勇敢な作家と安定感のある作家/地雷ワード
Posted at 08/08/29 PermaLink» Tweet
昨日。午後から夜にかけて仕事。昨日はかなり雨が降っていた生か、あまり忙しくなく。しかしそれでも終わったのは10時を過ぎていた。帰宅後夕食、少し母と話をしていたら遅くなってしまった。入浴後、部屋に戻るともう1時だった。
そのせいか、今朝は起床が遅れた。目が覚めると6時半過ぎ。モーニングページを書くとすぐ父に愉気し、朝食。父と母と少し話をする。そのあと急いで職場に来てゴミを処理。そのあとPCを起動してネットを見ていたら気がついたら1時間半も経過していた。
ミシェル城館の人〈第1部〉争乱の時代 (集英社文庫)堀田 善衛集英社このアイテムの詳細を見る |
堀田善衛『ミシェル 城館の人』(集英社文庫、2004)上巻、現在316/466ページ。現在1559年、アンリ2世が死に、その長男フランソワ2世が王位についたところ。カトリーヌ・ド・メディシスが権力を掌握するのはその弟シャルル9世が即位したときに摂政になった時なので、まだそれよりは前。しかし時代背景の説明はモンテーニュ個人の描写と前後しつつ進んでいるので、少し後まで見通しながら話が進んでいる。ユグノー戦争は前半と後半に分かれ、前半は私が漠然とユグノー戦争の主役だと思っていた3人のアンリの父親の世代が主役なのだということがよく分った。ユグノー戦争について正確な経過をきちんと把握していなかったので、そういう意味では勉強になった。モンテーニュはボルドー高等法院に法官の地位を得、当時ボルドー市長であった彼の父ピエールとの協力の必要もあってパリの宮廷へ何度も出かけている、というあたりの記述になっている。当時の高等法院は王権の出先機関であり、という理由で特権都市でもあるボルドーの市政府とは対立する局面も多かった。モンテーニュ父子はその中で宥和の流れを生むことに意を用いていたようだが、周囲にプロテスタント勢力の強い地域が多く、また高等法院の法官にも王権の代理人であるにもかかわらずプロテスタントの者があったり、状況は複雑であったらしい。この騒擾の時代に静謐の思想家であるモンテーニュがいたということが歴史の綾で興味深い。
私はこの地域の革命史を専攻したのでアンシャン・レジームの成立しつつあるルネサンス期に、もっと縮めて言えば絶対王政の成立過程の中で、ということは当然思想的にも権力の統制が進んでいく時期、また白か黒か、敵か見方かを明言することを強要される宗教戦争の時期に、モンテーニュという自由な思考をする思想家がいたということは興味深い。ラブレーやエラスムスに比べて少し時代が下ることでそうした制約はさらに強くなったはずだから、そういうところにモンテーニュという思想家がいた意味があるのだなと思った。
実はこの文章を書いている途中で秀丸エディタがエラーを起こし、書いている文章が一度パーになってしまったので内容を思い起こしながらかいているのだが、書いているうちに先ほどかいていたことと違う内容になったりして結構困る。正確には思い出せないしおそらくは思い出しても仕方がないのだが、もう一度書くということは実際疲れることだ。
それはともかく、この作品を読んでいると、同じ西洋史の範疇の歴史記述ということもあって、塩野七生の文章と無意識に比較する。堀田の文章を読んでいて思うのは、塩野に比べて遥かに日本国内の西洋史学に目配りをしているということだ。用語的にも西洋史学で一般に使われる定訳をきちんと使っているし、そういう意味でわたしなどには読みやすい。塩野はイタリアの学者の記述はかなり目配りをしていても日本のローマ史家の記述にはほとんど目配りしていない、少なくともそう見えるということで、日本の歴史研究者からはかなり叩かれているのだと思う。塩野はイタリアに住んでいるから、ということも言えなくはないが、堀田も基本的にはスペインに住んでいたわけで、もちろんそれだけではない。『ルネサンスとはなんだったか』であったか、塩野は自分でも書いているけれども、いわゆる歴史学とは違う「歴史」を書きたいという強い志を持っていて、それを実現してきたという経緯があるのだ。しかしそれは当然強い軋轢を生み、塩野自身がイタリアに移住したこともそれとは無縁でないようだ。
堀田の場合はそういうことはないようで、また塩野が歴史そのものを自分の見方で書きたいという強い動機を持っているのに対し、堀田はモンテーニュを描くのが目的で、歴史背景の叙述自体は歴史学から借りてきて対処している、という感じを受ける。そういう意味で、塩野の歴史叙述は良くも悪くも塩野ワールドを作っていて、それが読者に胸のすくような快さを感じさせるのだけれども、堀田のほうは叙述の部分がやや解説書的に感じられる側面もある。このあたり微妙なバランスの問題でどちらが良いと一概には言えないが、女性作家の勇敢さと男性作家の安定感という対比だと考えられなくもない。塩野は用語一つ一つにもかなり踏み込んだ独自の判断をしている部分があるように思うし、それが説得力を持つ部分もある。堀田の記述はもう少し踏み込んだ記述があってもいいのになあとやや不足を感じるのだけれど、それは私が塩野の読者であるからかも知れず、まあそれぞれの判断と描き方の問題だということなのだと思う。
二度目を書き直している途中でもまた秀丸のエラーが出て、今回は慎重に保存しながら書いていたのでたいしたダメージではなかったが、どうやらある『地雷ワード』があって、それを変換するとエラーになってしまうということが分った。以前別の言葉でそういうことがあったのだけど、また新たにそういう言葉が出てきたということで参ったなと思う。
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