私にとって大切なこと/軽躁な日本人/時代が「終わりなき日常」だった頃
Posted at 08/07/07 PermaLink» Tweet
昨日。ずっと体調はよくなかったのだが、蒸し暑く、家の中にいるのも疲れてくる、というような日だった。扇風機は出したものの、汗が体にまつわりついてくる。冷房は苦手なので入れない。というか、昨年エアコンが壊れてしまってから、直していない。夏の終わりの安いうちに買っておけば、といわれたけど、わざわざ体調を崩すために冷房を入れることもないので、買わなかった。
夕方日本橋に出かけた。昼ごろモーニングページを書いていて、というのも言葉が矛盾するが、朝は体調が悪くてそんなに気にならず、昼になってようやく書く気になったからなのだが、気がついて見るともう原稿用紙がなくて、日本橋の丸善に買いに出かけたのだ。しかしあにはからんやコクヨの縦書き200字詰めB5の原稿用紙はもうおかなくなったらしく、ない。仕方がないので少し物色して、ライフのB5サイズの原稿用紙マス目のノートを買った。これは見開き400字になる。今朝書いてみたが、そう悪くない。茶色いマス目がいやかなと思っていたけど、気がついてみたら全然気にしていなかった。そろそろ茶色いマス目アレルギーもなくなったということか。
ついでに本を物色。『正論』を立ち読みして、小林よしのりと沖縄の人たちの議論を読む。沖縄は理想的な素朴な島みたいに言われているけれども、結構差別とかがきつく、北部やんばるの人たちや八重山諸島の人たちは那覇近郊の人たちには差別を受けていた、というような話があった。そりゃあ人間の生きている世界だからそういうこともあるだろうなあと思う。そういうことがほとんど出て来ないのもまた不自然だ。被害者の島であるよりも、なんでもいえる自由な島である方が私としては魅力的には思えるのだが。
電車の中で自分の生き方のどこがよくないのか、ということを漠然と考えていて、昔のことや今のこと、人のことや自分のこと、さまざまなことを考えていて、私の場合、思いつめるのが一番よくないのではないかと思った。結果を恐れて判断を間違う、ということと並んで、やはり私の場合は、そういう意味で中庸を守ることが自分にとって大事なのだと考えるに至る。考えてみたら私は、非常識な物は嫌いなのだ。そこが自分が脅かされる部分でもある。逆に、私がアートを好きなのは、そこが世の中で非常識をになうべき部分だからだ。そこで自分の中でのバランスを取っているのだと思った。
大人の見識 (新潮新書 237)阿川 弘之新潮社このアイテムの詳細を見る |
丸善で本を買う。阿川弘之『大人の見識』(新潮新書、2007)。現在48/191ページ。今まで読んだ中では、終戦の時期のさまざまな内幕の話題が多い。東條英機の再評価に強い疑問を呈しているが、これは彼が海軍の流れを汲む人だということが大きいと思う。しかし、東條の小者ぶりにはいろいろエピソードが事欠かなかったというのはよくわかった。私は東條にはわりと同情的な部分があるのだが、同情する気になれないという実例はたくさんあるということもよくわかった。この人は本当に余裕のない人の典型だったんだなと思う。作中に『鈴木貫太郎自伝』が引用されていて、私はこの本を読んだことがなかったので、ちょっと読んでみたいと思った。日本図書センターから1997年に『人間の記録』シリーズで出ているようなので、探してみたい。
もう一つ、『武田信玄遺訓』の「軽躁なるものを勇剛と見ること」の戒めを引き、日本人の特性として軽躁であることがあるのではないかという見方が納得するところがあった。日本人に欠けている心情としてユーモアとメランコリーがある、というのもまた分かる気がしないでもない。これらは主にイギリス人との比較だろうけど、これもまた海軍→英国尊重、という図式から阿川が言うことは頷ける、というものではあるが。
考えて見ると、私は何というか陸軍悪玉史観のようなものへの反発から陸軍の方からものを見ようという傾向をここ数年ずっと持ち続けてきたので、こういう海軍的なものの見方というものが最近欠けてるんだなあということも思った。当然ながら、彼らの言うことも同意ができないこともあるが頷けるところもあるわけで、今はそういうものを読み直して見る時期なのかもしれないと思った。
現代詩手帖 2008年 07月号 [雑誌]思潮社このアイテムの詳細を見る |
もう一冊、『現代詩手帖』7月号を買う。まだあんまりちゃんとは読んでいない。詩作品特集で、30数人の新作が並んでいる。先日は買う気にならなかったのに昨日は買う気になったのは、谷川俊太郎『メランコリーの川下り』を読んでいて、やはり詩には時代の雰囲気のようなものがよく現れているんだなあと改めて思ったからだ。そのときにはよく分からなくても、後になってみてこれはこの時代に現れたこういう予感のようなものが反映している、ということがかなり可能なんじゃないかと思ったからだ。だから2008年の詩作品もどこかにそうした物が反映されているはずで、そういうものを読んで見ることはおそらく意味のないことではない。それを読んでいるうちに、小説や歌謡曲、風俗を見ているのとはまた違った意味で時代の予感、時代感覚のような物が磨かれるのではないかという気がしたからだ。詩は、無意識と意識の境目にある、呼吸のようなものだ。(呼吸も、意識してもできるし、無意識にもしている)意識と無意識の双方が反映されているのは、詩が一番なんではないかと考えることも可能なのではないかと思ったのだ。
メランコリーの川下り谷川 俊太郎思潮社このアイテムの詳細を見る |
谷川俊太郎『メランコリーの川下り』。現在59/100ページ。80年代後半の、バブルのさなか、まさに軽躁の時代の作品群。まだ宮台真司の「終わりなき日常」という言葉は出てないと思うが、まさにそうした時代の気分を反映するような詩句が並んでいる。谷川俊太郎にして。いや谷川俊太郎なればこそか。
17
ああペプシコーラ ペプシコーラ
と口ずさんでいれば
もう僕はシンガー
18
昨日僕は圭子と寝た
と昨日僕は日記に書いた
それが嘘か本当かは
僕にだってよく分からないのです
そう書いてみることが
僕の散歩の意味だというだけ
19
誰かがきっとブラウン管の上で
僕の散歩をシュミレートしている
その誰かはこの僕自身かもしれない
(「少年Aの散歩」)
当然ながら、2008年では詩人はこうは書かないだろう。微妙に、しかもかなり古くなった風俗。風俗だけでなく、ものの感じ方、考え方のような物が微妙に、しかし決定的に変化している。先日、『セーラームーン』の第一回の再放送をしているのをたまたま見たのだが、ものすごく古風に感じた。しかし、それだけに郷愁がある。ものすごいスピードで何もかも、特に人の心の中が変化しているのに、人々はそれにあまり気がついていない。そういうことを立ち止まって考えて見ることもまた、ひょっとしたら詩人の役目としてあるのかもしれないと思った。今まで私は、それは歴史家や作家の役目だと思っていたけど。
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