劇場空間にいることの幸せ

Posted at 08/09/15

昨日。新国立劇場バレエ研修所・第4期生・第5期生合同発表会を見に行く。場所は初台の新国立劇場中劇場。2月に4期生の一年次発表会に行っているので、今回はあまり早めには行かず。しかし、午前中に銀座でメガネを新調し、ハッシュパピーズで靴も一足買ったのだが、一度家に戻るつもりだったのが眼鏡屋で思いのほか時間を費やし、そのまま銀座で時間を潰すことになった。時間がもったいないのでノートとシャープペンシルを買って喫茶店で何か書こうかと思ったのだけど、早めに行けばいいかと丸の内線で新宿に出たら、新宿西口を歩くのに思いのほか時間がかかり、結局ついたのは開場10分前くらいだった。前回のようにオペラシティを歩いたりする余裕はなく、ロビーでパンフレットなど読んでいた。

今回の公演は、前半がヒストリカルダンス、後半がクラシカルバレエで『眠れる森の美女』ハイライトという構成。間に研修所の様子を映した15分ほどの映像が流され、発表会という雰囲気を盛り上げていた。

ヒストリカルダンスは最初中世末期(というか16世紀らしいが)の衣装でパヴァーヌ・ロマネスクを踊り、ついで大きく膨らんだスカートのドレスでメヌエット・カドリール・ジーグ。(踊りの名前はよく分からないのでパンフにしたがって書いているので正確ではない)最後にロマンチック・チュチュでポロネーズ、ポルカマズルカ、ワルツマズルカ、クラコヴィアクという順番。サロンの踊り、ということのようだけど、だんだん時代が下っていって、現代に至る、という構成になっていて大変楽しめた。私が演劇をやっていた頃、衣装担当にこういう歴史的なものを作るのが好きな人がいて、現代劇なのにこういう衣装を使って上演したりしていたが、その頃のことを思い出して個人的にはかなり盛り上がった。

映像の上演は普段のレッスンの様子が映し出され、また古典の笛の演奏を聞いたり調理実習をしたりするところも映されていたが、調理実習など舞台とは勝手が違う様子が微笑ましかった。バレエのレッスンの様子はもう少しじっくり見たい感じがした。

『眠れる森の美女』ハイライト。『眠れる・・・』は実は見たことがないので、『テレプシコーラ』で取り上げられている青い鳥とフロリナ王女の踊りとか、オーロラ姫の踊りなどは初めて見た。クラシックはやはりテクニックが如実に現れるので、正直いって体操のように機械的に動いているように見える人もあればそれなりの表現力が伴っている人もあり、なるほどこんなふうに上手くなって行くんだなあと興味深く見られた。グランパドドゥの王子はプロのダンサーだったが、やはり5期に入ったばかりの男性の生徒たちと比べると相当な開きを感じる。ダンサーはまず身体なのだなと改めて思う。体が出来ている人の踊りは安心してみていられるし、もちろんテクニック的にもレベルが高い。彼らも次回の発表会ではパドドゥを踊れるだろうか。

しかしそれにしても、見ていていいな、とか美しいな、とは思うのだけど、その動きを憶えられない。というのは、そういう動きを自分が全く出来ないからだろう。もし少しでもバレエをかじった経験があれば、自分では出来なくてもどうやればこういう動きになるかとかについてだいたい想像はつくのではないかと思う。見ながら、ああそうそう、この動きがいいんだよな、とかこういうポーズを取ると素敵だとか、このジャンプがきれいだとか、そういうことは見ながらなら言えるのだが、後で覚えて書こうとしても書けない。しかし舞台というのは根本的にはそのとき楽しむものなので、それはそれでいいのだと思う。また回数を見るうちに覚えていく部分もあるかもしれないし。

劇場空間にいることの幸せとは何だろうか、と考える。それは、自分が出来ないことを見る、ということではないか、と。だから自分の出来そうなことが舞台上で行われていると不満なのだ。バレエとか歌舞伎は、絶対に自分の出来ないことをやっているので、特に幸せを感じるのだと思う。普通の芝居は相当の個性派か相当のテクニシャン、相当美しい人などでないとなかなか感動できない。

考えて見ると、それは文章表現でも同じなのだろう。自分では絶対書けないと思う文章を読んでいると幸せを感じることが多い。自分で書けそうな文章だとついあれこれケチをつけたくなるように思う。

劇場空間において、最近は観客という役回りしか演じていないけれども、観客も演者も劇場空間の構成要素という意味では同じで、観客は舞台を成立させるための不可欠の要素を成している。それぞれが自分の役割に徹することで、他の演者やスタッフ、観客がやっていることは、その時の自分には絶対に「出来ない」ものになっている。自分の出来ないことをやっている人を見る幸せを感じつつ、しかし自分がそれもやってみたいという思いがわいてきて、そのエネルギーを自分の役割にぶつけることでさらに完全燃焼する。観客として完全燃焼できたらこれはどんなに幸せだろう。なかなかそこまでは行かないが、笑い、涙し、心を動かされ、沈黙し、凝視し、拍手し、幸福を感じる。劇場空間にいることの幸せを感じられるような舞台を見たいし、またそういう観客でありたいと思う。

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by Luke Peterson

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