フィジカルな時間とメンタルな時間/『川の国 埼玉』と河川の変遷
Posted at 08/04/07 PermaLink» Comment(2)» Tweet
がっかりすることがあって、体ががっかりモードに入っている。土曜日の朝は充実モードだったのに、なんだか正直すぎて笑ってしまう。しかし、がっかりモードというのは体が緩んで休息態勢に入っているということだから、まあ冷やさないように休め、また体や意欲が引き締まりだすサインを見落とさないように、休めるべき部分を休めておこうと思う。
2007年5月の読書記録を作っておいたのだが、それに基づいて本棚を整理した。私は東京の家には使っている本棚が10台あるのだが、一番よく見る本棚の前面が、去年の5月以降に読んだものだけでは埋まらないという事実に気がつき、意外な気がした。実家のほうの本棚にも同じ時期の本は多少はあるが、そんなには置いていないから、ほぼ1年間で買った本はその程度と言えばその程度なのだなと思ったのだ。
もちろん、本棚にある本の一番古いものは高校時代、つまり約30年前に買った物もあるわけで、30年間同じペースで本を買っていれば本棚は30台、前後2段に並べたとしても15台の本棚が要ることになるから、計算上はそんなものなのかもしれない。しかし、自分の中ではわりあい最近に読んだと言う印象の本が、既に読んでから1年以上経っているものが実際には多いということがわかって、なんだか不思議な感じがした。フィジカルな時間の流れより、メンタルな時間の流れの方が遅いというのは、ぼやぼやしているうちにどんどん時間だけが経っているということで、なんだか困ったことだ。
しかし印象の薄い本の中には1年前に読んだはずでももっとはるか彼方の昔に読んだ気がするものもあるわけで、頭の中の時間の記憶というのは一定ではない。あたまの中で、過去というものはどんどん再構成されていっているんだなということが、物理的な証拠と照らし合わせて見るとよくわかる。そういうことも、普通にただ毎日を過ごしていると気がつきにくいことだ。
***
テレビのニュースで見たことだが、埼玉県は全国で一番、県の面積中河川の占める面積の割合が大きい(3.9%)のだそうで「川の国 埼玉」をアピールしているそうだ。荒川の鴻巣市・吉見町間の荒川の川幅が日本一だと言うことが判明したため、「川幅日本一」の標識を立てたのだという。
以前から、私も地図を見るたびに埼玉県は川が多いなと思っていたので、その実感が裏付けられた感じで興味深いニュースだった。川幅日本一は堤防間ということらしいのでちょっと強引な感じもあるが、埼玉が「川の国」であることに間違いはないと思う。
で、こちらの日記を読んで知ったのだが、荒川は現在入間川を支川として東京湾に注いでいるが、それは江戸時代初期の付け替えによるもので、それまでは現在の元荒川の川筋を流れて利根川(現在は古利根川)と合流して現在の中川の川筋を流れ、江戸湾に注いでいたらしい。
だから現在は荒川の下流である隅田川はもともと入間川単独の下流だったと言うことで、これは新鮮な驚きだった。お能や歌舞伎に『隅田川』という演目があり、また『伊勢物語』にも都鳥のくだりで隅田川が出てくるが、あの隅田川の源流は荒川、つまり秩父のほうではなく、入間の台地だったのだと思うとちょっとイメージが違う。
しかしWilipediaなどを見ると古隅田川とは古利根川の流域、つまり現在の中川筋にあり、こちらのほうをさしていた、という説もある。そうなると隅田川の上流は群馬県と埼玉県ということになる。
利根川がもともと東京湾に注いでいたということは知っていたし、江戸初期に利根川を東遷させる際に渡良瀬川をあわせ鬼怒川の川筋に落とすようにしたということも知ってはいたが、中川の川筋を流れていたとは知らなかった。
また現在の荒川にしても、明治までは隅田川が下流だったのが、岩淵の水門から中川に落とすようにし、荒川放水路として現在はこちらが荒川の本流ということになっているから、また荒川の河口は江戸時代以前にもどったことになる。複雑な変遷だ。放水路建設の際、小松川のあたりの蛇行をまっすぐにして中川と荒川を分けてもいる。
そうすると現在の江戸川はどうなるかというと、実は渡良瀬川の下流だったと言うことで、これもびっくりした。江戸初期の川の付け替え工事は相当大規模なものだったのだ。国府台のあたりは江戸時代は景勝地として有名だったが、その景色ももともとは渡良瀬川が作り出したものだったわけだ。鉱毒事件が起こるのはもう付け替えの後なので、東京湾にはあまり影響はなかっただろう。
ここまで川筋のことにだいぶこだわってみたが、江戸時代初期以前になるとこの関東平野の地形自体がかなり現在とは違ったものだったらしい。ここまでたくさん書いてきた埼玉県東南部、東京都東部は江東デルタ地帯などといわれるが、このあたりが人が住めるようになったのも江戸時代初期以降で、それ以前は低湿地が広がっていた。本所が武家地として、深川が町人の町として開かれたのも江戸初期のことだ。だからこのあたりの川筋にあまりこだわっても仕方のないところもあるだろう。
また、現在の利根川の下流域、茨城県と千葉県の境目には『香取海』と呼ばれる広大な内海が広がっていたらしい。それは銚子で太平洋とつながっていたわけだから、おそらくは汽水湖だったのだろう。香取海は現在の霞ヶ浦、北浦だけでなく、印旛沼や手賀沼もその一部に含んでいたそうで、まさに水郷の名にふさわしい状況だったのだなと思う。
私はこういう古地理的なことが好きで、そういうことを知るといちいちへー!とかほー!とか感心する。古い地名もそのころの文化的背景や自然地形に基づいてついているわけだから、そういう地名も残して欲しいし、古い地形もなるべく残しておいてほしいと思うわけである。
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"フィジカルな時間とメンタルな時間/『川の国 埼玉』と河川の変遷"へのコメント
CommentData » Posted by ジミー at 08/04/07
稚拙な日記にリンクしていただき、ありがとうございます。
僕も川や地形の歴史に、何故か興味を抱いてしまいます。23区内にも、暗渠になったり枯れたりした小さな川がたくさんあったようですね。それらを見つけると、今の東京とは違う姿の東京を発見したようで、わくわくします。
CommentData » Posted by kous37 at 08/04/08
>ジミーさん
コメントありがとうございます。
>僕も川や地形の歴史に、何故か興味を抱いてしまいます。
おお!そうですか!同好の士ですね。(笑)
私も地図を見たり、地名の本を見たりしながら往年のそのあたりの姿をしのぶのが好きなんです。またブログでも取り上げて行きたいと思います。
ジミーさんの日記も楽しみにしております。