ピカソ展/ブックファースト新宿店/ダンスマガジン1月号/橋本治の面白さ
Posted at 08/12/09 PermaLink» Tweet
昨日は充実した一日だった。
昼前。昼食の買い物に出ようと思ったら電話が入り、置き薬の集金に来るという。ここ一年余り何も使っていなかったから少々悪いなと思っていたのだけど、先日きずバンを一つ使ったのでその代金を払えた。525円、というのは少々高いと思ったけれども。
昼食の買い物に自転車で西友に行ったついでに郵便局でお金をおろす。帰ってきて昼食を済ませ、1時過ぎに出かける。乃木坂の国立新美術館にピカソ展を見にいった。(ちなみにこのサイトの下の方の割引券を印刷していったので100円引きになった。)
この展覧会はサントリー美術館とコラボレートして六本木の二つの美術館でピカソを見られるという企画。どちらに行こうか迷ったのだが、点数が多いということもあり国立の方にしたのだ。
私はピカソを偉大な天才だと思っている。それは20数年前、バルセロナのピカソ美術館に行って衝撃を受けたからなのだ。それまでピカソの絵はあまりよくわからず、バルセロナの美術館もむしろミロが目当てだったのだが、ミロはあまり面白くなくて、ついでにいったピカソがめちゃくちゃすごかったのだ。ピカソをまとめてみるのはそれ以来のことなので、何だかちょっと緊張して出かけたのだった。
……実際にはそれほどのことはなかったんだなこれが。点数は多くても素描や習作が多い。バルセロナの鬼気迫るような充実ぶりに比べると何だか間が抜けているといっては悪いが、お勉強に行く感じで、ピカソの真髄を見られる、というものではない。来週末出来ればサントリー美術館の方も行こうと思っているのだが、こちらはポートレートとテーマを絞っているのでそのあたりは見ごたえがあるかもしれない。
しかし行ってよかったこともある。バルセロナにいったときは本当にただ圧倒された感じで、何がよかったのかもわからないで過ぎてしまったのだけど、今回は入場者数が多くて一つ一つをじっくり見られないという難点はあったものの、特に1920年代の「うにゃっ」とした造形の時期がピカソの全盛期なんだなという実感を得られた。ピンクで丸くて、丸めた粘土とか***みたいな造形。生き生きとして生命力があって、いのちがそのままキャンバスに定着させられているような造形。あれがいちばんいい。ピカソって本当にいろいろなことをしている人なので、本当は誰かと一緒に行ってああでもないこうでもないといいながら楽しむものなんだよな。残念ながら一人で行ったので一人で面白がってるしかなかったのだが、これは好きな人と一緒に行って盛り上がるべき展覧会だ。
もう一つ今までなんとなく気が付いていたけど意識はされなかったことなんだけど、ピカソは目の造形がいい加減なのだ。いい加減といって悪ければ、目もワンノブゼムなのだ。絵を描く人というのは、目の描き方に本当に心血を注いでいて、そこにすべてが現れているといっても過言ではない、方が普通なのだ。だがピカソはそれがどうした、という態度で描いている。そこが面白いなと思う。そういう人っていそうでいないのだ。
ファッションの本を読んでて思ったのだが、モデルの個性をなるべく消して自分の服を見せようとするデザイナーがいて、アレクサンダー・マックイーンなんかが典型なのだが、ああいう人たちは本当に目の扱いに苦労している。人間を見て、一番最初に目が行って、そこに呪縛させられてしまうのが目なのだ。画家がどんなに他のところを一生懸命かいても、素人の鑑賞者はどんな顔のどんな目をした人が描かれていたか、ということしか普通は覚えていない。ピカソはそこに肩透かしを食らわす。で、どこを見たらいいのかわからなくなる。線の一つ一つのヴィヴィッドさが他の画家にはありえないくらいのものだということを把握すると、ピカソは本当に何を見ても「いい」のだが、そういう見方に達するには相当の数を見る必要があって、バルセロナは本当に絶好の場所だった。
まあそういうわけである意味非常に堪能したのだけど、カタログとか買おうという気にならなかった。だってピカソなんだから!世界一の画家なんだから!本物じゃなきゃ意味ないよ!・・・リトぐらいならそのうち買えるかなあ・・・
地下のミュージアムショップを物色。面白いTシャツやネクタイなどが欲しかったのだが、高い。アートだからってそういう値段じゃ売れんだろう。せめてTシャツは3000円前後、ネクタイは5000円前後にして欲しいと思う。しばらく不況だからそのうち下げてくるとは思うけど。不況のときほど世の中を明るくするようなものを着て歩きたいなと思う。
2階のヴォーグカフェでフルーツケーキのセット。『橋本治と内田樹』を読み耽る。夕陽が差し込んで気持ちがいい。こういうカフェって男の一人客って私だけのことが本当に多いのだが、なんでだろう。いや、男の一人客ばっかりだと私が落ち着かないからいいんだけど。
乃木坂から明治神宮前に出、新都心線で新宿三丁目に出て丸の内線に乗り換え、西新宿まで。新宿三丁目の乗換えが非常に便利。西新宿で出て青梅街道から中央通りのほうへ歩き、夕日を見ながらコクーンタワーまで歩く。今まで気が付かなかったのだけど、中央通りが二層構造になっていて、地上の方は京王プラザのところで行き止まりになっていた。それで地上のこの道に馴染みがなかったのだ。いつも高層ビル群に行くには地下の道を通っていたから。コクーンタワーのブックファーストもやはり地下からの道が便利なのだけど、あえて地上から入っていった。銀杏が色づいて落ち葉が風に舞って、この道は私は好きだ。
COLOR RULES ビジネススーツを着こなす 成功する男の印象法則飯野 未季TAC出版このアイテムの詳細を見る |
ブックファーストでは昨日気になった飯野未季『Color Rules』(TAC出版、2004)と坂口安吾『風と光と二十の私と』(岩波文庫、2008)を買う。『Color Rules』は服の色の選び方の本で、肌の色を基準に似合う色を探すという趣旨。私はクール系のシャープな色合いの方が似合うという判定が出て少々驚く。どちらかというとウォーム系のもののほうが多いし。でもウォーム系のものを着てもアクセントでクール形の色を使えばいいのだとか、参考になることがたくさん書いてあって結構勉強になると思った。昔はどんな服を着ても無理やり似合わせていたが、この年になってくると自分に似合うものを探して着るべきなんだなと思う。デザイナーよりスタイリストの方が必要な年なんだと思う。
風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇 (岩波文庫)坂口 安吾岩波書店このアイテムの詳細を見る |
坂口安吾は久しぶりなのだけど、「私は蒼空を見た。」という書き出しを読んでこれは買わなければいけないと思った。こういう書き方を私はしたいのだ。橋本治の書き方についての話を読んでいるとこの人は私の師匠だなあと思うのだけど、坂口安吾も別の意味で師匠だなあと思う。
1階に上がってBlue Square Cafeに行ってみる。ここはネットに接続したパソコン(マッキントッシュ)やi-podが自由に使えるようになっている。昨日は読まなかったが、置いてある本も自由に読めるようだ。私は(多分)初めてマックでネットに接続し、i-podを使ってみたが、お洒落だなとは思う。使い方がピンとこないところが多くて困るのだけど。イベントスペースもあって、今日の夜に『薄氷の踏み方』の講演会・サイン会が行われるのだけど、残念ながら参加できない。残念。
スバルビルの地下を歩いていたらみずほ銀行の前で宝くじを売っていたので久しぶりに3枚だけ買った。3枚で三億円当たるといいな。車が欲しいから、300万円でもいいけどね。
DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2009年 01月号 [雑誌]新書館このアイテムの詳細を見る |
JRに載って東京駅に戻る。オアゾに行ったら一階のイベントスペースで全国大学ラグビーの抽選会をやっていた。一回戦から早稲田と関東学院、慶応と帝京だそうだ。二階に上がって『ダンスマガジン』を見たら、2009年のお勧めステージプレビューDVDがついていたので、速攻で買った。帰ってからじっくり見たのだけど、いやあこれは堪能した。このDVDがついて1500円ならまさにお買い得だ。今まで見たことなかった上野水香のステージとかも見られたし、昔映画で見たアントニオ・ガデス舞踊団の『血の婚礼』とか、もちろんダイジェストなんだけど本当に見ごたえがある。これはお買い得。
血の婚礼 [DVD]東北新社このアイテムの詳細を見る |
銀座に行きたくなってまたJRに乗り、有楽町に出る。プランタンの横から中央通りに歩き、教文館、ブルックスブラザーズ、ユニクロと梯子。襟の角がスーツのラペルに隠れる白いワイシャツを買おうと思って探したのだけど、手ごろな値段でいいと思うのがない。だいたい自分のサイズを把握してないのでいつも困る。結局伊東屋の裏の青山に行って安売りのワイシャツを買った。40―78というサイズ。しかしこれ、帰ってきて着てみたら襟は少し大きく、袖は少し短い。たんすの中のわりあい合うサイズのをみたら、39-80だった。ここに書いておけば携帯からも見られるし、今度はジャストサイズのを買おう。
***
橋本治と内田樹橋本 治,内田 樹筑摩書房このアイテムの詳細を見る |
『橋本治と内田樹』、夜2時ごろまでかかって読了した。いや、実に面白い。橋本治のいうことが、読めば読むほど面白くなってくる。内田樹もかなりついていっているが、おしまいのほうはお手上げ状態になっているのも可笑しい。あの面白さを本当に面白がれる人は本当にごくわずかなんだなと思う。
橋本治の書く文章は面白いか面白くないかのどちらかだ。それはどちらも大嘘だからである。本当のことには多かれ少なかれ勉強になったり、「真実の匂い」がして「はっ」としたりするわけだが、大嘘には面白いか面白くないかしかないからである。
大嘘といって悪ければ「つくりもの」である。『愛の矢車草』でもラストの文は「まだ空は、未来のように広い。」だったりする。
何だよそれ!(笑)
そんな言葉を臆面もなく最後に持ってきて、それで泣かせたり感動させたりするのだから橋本治は相当タチが悪い。(笑)
橋本治は並ぶもののないフィクション作家なのだ。彼の書く登場人物たちは、いると思って読めばそういう気がしなくはないが、実際には絶対に、「微妙に存在するはずのない」人たちばかりなのだ。
実はここが橋本治の要諦なんじゃないかと思う。「どこかにいそうな」人間なんて、書いても意味ないのだ。どこかにいるんだから。一見どこかにいそうだけど、実は絶対いない人間を書くから面白いのだ。
それは橋本が最初に書き始めたのが戯曲だったということも大きいかもしれない。芝居の登場人物というのは、いそうで絶対いない人たちばかりなのだ。っていうか、昔の芝居とか映画とかってみんなそうだったよな。今の映画や芝居って、本当にいそうな人たちばかり出てくる。それは役者が素でやってるからだろうな。作ってないのだ。あるいは作っていても浅い。素が透けて見えるほうが共感しやすい、からだろう。それは、共感することによって何かを学ぼうとしているからではないか。フィクションを楽しもうという姿勢が今の観客には足りないのではないかという気がする。
しかし根本的に芝居とか小説とかって嘘っぱちだし、嘘っぱちだから何をやってもいい芸術であるはずなんだよな。
橋本の言っていることを読んでいると、私もフィクションを書くときにはかくありたいと思う。大体私はどこにでもいそうなんだけど微妙に絶対他にはいない人間だと思う。自分は一見普通だけど本当は相当変わっているということには最近自信を持ってきた。それはいい傾向なんだろうと思う。
***
橋本治は職人とが芸者とかの家系だそうだけど、そういうところに地に足が付いた部分がある。内田樹はインテリの家系で、そのせいかある意味空中戦になってしまうところがある。二人とも東大文学部出で(****もそうだけど)変わった人たちなんだけど、やっぱり橋本の方が本当に変わっている。
橋本の言うことを読んでいて、やっぱり現場を持っている職人という感じがするのだけど、私はどうだろうと思うと、実はちょっと似たところがあることに気がついた。私は子どものころはある種のコミューン運動の団体みたいなところで育っているのだけど、そこではお金がないから何でも自分たちで作ってやっていたのだ。もともと学生運動崩れみたいな人も多かったし、別に何が出来るわけでもない人たちが大部分だったのだけど、その人たちが何とかすむところを作ったり生活していけるだけのものを作ったりしていたわけで、アマチュアでもやれば大体のことは何でも出来る、ということを私は体感して知っているのだ。そのことはその後の私の実は強みになっているということを橋本治のことを考えていて思い当たった。私はこの時期のことを実は全否定的に考えている部分があったのだけど、そうでもないこともあると思えたのは収穫だった。ただ、アマチュアなので技がない。そこが橋本と違う。私の中で技を追い求める気持ちというのはそういうところから来ているのだと思う。技というものを実感したのは、大学時代に芝居をやっているときだった。最近はとんとご無沙汰だが、人生わりと無駄なことはしてないんだなと思えるのは幸せなことだなと思った。
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