凄かった!エミリー・ウングワレー展/『シャーロック・ホームズの冒険』
Posted at 08/07/15 PermaLink» Tweet
凄かった。
乃木坂の国立新美術館の2階で開催されているエミリー・ウングワレー展。新日曜美術館でやっていたのを少し見たのと、メルマガを取っている村松恒平が強く推奨していたのとがあって、よく分からないけど見に行ってみた、というようなものだったのだが、最初のいくつかを見ているうちにものすごい瞑想の喚起力を感じた。頭の第二という調整点を愉気したらあくびが次々に出てきて、意識が飛びそうになった。ものすごい力を感じる。そしてそれを浴びていることが心地よい。これはこの前に座って瞑想するためのような絵画なのだ。
エミリー・ウングワレーはアボリジニで、オーストラリアのエアーズロック(ウルル)のすぐ近く、アリススプリングスの近郊のユートピアといわれる地域に住んでいた。80歳近くになってキャンバスに絵を描くようになり俄然注目を集め、8年後に死ぬまでに数千点の作品を残している。生まれたのは1910年ごろ。そもそも年代を数える習慣がなかったのだろう。
彼女の作品には天地がない。キャンバスの周り、四方から描いている。上下を決めるのはキュレーターに任されている。そんな話は初めて聞いたが。しかし見てみると分かるが、上下などということに何の意味もないのだ。おそらくは、文明というものは天地の、上下の感覚を軸に作られる物なのだろう。彼女の属するアボリジニ(これは英語で先住民族の意味で、彼らのことばですらない)の文化には天地の感覚がないのだと思う。ヤムイモの根の複雑な絡み合いを巨大なキャンパスに描いた作品を見ていると、彼女はヤムイモの根を対象として描いているのではないことが分かる。彼女自身がヤムイモなのだ。彼女のミドルネームはカーメで、ヤムイモを意味するがそれだけではなく、彼女は作家としてヤムイモを描いているのではなく、ヤムイモとしてヤムイモを描いている。そしてその作品を見ていると、見ている私もまたヤムイモであることに気づかされる。すべてがすべてなのだ。
すべてのものは大地から生まれ大地に帰っていく。その点においてヤムイモも人間も変わりはない。だから彼女の表現は制作というよりはむしろ呪術なのだ。すべてのものの生命力を呼び起こし、それを慰め、一体化する。すべてのよき精霊たちを歌わせ、踊らせる。彼女の作品はオーストラリアの画家で初めて一億円を越える値段がついたというが、彼女の作品そのものにとっては断片に過ぎないエピソードだろう。
彼女の作品を見ていると、人もみな大地から生まれ、大地につながりを持って生きている群の中のひとつの個体に過ぎないということを思い知らされる。大地の生命力の発現として人は生まれ、その分身として人は生き、そしてまた土に還って行く。大きな大地の生命からその生命を注がれて私たちが存在しているのであって、その逆ではない。見ていたときにそんなことを考えていたのではない、とにかく飛びそうになりながら見ていたから。周りの人がひそひそしゃべっていたり、若いカップルが小賢しい会話を交わしているのが聞こえるが、すべて雑音でしかない。雑音だと思うとあまり聞こえなくなる。しかしまた、雑音を立てたい人の気持ちもわからなくはない。こういう自我の浸食のされ方がイヤな人は絶対いると思う。素直にパワーを受け取れない人にとっては、危険な作品だといえなくもない。
ミュージアムショップでいろいろ考えた結果カタログと絵葉書を三枚買う。後でチラシを貰ったが、彼女の絵を感じるためには最低チラシくらいの大きさがほしい。数メートルの大きさの作品が家にあれば言うことはないのだが。
帰ってから村松恒平のレビューを読み直したが、彼も「飛ぶ」という、トリップすると言う表現を使っている。音楽でトリップすると言うことはあっても絵でトリップすると言うのはそうないだろう、といっているが、私も全く同じことを見ながら思っていた。感じる人は同じようなことを感じるんだなあと思う。
とにかくエミリー・ウングワレー展は凄い。絶対お勧めです。
***
高揚冷めやらぬ中、Vogue Cafeでお勧めのケーキセット。アイスティーで。回りはみな昼下がりのマダムたち。新美術館の湾曲したガラス張りの彼方から午後の日差しが入ってきて、ここにいいることの幸福をまた味わう。乃木坂から渋谷に出て、文化村ギャラリーで有元利夫展。高くて買えないが、死後刷り増ししたと思われる版画の中には10万を切る物もあり、絶対に手の届かないものではないなと思った。藤田嗣治の絵も同時にいくつか展示されていて、桁が一つ違うが、同様のものは10万円前後のものもある。しかしいろいろな物のだいたいの相場が分かったので、今後いいものに行き当たってそれが掘り出し物の値段だったら買うようにしたいと思う。収穫。
銀座線で銀座に出て、ブルックスブラザーズへ。セールで何か買おうと思ったのだけど、定番の物の数が少なく、また高い。ここはブランドの割にはオーソドックスな物が揃い、また値段も手ごろなのがよかったのだが、会社の方針が変わったのだろうか。結局何も買わなかった。まあいいかと思い隣のユニクロに入り、私の持っているドッカーズのパンツと同じ色のズボンを買う。ついでに柔らかい襟のシャツと、靴下4足。これでしめて5千円台では売れるだろうなあと思う。銀座だからなのか、思ったよりまともな物が多かった。
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教文館で本を物色。何だか頭の中がリフレッシュされた感じで、何を見ても面白そう。結局ヴィクトル・ユゴーの『ライン河幻想紀行』(岩波文庫、1985)を買った。『タゴール詩集』とかも迷ったのだが。木村屋をのぞくとどうも美味しそうなパンが並んでいて、結局バター入りあんぱんとスコーンを買って帰宅。
夜はMXテレビでやっている『シャーロック・ホームズの冒険』を見た。これは昔、NHKでやっていたやつだ。なかなか面白い。昨日はすべて当たりだった。ウングワレーの霊験あらたか。
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