雨の日曜に近親を見舞う/戻ってくるべきところに戻る
Posted at 08/04/14 PermaLink» Tweet
土曜の仕事は比較的暇。6時59分発の特急で帰京。火曜に帰郷の際雨が降っていたので、晴れているのにその傘を持って帰るのが面倒だったのだが、日曜はしっかり雨が降り、持って帰ってよかったと思った。
もう四月半ばだし、ウールのズボンを東京で穿くことはないかなと思って綿の厚めので帰京したのだが、日曜の東京の寒いこと。どこかに忘れているウールのズボンがないかとクロゼットをひっくり返したら、やや厚めの綿の黒のズボンが出てきた。これはクリーニングに出して戻ってきたまま、黒のスーツのズボンだと思って穿いていなかったのだが、スーツとズボンを合わせてみたらズボンが一つ余ったので(笑)、単品で買ったものだということが判明したのだ。新品で買ってあまり穿いていないもののうちには、普段ばきにするのがもったいないと思っているうちに存在を忘れてしまうものがときどきある。それを発見することはなんか思いがけない宝物を掘り当てたような嬉しさはあるのだが、やや馬鹿っぽい感は免れない。しかし実際、書籍の中にもそういうものはたくさんあって、「あれ、これもってたっけ?」と思って何年も前に買ったものを読み始める、ということはよくあることなのだ。私だけだろうか。
列車の中では、昼間に買っておいたおはぎと乗る前に買った小さめの弁当で夕食を済ませようと思ったのだが、弁当だけでなくおはぎも3個とも食べてしまい、これはさすがに食べすぎではないかと思ったのだが、飢えたように腹が減り、参ってしまう。
日曜の朝、入院している近親を見舞うためにその連れ合いに電話をし、朝10時半に病院にいくという話になった。この時間は実はキツイ。お見舞いのものを買う時間がない。目当ての店はどこも10時か11時にならないと開かないから、こりゃ困ったなと内心思いつつ、ネットで営業時間を調べ、開いてるところをはしごすることにする。
まずは出かけるときの服装が問題。雨が降っていてかなり寒いのだが、発見した黒いズボンを穿いていくことにした。最近痩せているのでサイズが合わないのだが、ベルトで無理やりウェストを合わせ、ベストにジャケットをあわせてまあこんなものか。バッグも普段は持ち歩かないものにする。
傘を差して出かけると、待ち行く人はみんなもっともっと厚着で、いやこれは伊達の薄着にしすぎたかと思ったが、地下鉄の中にはTシャツ一枚の人がいて、まあみんなそれぞれでいいんだよなーと、納得。地元の西友の花屋で金額を行ってバラの花束を作ってもらった。病院の場所を言ったら長持ちしそうに作ってくれて、紙袋にも入れてもらえたので助かった。ああ、こうすればいいんだな。時間が余りそうだったので図書館に行って西脇順三郎『詩学』を借り直す。持って行かないで電話だけでも期限は延長できたらしい。
日本橋に着いたらまだ9時40分で、高島屋が開いていない。丸善で詩関係の雑誌をぱらぱら見る。『ユリイカ』『抒情文芸』はあったが『現代詩手帖』がない。高島屋10時の開店と同時に5階に駆け上がり、山野楽器でビートルズのCDを物色、お見舞い用に包んでもらう。ポイントで払おうと思ったが、3000円以下だったので少しもったいないなと思って現金で払ってしまった。音楽ソフトで3000円って、行きそうで行かないものだなと思う。
都営浅草線の駅まで走り、エアポート快特というのに乗る。以前この線で通っていた頃にもこういう名前のものはあり、京浜急行のボックス席仕様だったはずだが、普通の車両で残念。目的駅で降り、少し歩いて病院に。
近親を見舞う。見舞いの品は喜んでもらえたが、苦しそうでこちらも胸がつぶれる。枕頭を辞し、デイルームでその連れ合いと交々話し込む。病室に戻ってお大事にと言って辞去。駅まで戻り、さてどうしようかと思ったが、銀座に出ることにした。三田で三田線に乗り換え、日比谷で降りて銀座まで歩く。木村屋であんぱんと蟹グラタンクロワッサン(?)とラムレーズンのスコーンを買う。教文館で雑誌を探し、『現代詩手帖』を見つけて買う。二階に上がり、西脇順三郎『Ambarvalia 旅人かへらず』やアウエルバッハ『ミメーシス』を立ち読みするが、いろいろ考えた結果柳沼重剛編『ギリシャ・ローマ名言集』(岩波文庫、2003)を買った。地元のコンビニで牛乳を買って帰宅。
寒くて冷えたせいか、午後はぜんぜん物事をやる気がせず、テレビをぼおっと見る。野球を見たり、『鑑定団』をみたり、『レッドカーペット』を見たり。ずいぶん古い再放送だった。にしおかすみこやムーディー勝山、柳原可奈子の既に「古い」と感じるネタでバカウケをとっていた。Wikipediaで調べたら去年の2月18日の第1回放送だということが分かった。芸が消費される期間は短いものだ。
ギリシア・ローマ名言集 (岩波文庫)岩波書店このアイテムの詳細を見る |
『ギリシア・ローマ名言集』。ギリシャで126、ローマで211の名言が取り上げられている。まだギリシャの22までしか読んでいないが、気の利いた言葉が多くて面白い。訳者は最近プルタルコス『対比列伝』を訳し京大出版会から出版しているようだが、図書館などで借りてみるのもよいかもしれないと思った。
「絵は言葉を使わぬ詩、詩は言葉でかく絵である」
これは詩人シモニデスの言葉でプルタルコスが好きだったという。この言葉は必ずしも同意は出来ないが、小説などに比べて詩は絵に近い、直観を重視する芸術であるとは思う。
「王の手は長い」
これはいい言葉だ。ペルシャ王がアテナイに使わした使者の言葉として、またトロイのヘレネがパリスに送った手紙の言葉として用例が出ているが、現在でも使えそうだ。
「狼の言い分も聞いてやるべきだ」
これはプラトンも言っているようだが、イソップ寓話の中で羊を食べている羊飼いたちに狼が「おれがそれをしたら、お前たちはどんなに大騒ぎすることだろう」と言ったと出て来るのだという。チベット虐殺を行う中国にも言い分も聞いてやるだけは聞いてやれば言い、というような使い方も出来るかもしれない。
「驚きこそ哲学者の気持ちだ」
知を愛する心(フィロソフィア)は驚きから始まる。その通りだと思う。
「確かなことを打ち捨てて不確かなことを追い求めるのは、愚か者のやることだ」
私は愚か者だな、とは思う。
現代詩手帖 2008年 04月号 [雑誌]思潮社このアイテムの詳細を見る |
『現代詩手帖』。この雑誌を買ったのはいつ以来だったか。しかし出て来る人の名前を見ると、谷川俊太郎、三浦雅士、大岡信、などと並んでいて、変わってないところは変わってないなと思う。
私の中で詩をよく書いていた時期というのは何度かあるのだが、自分の中で印象に残っているのは1999年から2000年にかけてネットに詩を掲載していた頃。(一部は今でもアップはしてある)だから、詩手帖を読んでいたのもこの時期かと思っていた。しかし古雑誌を発掘してみると、1993年から94年にかけてのものだった。この時期、一度だけ詩手帖の投稿で名前が出ている。その号の特集が「西脇順三郎を読み直す」で、シンクロニシティを感じた。結婚直前で、演劇からほとんど手を引きかけていた時期だ。1999年にまた書き始めたのは離婚後で、個人の生活史とイヤなくらい重なっているのでイヤになる。(畳語)99年はネットでたくさんの詩を書き、同好の人たちと交流もそれなりに持っていたが、世界の広がりの少なさに失望してウェブ日記のほうにスタンスを移してしまい、その後は評論や小説のほうに可能性を探ることになり、また詩から離れてしまった。この時期には『詩学』などには取り上げてもらったが、詩手帖は敬遠していたんだ、そういえば。今になってみれば馬鹿馬鹿しいこだわりなのだが。
いろいろ遠回りしたが、詩が戻ってくるべきところだったんだなと思う。自分の中で、詩が好きなことは確かなのだけど、詩を読んだり書いたりする際の理論的根拠がないことに自分でどうしても不安定感を感じていた。そういう意味では、西脇順三郎『詩学』に救われた感がある。ポエジイという概念をもとにすべてを見ていくことで、すべてを自分のものに出来るような気がする。もちろんその概念を直感的に会得した、という手ごたえがあるからで、これは物語性とかドラマ性とかたとえばそうした小説の概念が自分には頭では理解できたけど体得はできてない感じがする、のと違う感じがするからだ。自分の中に根拠を置いてすべてを見ることが出来なければ、その世界で立っていくことなど到底出来ないだろう。主戦場がどこになるかはともかく、根拠地を自分の詩情に置くことが出来ればいい。今は根拠地を固めることだ。
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