メインストリームとオルタナティブ/美しく豊かに生きること
Posted at 08/11/15 PermaLink» Tweet
ファッションの二十世紀 (集英社新書 466B) (集英社新書 466B)横田 一敏集英社このアイテムの詳細を見る |
『ファッションの二十世紀』。とても面白く、刺激的。ファッションがこんなに時代のかぜを受け、また時代に風を吹かすものであるということは、ここまでしっかりは自覚していなかった。60年代のモッズ、スウィンギングロンドンなどの流れの革命的な意味というものについても、あまり自覚していなかった。パリ・コレクションももともとオートクチュールのものだったのが、60年代からはプレタポルテに切り替わったわけで、この60年代の変化というものは非常に重要だと思うし、また文化というものがそれまで上流から下層に流れていく、伝わっていくものだったのが若者独自、下層階級独自の文化、ファッションというものが逆に上流に影響し始める逆転現象が起きたのもこのころだったということになる。68年の世界的な学生革命などもそれと軌を一にするものということになるし、服装における階級性が崩壊していくそういう時代の延長に現代があるということがわかる。
ファッションはそういう意味で、いつも「進歩」しているものということになる。
これは革新性を求める人々の共感、「今日よりもよりよい明日」を求める人々の願いとシンクロするものと言っていいだろう。ファッションはそういう形でいつも革新へのメッセージを打ち出しつづけているわけで、そういう意味で音楽や芸術、社会思想などとシンクロしている。日本にいるとそういう部分がみごとに殺ぎ落とされているのでよくわからないところも多いけれども、それは日本では思想というものはダサく、ファッションというものは文字通りファッショナブルなものとされているので、そのシンクロニシティをともに感じ取れる階層、つまり先鋭的なインテリとでも言うべき層が諸外国に比べてきわめて薄いからだろう。
だから、こういうファッションを大局的に見る本を読むと、その本質的な同時代性、共時性について目から鱗が落ちるような新鮮さを感じるわけである。
ファッションはそういう意味で、常に新しさの神話、オリジナリティの神話に突き動かされている。それは一般社会にある「進歩の神話」とも親和性が高い。
私がこの本を読んでいてかすかに感じた違和感というのはそういうところに由来するものなのだなと思う。何だかんだいっても世の中は進歩していく、という「進歩の神話」は現代においてはメインストリームだ。それは難しいだろうと思って斜に構えていても、本音の部分では進歩してくれた方がいいと思っている。確かに社会の雰囲気として、進歩への希望がみなぎっている時代の方がいきいきとした時代であることは確かで、それを待ち望む人が多いからこそ「チェンジ」を唱えたオバマが新米大統領に当選したのだろう。
そう考えてみると私はいろいろな意味でオルタナティブだなと思う。進歩という価値を必ずしも信じられないということでもあり、もちろん進歩の神話も信じられないということでもある。社会における進歩とは、簡単に言えば自由、平等、利便、等々の向上、ということと総括してよいかと思う。もちろん人によってはまだまだ不自由で、まだまだ不平等で、まだまだ不便だという人も多いと思うしそれはそれで理解はもちろんできるのだが、社会全体から見てある種の行きすぎが生じているという感覚もまたある。「進歩の神話」がメインストリームであるとすれば、そうした「進歩への疑問」はオルタナティブの見方ということになろう。
また、私は日本の神話とか土俗性のようなもの、あるいは美的なものに価値を感じるし、そうした価値のようなものが時に自由や平等、利便よりも重要になることもあると思う。しかし現代では、特に利便に関してはそうした価値よりも利便性を貫徹することの方が重要だと思われているようだ。そういう意味でもオルタナティブだと思う。また、西洋医学よりも東洋的な身体観の方に共感を感じるとか、さまざまなところでもオルタナティブなもののほうに自分がいることを感じる。
そういう意味では自分のオルタナティブ性を保守しようとすると社会のメインストリームに背を向けてしまいがちになる。それは「進歩の神話」という私の表現にも現れているわけで、自由や平等、利便の追求について硬直した精神性のようなものを感じてしまうからなのだと思う。
しかしファッションにおける「進歩」というのはそういうのとは多少違うということもこの本を読んでいて思った。ファッションには常にその時代の追求すべきテーマのようなものがあり、そのテーマに対しああでもないこうでもないとさまざまなデザイナーやプランナーがさまざまな解答を示す。新しいテーマが出ないと今度は前の前の時代のリバイバルブームが起こったりして、常に過去と現代、未来と現代の会話のようなものが行われているわけだ。つまり、ファッションや芸術における進歩というものは、けっして硬直したものではないのだ。
それは特にファッションというものが人間の身にまとうものであるという現実的な制約があるからだと思う。純粋に観念的なものには出来ないからだ。行き過ぎて観念的なものはその奇抜さに一瞬の注目は集めるがそれが定着していくことは出来ない。ある意味常に伝統を引きずらざるを得ない面があり、そこに地に足がついた部分が生じるのだろうと思う。
人の話に聞く耳を持たないメインストリームの進歩主義者というのは見ていて辟易するが、ファッションの世界ではどんなに傲慢な独裁者であっても結果を出さなければ見捨てられるので常に緊張した立場にある。
ファッションは、人間が美しく豊かに生きるためのもの、という著者のテーゼには強く共感する。何が美しく何が豊かであるかという点については考えなければならない点が多いが、というかそこにメインストリームとオルタナティブの対立が起こるわけなのだが、美しく豊かに、というテーマは呪文のように唱えていたいものだと思う。それが本当に美しく豊かに生きることにつながるのか、と問い掛けてみることは、わりと意味がある行為なんじゃないかと思う。
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