自分を滅ぼす自由/自己秩序感覚/皮膚寄生虫妄想
Posted at 08/05/25 PermaLink» Tweet
昨日。午後から夜にかけて仕事。新しい仕事が入り、慶賀。7時前の特急で上京。信州ではほとんど降っていなかったが、東京の地元で降り立つと雨はかなり降っていた。
昨日かいた新しい詩「救い」を『蜂蜜壷』にアップ。メールマガジン『詩の林檎』にも掲載。この詩は、昨日も書いた『カラマーゾフの兄弟』の解題を読んでからサディズムとマゾヒズムについて考えていて、自分の中で考えたことを想像で書いたもの。つまり自分にとってはかなりフィクショナル(自分の感情の思い入れでないという点で)な作品。今までこういう詩の書き方をしたことはあまりない(戯曲のときは登場人物の内面を想像しながら書いたことはある、もちろん小説でもそうだが)ので新しい試み。どこまで掘り下げられるか。
ふと思ったが、上京のときは毎週いつでも解放感がある。このときはつい食べ過ぎてしまうのだが、ここにある種の自己破壊願望があることに気がついた。それを一歩進めて考えてみると、解放感=自由と自己破壊願望とはとても近い、というか解放願望が自己破壊という行動になって現れるという側面がある、ということになる。つまり、人は自由になりたいから、自分を滅ぼしたいと思うということだ。その究極は自殺だ。自殺は究極の自由だということになる。逆に言えば、自由を求める思いの射程の究極には死があるということになる。考えてみれば、生とは秩序の体系であるから、自由の道の果てにあるものは死しかないのだ。
サディズム・マゾヒズムについても、やはりそこには苦痛や破滅の果ての自由という問題が明らかにある、と思った。『眼球譚』もそうだが、『カラマーゾフの兄弟』でも「神が存在しなければ何をしてもいい」という思想をめぐる怒涛のようなものがこの小説を推進する大きな泥流になっている。イワンを中心にして、スメルジャコフとリーザの存在がそれを推進するが、神が存在しないことが究極の自由を保障する、という思想がそこにあり、イワンの思想を体現する二人が作品中でそうしたサディズム的・マゾヒズム的なキャラクターの究極として現れていることは、ドストエフスキーはそのことを意味したのだと思う。
自由というのは、最終的には自分自身が自分の支配者である、ということだろう。そしてその支配権の中には、自分を滅ぼす権利をも含んでいる。そこに、自由という観念の抱えるある種の病があるのだろうと思う。私は、自分を滅ぼすこと、あるいは自分に属する者を滅ぼすことの権利を放棄することで、初めて人間はもっと大きな生命の秩序の中に参画することを許される、という側面があるのではないかと思う。自分を滅ぼす権利の行使には慎重であるべきだ。人は思考の奴隷になりやすいので、傷ましくも自由という観念の奴隷となって身を滅ぼすことも、人間にはあり得ることだからだ。
私は自由という言葉が好きだし、愛している。山の上に立って四方を見晴るかしているような、すがすがしい気持ちが自由という言葉には伴う。しかしやはり自由という観念には病んだ部分が伴っているということも忘れてはならないと思う。「前を見晴るかす」、眺望することには解放感=自由が伴うが、「前に進む」ことには必ずしも解放感は伴わない。しかし「生きる」ということはある場所にとどまって四方を見晴るかすことではなく、苦しみながら前に進むということでしかない。深い熊笹に覆われた既に失われてしまった山道をかき分けかき分け進んでいく、「分け入っても分け入っても深い山」(正しくは青い山by山頭火)、そのためには解放感覚ではなく自己秩序感覚、つまり意志が必要なのだ。
そしてその自己秩序感覚は、健全な意味での自己支配感覚、つまり自由と結びつく。やはり自由は人間にとって必要なのだが、必要な乗り物が自己支配力を失うと走る凶器になるように、自由の暴走をいかに食い止めるかが、この危険な乗り物を獲得した人類が生き残れるか否かの境界を形成するのだなと思ったのだった。
***
『ビックコミック』2008年11号。いがらしみきお「かむろば村へ」。過去のハードな人間関係が明らかになる。この人にこんなストーリーテリングの才能があったとは。4コマ作家だとばかり思っていたから。ちばてつや「赤い虫」。読みきり。作者の少女漫画家時代、座り仕事と締め切りのストレスで結構深刻な神経症が進行していたのだという。その赤い虫が背中に住み着くという幻覚をテーマにして書かれた作品。これは皮膚寄生虫妄想、「妄想障害(身体型)」の一つの現われということらしく、そういう症状については始めて知った。しかしこの手の妄想はなんとなく分かる気がする。
朝起きて、朝食を買いにローソンに出かけようとしたらエレベーターが止まっていた。冠水だという。そんなに強く雨が降ったとも思えなかったが、どうしたのだろうか。昨日の夜帰ってきたときにはなんともなかったのだが。これは参った。私の家は10階なのだ。気軽にローソンに行く、ことが出来ない。とりあえず非常階段で上り下りし行って帰っては来たが、早く復旧して欲しい。外に出かけるのが億劫になる。まあしかし、地上数十メートルのところで暮らしている不自然を痛感するのも、たまにはいいことかもしれない。お年寄りや宅配便、引越しなどの業者の人にとっては災難だろうと思うけれども。
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