ならず者の宗教としてのキリスト教と「こころ」の教育が無差別殺人を防げないわけ
Posted at 08/08/07 PermaLink» Tweet
昨日。松本からの帰りの特急が、下り線の特急を待ち合わせたため8分遅れる。岡谷~茅野間が単線であるため、こういうことはよく起こる。しかし、それにしても急いでいるから特急に乗っているのに、特急が簡単に遅れてもらえると特急料金返せといいたくなる。わずか25分の区間で8分遅れられるとなあ。しかし、仕事に穴をあけるほどは遅れなかったのでよしとするしかない。
午後はそのまま9時半までぶっ通しで仕事。8時を過ぎるとだいぶ空いてくるのだが、途中で終わりにすることは出来ない状況。それはやはり辛いと言えば辛い。昨日はかなり疲れが出て、今朝起きても取れない疲れがかなり残っていた感じ。もう少し早く終われると楽なんだが。
仏教が好き! (朝日文庫 か 39-1)河合 隼雄,中沢 新一朝日新聞出版このアイテムの詳細を見る |
河合隼雄・中沢新一『仏教が好き!』。面白い話が多い。やはり中沢は独特の宗教学者だな。
一番面白いと思ったのは、ユダヤ・キリスト教が「ならず者の宗教」だという指摘だ。中沢によると、現代の聖書学によればヘブライ人の形成過程は以下のようになるのだという。
『旧約聖書』の「出エジプト記」を見ますと、エジプトで長いこと奴隷生活を送っていたイスラエルの人びとが、モーゼの指導によってカナンの地へ移動した一回限りの出来事みたいに言ってますけど、(中略)こういう移住は何波にもわたって起こったことのようです。カナンの地でイスラエルの原型を作った人たちはハベルと呼ばれました。(ハベルとはならず者という意味だという・引用者注)そこへ、周辺諸国のエジプトとかシリアの帝国、こういうところの奴隷だった人たちが逃れてきました。カナンの土地には逃亡奴隷たちの新しい共同体があるということを知ってそこに来て、ここで新しい共同体を設立した。(中略)そうすると、もうこれは最初から人間の法の手を逃れたという意味で、「ならず者」の共同体だったのです。
そんな話ははじめて聞いたが、しかしだからこそヘブライ人にまず必要なのは「こころの問題」ではなく、「ならず者」の行動を統制する「倫理」であったというわけだ。
あれは上品な人とか知識人たちに向かって言うことじゃない。「盗むな」とか「姦淫するな」とか、それははっきり倫理の言葉です。…神の言葉は明瞭な倫理の言葉でなければいけなかったと思います。
キリスト教も、イエスの弟子はガリラヤ地方の漁師たちであって、良家の子女ではない。しかし仏教はブッダの周りに最初に集まった人たちはたいした知識人たちであり、良家の子女たちだった。だから仏教の問題は「倫理」の問題ではなく、「こころ」の問題であった、というわけだ。キリスト教世界で「心」が問題になるのはブルジョア社会が出来上がってからで、だからその時期になってようやく心理学が生まれた、というわけである。このあたりの議論には実に説得力を感じた。
これで現代の問題もなかなかスッキリすると思うのだが、つまり人間にとってまず必要なのは「盗むな」とか「殺すな」といった「倫理」であって、それが身について余裕が出てはじめて「こころ」が問題になってくる、ということになる。しかしそのあたり、現代では逆になっているのだ。「こころ」のことばかり騒ぎ立てて「こころのケア」だの「こころの闇」だのと騒いでいるけれども、まず必要なのはこころの問題ではなく、「殺すな」という倫理なのだ。倫理教育、もっと言えば「しつけ」が出来てないから秋葉原のような事件が多発するのであって、それは「こころ」の問題として扱っても解決は出来ないのだ、ということなのだ。
こんな風に考えると、キリスト教ヨーロッパは先進地帯で仏教のアジアは後進地帯であるという既成概念自体が全く間違っているということになって気持ちがいい。このあたり、学問というものの本源的な面白さを教えてくれる。中沢が人気があるのはこういう部分なんだなと思う。
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