堀田善衛『ミシェル 城館の人』を読みつづける
Posted at 08/08/30 PermaLink» Tweet
ミシェル城館の人〈第1部〉争乱の時代 (集英社文庫)堀田 善衛集英社このアイテムの詳細を見る |
堀田善衛『ミシェル 城館の人』(集英社文庫、2004)上巻読了。すぐに続きを読みたいところだが、中巻は買ってなかったので明日一番で丸善に行って買おうと思う。この本は読めば読むほど乗ってくる。フランス16世紀史の中での伝記ということが一つ。もう一つは、モンテーニュという思考型の人間の考えたことが、私というおそらくは思考型の人間の感覚にかなり直接的に同意できる部分が多いこと。そしておそらくは思考型の人間である堀田善衛の文章の作り方が自分の思考のペースに非常によくあっているということ、があると思う。いろいろな面で、この本は読むべき本だったのだなと思う。モンテーニュの『エセー』の原著も読みたい気持ちが強くなってきているし、堀田善衛のほかの著作もまた読みたいという気になっている。(以前も、『スペイン断章』などいくつか読んだ本はあったが)16世紀から18世紀のフランス史、特に南西フランス史についてまた勉強したいという気持ちも強くなったし、モンテーニュ以外の思考型の人間――具体的には読んで見なければ分らないがパスカルとかトマス・モア、あるいはヒュームなどだろうか――の著作も読んでみたいと思った。
とりあえず一番感じたのは、モンテーニュが感じた世の中への「違和感」というものに自分が凄く「分る」という気持ちを持つ、ということだ。世の中にはいろいろな人間がいて、その人間が綾なす社会に対し、違和感を全く持たないということは考えられないが、しかし思考型の人間というのはその違和感を本能的に考察してしまうところがあると思う。そしてそれがやがてそれについての自分なりの意見に醸成されていく。しかしろくに意見として育たない部分があったり、かなり深く突っ込んで考えてしまう部分があったり、それ以上は考えるのをやめて判断を避ける、ということがあったり、その思考の用い方のようなものが生理的なレベルで理解できるなあと思ったのだ。
生理的なレベルで共感できるということは大事なことだ。私はフランス史をやっていて一番辛さを感じたのがそういうところだった。フランス人は何を考えているのか分らない、自分たちと縁がない存在なのではないか、その歴史を研究することに一体どんな意味があるんだろう、というような出口のない問いに私は取り付かれていた部分があったのだが、モンテーニュのような人間もいたのか、ということを知ることによって、彼の観察や考察を窓口にしてフランス史を見直すことでより感覚に根ざした理解をできるのではないかという希望が生まれるからだ。もちろんこの著作が堀田善衛のものであり、つまりは今現在のモンテーニュ理解も堀田の手に助けられてのものであるわけで、ひとりで読み始めたらどのように感じるかはまた分らない部分もある。しかし、歴史の中に自分と似たタイプの人間を見つけるというのは心楽しいことだ。私はあまりそういう感覚を持ったことがないので、モンテーニュなどは貴重な存在だと思う。
上巻は彼がボルドー高等法院の法官を辞め、父の死によって相続したモンテーニュの城館に篭って思索をはじめるところで終わりになる。ユグノー戦争といわれるフランス国内の宗教戦争がますます激しくなり、寛容への希望がますます失われていく中にあってのことである。
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