吉本ばななに刺激される/『日本人はなぜシュートを打たないのか?』
Posted at 08/01/05 PermaLink» Tweet
吉本ばななのことをあまり書いていなかった。
27日に買った吉本ばなな『ひな菊の人生』を数日で読了したのだが、読んでいるうちにいろいろと発想が湧いてきた。
ひな菊の人生 (幻冬舎文庫)吉本 ばなな幻冬舎このアイテムの詳細を見る |
吉本という人はほぼ同世代なので、考えることが似ている部分があるのだが、同じところに目をつけても考えることが正反対だったりすることも多い。以前はそのあたりが合うのか合わないのか、というような考え方だったけど、今回読んで、むしろ吉本を読んで「へええ」とか「自分はそう思わないな」という感想が出てくること自体にむしろ意味があると思うようになった。吉本は吉本の感性・感覚で話を進めていくわけだけど、同じようなことが合っても自分なら違うように感じ、違うように展開させるなら、同じテーマや同じ書き出しでも全く違う作品ができることになる。そういうことを思いながら欄外にいろいろ書き込んでいたら本当に小説が書けそうになった。ということで年末から書き始めたのだけど、それが先ほど第一稿が上がった。200枚くらいになりそう。今までの自分の作品の中では、一番面白く、一番手ごたえがある感じではある。願わくはそれに、結果がついてきますことを。
奈良美智『NARA NOTE』。
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この本は急いで読む本じゃない。ふとした時間、考え方に行き詰ったとき、ちょっと見ると心が落ち着く。自分が間違った方向に行っていたらそれに気づくし、自分が正しいと思う方向に行ってても疲れてるときには、それを励ましてくれるようなところがある。どこからどう読んでもいいし、一日にたくさん読んでもいいし、1ページだけ読んでもいい。そのへんが、画家の一作品完結性というか、そういうものと通底している感じがする。やっぱりいい本だ。
2日から4日にかけて。いや今日はもう5日か。
2日に帰郷して、兄弟や甥姪たちと会う。お年玉をあげる。小学生以上と小学生未満に分けてやったら、二人以外全員小学生以上になっててびっくりした。もうそういう世代なんだな。ぼくに子どもが出来たら従兄弟最年少になりそうだ。
3日は親戚の新年会。あちこちでいろいろな話題。正月はどうも食べ過ぎる。旅館の息子で、今は東京の出版社に勤めている従兄弟が、お父さんがなくなって数年して、社長になっているというのを聞いて驚いた。まあ無給で、名前だけということのようだけど。編集業が忙しくてあまり田舎にも帰れないようだし。
去年結婚した従姉妹が二人。20代と30代。これで独身なのは私一人になった(まあバツイチだが)。新しい旦那が一人新年会に来ていたが、あまりに親戚が多くて圧倒されたようだった。私の母が5人兄弟、それぞれのうちに二人以上子どもがいて、その孫の世代で最年長はもう今年大学受験。なんかアフリカの家族のような大所帯なのだ。まあびっくりするよなあ普通。ベンチャー企業で成績全国一位のセールスマンだと言っていたが、こういうノリについていけるかどうか。
4日は初仕事。8時におえて上京。
上記以外の時間はほとんど睡眠以外は小説を書いていた。今日も朝からずっと小説。書くということは楽しいことだ。と、久しぶりにそう思った。特にフィクションは、自分の世界に完全に入り込める。いや、入り込めなければ書けない。そのために、こういう日記などとは別次元の集中力を必要とする。そしてその世界に入ったら、ひたすら走り続けなければならない。書いていて思ったが、その世界の中でも楽をしようとしたり、同じ場所でちんたらしようとしていたら絶対ダメなのだ。とにかく前に進み続ける。その力が失われたら小説は作品にならない。
2日の帰郷前、丸の内の丸善で湯浅健二『日本人はなぜシュートを打たないのか?』(アスキー新書、2007)を買った。
日本人はなぜシュートを打たないのか? (アスキー新書 18)湯浅 健二アスキーこのアイテムの詳細を見る |
それは、この人が私のはてなアンテナに入っている、湯浅健二のサッカーホームページの著者だからだ。このホームページのトピックスをアンテナに入れているのだが、その的確な分析と熱い情熱には感服する。読んでみたら、果たして素晴らしい本だった。
サッカーは理不尽なゲームだ。後方からのパスを積み上げて最後にシュートを放つのだが、そのシュートは最高の不確実性を持っている。日本人はそのリスクにチャレンジすることを恐れ、シュートが打てる場面でもついシュートせずに他の選手にパスしてしまうことが多いという。テレビを見ていて同じことを感じた人も多いだろう。私もよく日本代表の試合を見ながら、「打て!打て!何で打たないんだよ!」と絶叫してしまうからよくわかる。
著者はそれを確実性を求める日本の文化の悪い面が現れているという。サッカーはもともと確率が低いスポーツなのだ。だから、常にリスクにチャレンジすることによってのみチャンスを物にすることができる。リスクにチャレンジするということは失敗の責任も追わなければならないということを意味する日本では、ついそれを躊躇してしまうというわけだ。しかし、たとえばドイツではよっぽどのへまでない限り、リスクにチャレンジする行動は賞賛されるという。確かにそういう文化がないと、リスクにチャレンジする果敢さは養われないなあと思う。
それはシュートだけにとどまらない。ボールをキープしている選手が選択肢を増やせるように、自ら相手のディフェンダーを出し抜いてスペースを作る、そういうプレーをしなければならない。自分にパスが来る確率が低いと判断してそういう努力を怠ることはすべての流れを悪くする、というわけだ。これは実際なるほどと思わされた。
我々は確率が低いことをすることを嫌がる。しかし、低い確率でも積み上げていけば高い確率になるわけだし、サッカーの場合、ボールをキープしている選手が次のプレーの選択肢、自らドリブル突破、その場でシュート、スペースのある選手へのパス、を多くもてることになるわけだから、相手のマーク対象もそれだけ増え、穴が生じる確率が高くなるわけだ。だから骨身を惜しまないプレーこそがクリエイティブに状況を変えていくというわけだ。それは実際本当にそうだと思わされた。
それを著者は、「クリエイティブな無駄走り」「勝負はボールのないところできまる」などと表現する。
著者の言う「クリエイティヴな無駄走り」がどれだけできるかによって、プレーの質が、私の場合で言えば作品のクオリティが格段に上がるというのは確かだなと思った。年をとってくるとどうもそのへんのところを手を抜いてしまうことが多くなるが、それでクリエイティビティが下がるなら問題外だ。「井戸から水を運ぶプレー」、というような言い方をオシム前代表監督も言っていたが、そういうプレー、そういう記述の創造性を改めて痛感した次第。
同じ著者の『サッカー監督という仕事』(新潮文庫、2004)も昨日購入した。まだ読んでないが、仕方のないことだけどアップトゥーデートの選手、監督たちが扱われていないのでやや古い感じがしてしまう。野球に比べて選手の入れ替わりの激しいサッカーは、本当に大変なスポーツだと思う。
サッカー監督という仕事 (新潮文庫)湯浅 健二新潮社このアイテムの詳細を見る |
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