朔太郎の復刻版を買う/秋葉原通り魔事件/小雨の中の小さな靴下

Posted at 08/06/09

昨日。午前中は疲れが出てあまり動けず。変な集中が抜けなかったせいもある。朝は先週買ったガイアネットの南瓜のスープと残っていたミルフィーユを食べたがどうもそれでは足りず、自転車で団地の中の伊勢屋に行っておにぎりといなり寿司と粒餡のおはぎを買って帰って食べた。どうも動く気が起きなかったがこういうときはエイ、と思って動かないと動けないので、秋葉原か神保町に行こうと思って昼過ぎに出かけた。

ネットで見た秋葉原のbk1にも行ってみたかったが、やはりガイアネットで買い物もしたいしと思い、新御茶ノ水で降りて神保町へ。ブックマートと三省堂を物色した後、朔太郎のアフォリズムを買いたいなと思って古本屋を回って見ることにした。するとK書店の店頭に先日S図書館で見たのと同じ『青猫」の復刻版を見つけた。他にも白秋や犀星、啄木などたくさんの同種の復刻版があった。一冊500円だったので最初5、6冊手に取ったがずいぶん重い。それに朔太郎は『月に吠える』と『青猫』しかなく、アフォリズムが買えないと思って自重し、二冊だけ購入した。その後何軒かのぞき、D堂で朔太郎の個人雑誌『生理』の復刻版を見つける。内容を見るとアフォリズムも掲載されていたのでこれでいいかと思い、購入。こちらは1200円。復刻版とはいえ、2200円でこれだけ買えれば御の字だろう。D堂には朔太郎の全集も出ていたが、16冊で8万円。ちょっと手が出ない。しばらくは図書館でお世話になるしかないと思った。

まずまず目標を達したので帰ることにし、帰りにガイアネットに立ち寄る。行きがけに前を通ったときは暇そうだったのに、今度はずいぶん混雑していた。狭い店内を歩き回り、味噌・豆腐・あんぱん・クリームパン・クッキー・小松菜と買って2007円。まあスーパーで買うのと比べると倍近くする。でも結局、旨ければそれでも納得するんだよなと思う。外堀通りを渡るとき、救急車が北に向かって走り抜けていった。

帰ってパンを食べながらネットをのぞく。秋葉原で大変な事件があった。調べていくと、私が秋葉原に行くとき、もっともよく通る交差点だ。ラオックスコンピュータ館が閉店してから行ってないのだが、それでもメインストリートであることには違いない。もし何も知らずに秋葉原に出かけていたら、まさに遭遇した可能性がある。神保町と秋葉原など、目と鼻の先だ。神保町にはそんな気配は全然なかったのだが、新御茶ノ水で目の前を走っていった救急車は実は関係があったのかもしれない。

地下鉄サリン事件のときも、私はちょうど地下鉄に乗っていた。私は当時、東西線と都営浅草線、それから京浜急行を乗り継いで職場に向かっていた。オウム真理教は霞ケ関駅を通る3路線、丸の内線と千代田線と日比谷線でサリンを撒いたように記憶しているが、当時は日比谷線との乗換駅である茅場町駅で乗り換えていたので、駅のアナウンスで何かあったことを知ったのだ。あの時もニアミスだったが今回もずいぶん近いところで、しかも自分が行っていた可能性のあるところで起こったので、事件に巻き込まれなかった自分というものがなんだか不思議に感じる、という感覚を久しぶりに味わった。奇妙に現実感が欠如していながら、でもなんだか自分が巻き込まれていた可能性があったということだけは実感として残るという奇妙な感覚。池田小事件(ちょうど7年前の6月8日だった)や911のときはショックは受けたが「世界の中で酷いことが起こった」という、自分に直接かかわりのある事件とは感じられないものがあったが、地下鉄サリンと今回の秋葉原通り魔事件はまさに自分のすぐ隣でおきた事件だと感じられるところが特殊だ。そういう意味では、アメリカ人にとっての911と多くの日本人にとっての今回の事件はやや共通するところがあるように感じられる。

事件の実態が分かってくるにつれ、またそういう感覚が強まる。被害者の若い女性は都立日比谷高校出身の東京芸大の学生だという。日比谷高校にも行ったことがあるし、芸術というのは自分がもっとも身近に感じる分野でもある。事件の被害者との距離感というものが、その人のその事件に対する感覚の生々しさを左右する部分はあると思うが、この件は私に強くそれを感じさせた。

犯人の男が携帯で掲示板に書き込んでいたとか、現場で犯人逮捕の瞬間を撮った画像を赤外線で欲しがる人が続出したとか、秋葉原的な話もいろいろあるようだ。万世橋警察署なんて本当に秋葉原に行けば必ず前を通るところ。(私は銀座線神田駅で降りるので)そこに記者が立って中継をしているなんて。あの交差点、あの歩行者天国に被害者が転がり、人々が救助に懸命になっているなんて。やはり「ありえない」、という感覚は抑えられない。神田明神通りは銭形平次で知られた明神下の方から来る通り。写っているのはソフマップ。知り合いがバイトしていたこともある。

どこまで本当か定かではないが、犯人は派遣でトヨタ系の下請けの部品メーカーで働いていて、近く派遣が全員解雇されることになっていた、という情報がネットで出ていた。派遣会社の本社は秋葉原にあるというから、派遣会社の選択自体も秋葉原で思いついたものかもしれない。このような事件について今更社会的な背景をいう意味があるかどうか疑問だが、犯人が「広義の自殺」を図ったことは間違いない。「人権派」弁護士たちがまた奇天烈な論理で犯人を擁護するかも知れないが、世間は許さないだろう。

この件で感じた痛みとか衝撃が直接的なものだったのでぼおっとしてしまったが、改めて事件の犠牲者のかたがたには心よりお悔やみを申し上げたい。怪我をされた方も、一刻も早いご快癒を願う。

この事件の持つマイナスのパワーはものすごい物だ。それに誘発されたのか、ネットを見ていたらどうもマイナスの事件ばかりに気を引かれていってしまった。

幸田シャーミンの国連広報室長辞任事件。これは今まで読んだり見たりした範囲では国連側に問題があるように思う。国連というのは実は問題が多い組織であるということはアナン前事務総長の時代にかなり噴出していたが、国際的官僚組織の悪しき点が、今回もまた出たのではないかと思う。

小学館の少年誌『少年サンデー』のカラー原稿紛失事件。雷句誠という漫画家が編集者の居丈高さに不満を募らせながら連載を終了し、原稿の返還を求めたら5枚紛失していたという。小学館側は弁償すればいいんだろうという態度で原稿料の3倍の額を提示してきたという。雷句がオークションで調べたところ1枚30万円ほどで売れたこの原稿が5万円で手を打てといわれて提訴に踏み切ったという。私はこの事件の背景には、漫画家を「ライン」視し、自分たちを「スタッフ」視する編集側の驕りがあるように感じられる。村上春樹の生原稿が「名物編集者」によって大量に横流しされた事件が以前あったが、今回も似たようなケースはなかったか。日本はものづくりの国なのだから、こうした現状は改善されていくべきだ。村上の件ではその編集者には作家を目指しなれなかったルサンチマンが原因だという指摘が村上によってなされていたが、雷句の件はそういうことはあるのだろうか。

スタンダールの新訳『赤と黒』をめぐり、「誤訳博覧会」と罵倒する論評が学会誌に掲載されたという。同じく古典新訳文庫でドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』を訳した亀山郁夫も言っていたが、こういう古典を改訳することは尋常ではないプレッシャーを同業者からかけられるのだという。具体的にはこういうことになるのだな、と思ったが、内田樹が書いているようにこういう論争は泥沼化し、後味の悪い物になるだろうことが残念だ。批判者がそうだというわけではないけれども、こうした翻訳系の学者の世界では、相当強い相互牽制・相互批判があるのだなと思う。野崎氏はよく勇をふるって出版したなと思うが、その相互牽制の背後には強い嫉妬心、ネガティブな方向に働いている功名心が感じられる。これもまたルサンチマンと関係があることになる。

スピードの水着問題。北島がレーザーレーサーを着て世界新記録を出したことで、この問題の方向性はほぼ固まったといっていいのだろう。国内メーカーの担当者は悔しくて夜も眠れない思いだろう。契約を盾に取ることもできるが、これだけ明白な事実を突きつけられると法的なものを主張する方が返って商業的にもマイナスになるだろうし、腸が煮えくり返る思いの人たちがたくさんいるだろうなと思うとちょっとやるせない。

どれもこれもマイナスの波動を感じさせるものが多くてどうもイヤになってしまうのだが、そういうものに巻き込まれてはいけないなと思う。自分は自分で自分のやるべきことを前向きに動かしていかなければならない。久しぶりに時事的なネタをこれだけ書いたが、これでこれらの件は終わりにしたいと思う。

夜、N響アワーを見ていたら、池辺晋一郎が先生から作曲の際は二つ以上の曲を同時に作れとアドバイスされたという話をしていてとても納得した。やりたいことを一つの曲につぎ込んでしまうことはあまりよくないのだという。書いているうちにやりたいことはたくさん出てくるから、それぞれにふさわしい発想を盛り込める二つ以上の作品を並行して進めろというのは、他の分野のアートでも言えることではないかと思った。

神保町に出かけた際にも写真を撮ったが、今朝も小雨の中少し散歩に出て写真を撮った。これは落し物らしい。手すりの上に落とし主に分かるようにおいてあった。


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by Luke Peterson

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