとんどのときは、人を疑うのはよくないことだ。
しかし、問いかけるのは疑うこととは違う。問いかけるのは、心を交流することだ。問いかけるのは話しかけることと同じで、別に答えがなくてもいいし、あらぬ答えが帰ってきてもいい。自分自身に問いかけることで、自分の中で無意識に粗くなっていたりすさんでいたりした部分に気がついて、それを直すことは必要なことだ。特に大人になると、さらに年を取ると、人に注意されることは少なくなるので、自分で常に自分に問いかける習慣を持たなければならないと思う。
自信を持って行動しなければならない。しかし常に自分が間違ったことをしていないかと問いかけなければならない。間違っていたら直せるものは直せばいいし、直せないものは心を痛めるしかない。しかし常に、自信を持って、つまりは責任を持って行動しなければならないことに変わりはない。
さて自分と学問のかかわりについて考えていてこんなことが出てきたのだけど、つまりは自分の人生についてこれでいいのかと問いかけて、よくないところがたくさんあると思うからこそ出てきたことだ。どこがどうよくないのかということが、自分と学問やそのほかいろいろなこととの関わりについての答えになるのだろうと思う。さてもう少し考えて見たい。
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