絵の職人/ラフマニノフとビートルズ
Posted at 08/05/06 PermaLink» Tweet
昨日は村上論を書いたので日常記録は書けなかった。日曜日の朝から順番に思い出す。
午前中はいろいろやっていたが、午後友人と会う約束をして1時50分に新宿紀伊国屋へ。そのまますぐカフェユイットに直行。まだ開店5分前。エレベーターホールでしばし待つ。他に客はなく、一番明るい席に座る。しばらくするうちにどんどん一杯になる。やはり人気のある店。
ビーフシチューを食べながら歓談。煙草を吸っている人が近くにいるのに気にならない。排気がかなりいいのだと思う。喫煙者も非喫煙者も気にせず楽しめる店というのはいい。喫煙者だって、喫茶店でくらい煙草を吸いたいだろうから。
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あっという間に時間が経ち、4時過ぎに店を出る。天気がいまいちなのが連休には勿体無い。そのへんをぶらぶら散策し、分かれた後紀伊国屋で立ち読み。アドホックで星野之宣『宗像教授伝奇考』第1集(小学館、2007)を買う。現在『ビックコミック』で連載している『宗像教授異考録』につながる作品。『コミックトム』で1995年から連載されていたもの。諸星大二郎の『妖怪ハンター』シリーズの影響が強いように思う。
しかしこの人は絵が巧いな。星野は諸星にかなり大きな影響を与えられたとWikipediaに書いてあったが、諸星の天才性に比べて星野は絵の職人という感がある。物の見方やストーリー的にはずっと通俗性が強い。そこが長所でもあり、物足りないところでもあるのだろうが、現在『ビックコミック』という商業誌で連載して成功しているのは、そうした通俗性がプラスの方向に働いているからだと思う。もちろん、同誌掲載の他の作品に比べると遙かに異色の物だから、そのカラーも出しやすくなって生き生きしている。『コミックトム』はいわば半商業誌だから、描きたいものが明確な作家にとっては好きに描ける利点がある(ただし潮出版社だから創価学会の逆鱗に触れるようなことは描けない)が、職人性の強い作家にとっては方向性に迷う部分があるようには思う。『伝奇考』1集は白鳥伝説と鉄器の伝播というシリーズ全体を貫くテーマの提示から始まっているが、白鳥処女説話の羽衣を奪われた裸の娘の描写など、諸星では描けない卓越した画力が示されていてこういうところが星野の見るべきところなのだと発見した部分があった。中村屋で苺大福などを買い、帰宅。
夜は何をしたのか思い出せない。家にいるときはとにかく勢いでやりたいことを次から次にやっているので、やっていたことをすぐ忘れてしまう。何か目印をつけておかないと、と思ってモーニングページや日記を書いているのだが、ひとつのことに熱中するとそういう日常記録も疎かになるので、後で何をやったのか思い出せず、何もしていないのではないかという強迫観念に囚われることが以前はよくあった。今は楽しめたことは確かだからそれでいいか、というあたりでだいぶ楽にはなっている。
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5日。朝は少し散歩に出て、ローソンでアップルパイとオレンジとラズベリーのアイスクリームを買って朝食に。『ユリイカ』5月号のラフマニノフ特集を読む。自分のCDの棚を探すと、ラフマニノフは数枚持っていたが、ラフマニノフ自身の演奏は持っていないので(自動ピアノに記録された録音の再現という少々際物臭い物は持っていたが)山野楽器に出かけて買いに行くことにした。ラフマニノフ特集には名盤紹介の記事があり、そこで推薦されていたピアノ協奏曲2番と3番が収められた『ラフマニノフ・プレイズ・ラフマニノフ』というのを買うことにして銀座に出かける。
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ポイントがたまっていたのでもう一枚買うことにし、ラフマニノフが同じフィラデルフィア管弦楽団を振っている『交響詩 死の島』『ヴォカリーズ』『交響曲第3番』が収められたCDを買った。
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『宗像教授伝奇考』の続きを読みたいと教文館で探したがなく、ブックファーストで第2集を購入。
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帰りに地元の西友で昼食と夕食の材料を買って帰宅。午後は疲れが出て、しばらく休む。なんとなく野球を見てたら中日が阪神にボロ負けしていて、日本ハムは西武に大量リード。後で見たら阪神は圧勝していたが日本ハムは逆転負けを食らっていた。今年のファイターズはなんだか勝っていても本当に強いという感じがしないんだよなあ。去年は負けていてもその打ち勝ちそうな感じがあったのだが。ヒルマンと梨田の差か。そういう意味で言えば、西武の渡辺監督はすごい。
『ポー詩集』を電車の中で読了。やはりちょっと訳が古い。イメージの喚起力が弱い。同じ詩でも原文で読むともっとイメージが湧く。翻訳には賞味期限があると改めて思う。村上春樹も言っていたが。
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ラフマニノフを聞く。疲れているせいかどうもあまり印象に残らない。巧いことは巧いし、曲も転調に告ぐ転調できれいではある。私がラフマニノフ、という音楽家のことを最初に知ったのは、ビートルズのなにかのLPのライナーノーツで「ラフマニノフでさえこんな装飾的な楽譜は書かなかった」というような記述を読んだことだった。今LPを探してみたが、「サージェントペパーズ」だと思ったそのLPがどれだかわからない。しかし久しぶりに聞きたくなってLPに針を落としたら、そのあまりの名盤ぶりに改めて圧倒されてしまった。……って話がずれすぎた。
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やはりSP版からのリミックスだから音に問題があるのかもしれない。現代のピアニストが弾いているのと聴き比べるほうがいいかもしれない。ただ、「ヴォカリーズ」のメロディーは好きだ。
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亀山郁夫+佐藤優『ロシア 闇と魂の国家』を読む。現在220ページ。ロシアの知識人の権力へのおもねりは、ロシア的な「受肉」の思想の現われだという分析が興味深い。エイゼンシュタインもショスタコーヴィッチもスターリンにおもねりながら創作活動を続けているのはなぜか、という私も年来疑問に思っていたことを取り上げていた。「真の知識人が自らの理想や芸術を受肉させるためには、権力へのおもねりを引き受けるべきだという発想です。ここが逆に、チェコのマサリクにとっては嫌悪すべきロシアの体質なのでしょう。」という佐藤のことばは興味深い。理解はまだできているとは思えないが。ただ、チェコの反体制理論派知識人は西欧の資金的援助を受けることによって民衆から遊離してしまい、状況にコミットできなかったが、ロシアの反体制派は自前で資金を捻出して社会と共犯関係を結びながら状況にコミットしていく、という分析はロシアの凄みはそういうところにあると感じられた。しかしそれは脆さであるとも思うけれども。
***
昨日書いた村上春樹論にコメントをいただいていろいろ考えたのだが、文中私が使用しているポエジーという言葉は説明しにくい概念であり、ということは当然読む側にとっては理解しにくい概念だなと思った。しかしはっきりいえるのは、ポエジーを感得するのは感性だけでなく、知性が必要だということだ。知性だけではもちろんだめだけど。村上はつまり、「知性的な作家」ではないのだ。意志的な作家、だと私は思う。言葉を替えていえば村上は反知性的な作家なのだ。そのあたりに、彼が糾弾される理由があるのかもしれないとも思った。
夜は詩を書いて蜂蜜壷を更新し、メルマガを発行して寝る。朝は5時半に目が覚めたが、6時半頃ゴミを捨てるついでに散歩に行き、朝日を浴びた。久しぶりに天気がよくて気持ちがいい。天気がいいだけで、世の中の問題の半分くらいは解決してしまう。って私にとっては、という話だが。
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