柑橘系の朝/否定によってしか語れないもの/揚げ立てのカレーパン
Posted at 08/05/03 PermaLink» Tweet
今日から連休。昨夜の仕事は最後のほうが忙しく、夕食は10時半頃になった。1時ごろに寝て、今日は5時起床。6時4分発の普通電車に乗って上京。
11月ごろ、この電車で上京したことがあったが、あの頃はだんだん夜が明けていくのを気持ちよく眺めることができたが、今朝は列車に乗っているときにもう朝日が差し込んでいた。季節の違いを感じる。
朝食にと思ってコンビニで買ったネーブルオレンジパイとほっとレモン、それにチョコレートをかじったのだが、まちがえてなぜか温州みかんチョコを買ってしまった。思いがけず、柑橘系の朝になった。でも案外美味しかった。
列車が東に行くにつれて雨になってきて、それでも甲府に近づくにつれて乗客が多くなり、試合に行くと思われる女子バレー部の集団などが思いっきりお喋りをしているのを聞くともなしに聞いていた。
ロシア闇と魂の国家 (文春新書 623)亀山 郁夫,佐藤 優文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
終着の甲府で、特急に乗り換える。車中では、亀山郁夫・佐藤優『ロシア 闇と魂の国家』(文春新書、2007)を読み続ける。だんだん興味深いところがでてきた。
ドストエフスキー、聖愚者(ユロージヴィ)、タルコフスキーとさまざまなテーマについて語られている。聖愚者についてはプーシキンとドストエフスキーで描き方が違う、というのは私も思っていたけれども、二人の分析の仕方はいろいろと刺激的だった。
ドストエフスキーのキリスト再発見、「キリスト」を信じることと「キリスト教」を信じることは違う、自由主義神学から危機神学への流れの話も興味深い。
自分にとっても重要なテーマだと思ったことが二つ。
一つは「ロシア的」とはどういうことか、という問題についての佐藤の姿勢。
「全一性(ソボールノスチ)」がよくロシアの特性だととらえられることについて、それはクザーヌス、ヘーゲル、高山岩男などにも見られるとし、「極力、「ロシアに特有なるもの」という議論を避けて、徹底的にロシア以外の世界との共通性を探って、それでもどうしても還元できない物をロシア性として位置づけたいと思うのです。徹底した否定神学の方法によって、ロシアを理解したいと思うのです。ロシアについて理解するには、知ではわからない信仰に最後は「命がけの飛躍」をしなくてはならない。これは確かです。もっともこれは、日本について理解するためにも、最後には「命がけの飛躍」をしなくてはならない。ロシアについて、「命がけの飛躍」を「全一性」や「ソボールノスチ」で行うのは早すぎると思うのです。」と言っている。
これは全くそうだと思った。私たちは安易に、日本的だ、とかロシア的だ、とか言い過ぎる嫌いがある。最近私もよく思うけれども、「~的」と言われることの多くは、人類にかなり普遍的な現象であることが多い。最近中国のおかしな現象が注目されていて、「中国はこういうおかしな国だ」というような議論が起こりやすいが、あの中のたいていの部分は中国以外にも起こり得る現象だと思う。その中で、本当に中国についての特異な部分をもっとしっかりと抉り出さなければならないと思う。それができないと中国を根本的に理解することはできないのではないかと思う。
二つ目は、今の話にも出てきた「否定神学」の方法。物事を定義するときに、「○○は××だ」と肯定語で明確に定義することができる場合もある。自然現象、自然科学の領域のことは多くはそうだろうし、また社会科学的な領域のことも定義から自然に導くことができることが多い。しかし宗教や文化など、人文学の領域になると明確に定義することができなくなることが多い。たとえば「ケノーシス」(謙譲)とはどういうことか、という定義は、難しい。キリスト教でも、ルターなど「悔い改め」を重視する人はこれを重視するが、カルヴァンなど予定説をとる人は「ケノーシス」は人間が神の救済に関する決定権を侵害しようとするおこがましい行為だ、ということになるわけだ。だからケノーシス=謙譲とはこういうことだ、と定義してしまうと具合の悪いことになり、「~ではないもの」としか定義できないと言うわけだ。本居宣長が「やまとごころ」を定義する際に、結局「からごころならざるもの」としか言えないというのは同じ否定神学的な考え方だという。
この話はちょっと目から鱗が落ちるところがあった。否定によってしか定義できないものの深さ。明晰でないもの。「である」という科学的な肯定形では定義できないもの。肯定による科学的な方法論と否定による実存的(?)な方法論。できることが定義されている自衛隊とできないことが定義されている軍隊の違い。実は自分は今まで科学的な方法論しか眼中になかったんだなと思う。だから粘りがないし文学が苦手だった。「ではない」という否定的な方法論でものを考えるにはものすごい、無限の想像力が必要だ。それが自分に向いているかどうかはわからない。でも科学的な考え方で行き詰まっている部分を打開できる可能性もあるからそれを探るべきかもしれないと思う。
The Fall of the House of Usher and Other Writings: Poems, Tales, Essays and Reviews (Penguin Classics)Penguin USA (P)このアイテムの詳細を見る |
9時半前に東京に到着。丸の内丸善へ。ポーの原書を探し、Edgar Allan Poe, "The Fall of the House of Usher and Other Writings: Poems, Tales, Essays and Reviews" (Penguin Classics,2003)を購入。店内検索で最初ポーの詩集を探したのだけど在庫が見つからず、実際にある本を手にとって見てみたのだが、この本は「大鴉」「鐘」を含む代表的な詩が17編納められ、短篇も「アッシャー家の崩壊」「モルグ街の殺人」「黒猫」「黄金虫」を含む19編、論文・レヴューも「詩の原理(抜粋)」を含む16編が収められていて、ポーの主要な仕事が一望にできる内容だったので即座に購入した。1512円(税込)だったが、amazonでも1500円だったからこの本に関しては成功したと思う。
その後、4階のカフェでぼーっと外を眺めていた。目の前を東京駅の高架を走る中央線や東北新幹線の電車が横切っていく。地上には傘の花。本当に放心状態だった。地下鉄に乗って地元の駅で降り、牛乳とチョコレートを買って帰る。一日に二枚チョコレートを食べると言うのはどうかと思うが、すぐに食べてしまった。
しばらく休憩してからまた出かける。クリーニングを取っていったん戻り、また出発して借りていたCDを返し、神保町の三省堂で仕事に必要な本を買って、新宿線に乗って新宿へ。紀伊国屋書店で『ユリイカ』6月号を買う。特集はラフマニノフ。彼はポーの詩、『鐘』をもとに合唱曲を書いているので、その関連で買ってみた。ラフマニノフはプーシキンの詩にも曲をつけているし、ダンテの『神曲』にでてくる有名なストーリー、「パオロとフランチェスカ」の話も歌劇化している。今までそんなに聞いているわけではないが、一度本腰を入れて聴いてみるのもいいかなと思った。
店内でいくつか本を立ち読みして、少し疲れたのでなんとなく中村屋に行き、レトルトのカレーを買ったついでにカレーパンを買った。靖国通りの手前にテーブルと椅子が並んでいるところがあるが、そこに行ってカレーパンをかじった。揚げ立てのカレーパンて美味しいんだ、ということを知る。この一角、思ったよりずっといい加減なところで、なんかのびのびした開放感があった。浮浪者じみたおじさんもいれば、待ち合わせをする若者たちも居り、普通に外国人が座っていたり、私のようにそこら辺で買ってきたものを適当に食べている人もいる。新宿のこういう性格は、なんだかのんびりするものがあるなあと思った。
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