幸福とは湧き立つ感情が心の中に落ち着き場所を見つけること/幸福とは全身的な笑みである
Posted at 08/10/26 PermaLink» Tweet
昨夜帰京。実家の方で河合隼雄『子どもの宇宙』をまた少し読み返し、面白いと思った『クローディアの秘密』を読もうと思う。
クローディアの秘密 (岩波少年文庫 (050))E.L.カニグズバーグ,松永 ふみ子,E.L. Konigsburg岩波書店このアイテムの詳細を見る |
9時に図書館が開くので江東図書館に出かけてカニグズバーグ『クローディアの秘密』(岩波少年文庫、1990)を借りる。大変面白くまた読みやすく、午後には読了した。
主人公のクローディアはニューヨーク近郊のグリニッジに住む頭のいい12歳の女の子で、自分が正当に評価されていないと感じ、家出を計画する。そのパートナーに選んだのが9歳の弟のジェイミー。多分普通白ローディアに感情移入して読むんだろうけど、私はジェイミーの方が面白かった。ただ女性から見た男の子、という感じが強く、こんなふうには振舞わないだろうなと思うところもないではなかったが。
読み始めてときどき風俗的なところで違和感を感じたので初版年を調べると1967年。なるほど。60年代のアメリカでは12歳の女の子がペチコートを着ていたのだ。子どもが二人メトロポリタン美術館に住み着くという設定はさすがに今なら現実離れしているといわざるを得ないが67年ならまだリアリティがあっただろうなあとも思う。
重要な役割を演じるのがミケランジェロ作(かどうか最後までわからない)の天使の像なのだが、先日読んだ『ジョコンダ夫人の肖像』と同様イタリア・ルネサンスへのカニグズバーグの関心をうかがわせる。
ストーリー的にとてもよく出来た小説で、カニグズバーグの初期の代表作といっていいのだと思う。面白かったので丸善で原書を買おうと思って出かけたが見当たらない。帰宅後調べてみたら原題は"From the mixed-up files of Mrs. Basil E. Frankweiler" だった。さすがにそれでは分からない。そういう題の本は検索では出て来たがカニグズバーグのコーナーにはなかったので多分Out of Stockだっただろう。
From the Mixed-Up Files of Mrs. Basil E. FrankweilerAladdin Paperbacksこのアイテムの詳細を見る |
ストーリーについては大変面白いので紹介するまでもないと思うし読んでいただくといいのだが、印象に残った表現をひとつ。
クローディアは「秘密」を得て内面に変化が現れる。「クローディアが幸福なのが、私にもわかりました。幸福というのは、わき立つ感情が心の中に落ち着き場所を見つけることですが、いつもそこには小さな片隅が残って、落ち着かずにバタバタしているものです。」
幸福とは湧き立つ感情が心の中に落ち着き場所を見つけること。
これはとてもよくわかるような気がする。人は常にいろいろな感情が沸き起こっているけれども、その落ち着き場所を見つけるというのはとても難しいこと。せいぜい折り合いをつける、ぐらいのことしか出来ないことが多い。その落ち着き場所が見つかるというのはだから、とても幸福なことだ。どうせ落ち着かないからとその感情の発生自体を抑えてしまうことだってよくあること。だから人はそこはかとない不満をいつも抱えて生きることになってしまうのだけど。そういう人生は幸福とは無縁なのだなと読みながら思う。
とにかくストーリーはとてもよく出来ている。そして著者の幸福論も、考えさせられるものがあった。
***
読み終わって、手元にあったけど呼んでなかった『芸術新潮』の2001年11月号を読む。有元利夫の特集で、有元の絵の分析をいろいろな人がしていてなるほどなあと思うところがいろいろあった。
橋本治の『ひらがな日本美術史』の連載がされていて、――そういえばこれ、昨年当たり単行本になったんじゃなかったっけ――と思って探したら7巻本で出ていた。
ひらがな日本美術史5橋本 治新潮社このアイテムの詳細を見る |
この号は歌麿の美人画について書いているのだが、この中にまたこういうコメントがあった。『當時全盛美人揃 瀧川』という絵について、「幸福とは全身的な笑みである」と述べている。
ごく偶然なのだが、「幸福」ということについての定義に一日に二度触れるということはそうあるものではない。「幸福とは全身的な笑みである」という表現もよくわかる。「全身的な笑み」を持てること以上の幸福な状態などあろうか。この表現も脱帽というところだ。
***
丸善では結局、来年用のマークスのスケジュール帳と竹中平蔵『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎、2008)を買った。
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