「セオリーにひそむ甘さ」を排除した落合采配/『ステージガールズ』の魅力
Posted at 07/11/02 PermaLink» Tweet
日本シリーズは負けた。投手リレーによるパーフェクトゲーム。いくらダルビッシュが1点に抑えても、ランナーが一人も出られないのでは勝てない。昨日の試合は完敗だ。
いろいろな理由があるだろう。ダルビッシュが投げるという安心感。川上の登板が回避され、気が抜けたということ。山井というピッチャーがあんなに投げると思わなかったこと。いろいろある。
しかし何より最大の原因は、シリーズの流れを最後までつかめなかったことだろう。シリーズは流れの取り合いだ、とはよく言うことだ。第二戦のグリンの乱調で手放した流れは、最後まで回復することはできなかった。
その流れを虎視眈々と、眼光炯々と、蟻の這い出る隙間もないほどの厳しさで守り続けた落合采配の隙を突くことが、最後までできなかった。落合も人間だからその綻びもなかったわけではない。しかし日本ハム側の焦りと中日の堅守、そしてツキの流れも中日の側に味方した。
一番印象に残ったのは、第3戦の二回表の攻撃。6点リードの中日がショートゴロでアウトカウントを稼ぐのを狙わず、1点を取られるのを防ぐためにバックホームしてアウトにしたこと。大量リードのときはアウトカウントを稼いで試合を進めることを優先する、というセオリーに反し、内野の守備にバックホームアウトという高いハードルを課し、それを実行させて成功したこと。地味に見えるがあれが最大のビッグプレーだ。ペナントレースならあれはファーストへ送球だろうが、流れを絶対に手放さないという意志を優先した采配だ。逆にいえば、セオリー通りで日本ハムが二点目を掴んでいたら、流れはいつのまにか日本ハムに移っていた可能性もある。そういう意味では、「セオリーにひそむ甘さ」を落合は排除したのだ。
そして第5戦。8回表まで完全試合を続けた山井を交代させ、9回に岩瀬を投入したこと。これは昨日の報道ステーションで古舘も野村も言っていたが、落合でなければやらない采配だっただろう。完全試合という偉業は投手個人にとってそれだけの純粋な価値がある。また一つのエラーでも達成できないわけだから、それはチームにとっての偉業でもある。
しかし落合はそれを取らず、より確実な勝利を優先した。8回までパーフェクトだとはいえ1対0。勝てば優勝、負ければ少し傷口が生まれた状態で敵地へ移動しなければならない。山井も、日本シリーズ優勝という目標の達成のために8回までは無我夢中で投げられただろうが、9回は自分自身の記録のために投げるという要素が入って来ずにはいられなかっただろう。そこにはそれまで積み上げてきた事業に微妙なひび割れを生じさせ、ついには崩壊に導く危険性が潜んでいる。もし9回も山井が投げていたら、私は多分日本ハムが勝っていた可能性がかなり高いと思う。そうすればついにファイターズが流れを掴むことに成功し、札幌で連勝する可能性もぐんと広がってくる。落合はそれを嫌ったのだ。
しかし、普通の監督なら、それだけのリスクは十分承知の上で、山井にもう1イニング投げさせるだろう。私は1976年の巨人阪神戦を思い出す。9回裏2アウトまで2点リードでノーヒットノーランを続けていた江本が高田・張本と二つのファーボールを出し、山本和に交代。王を歩かせて満塁とし、最後に末次に逆転さよなら満塁ホームランを打たれたあの試合だ。野球はどこに落とし穴が潜んでいるかわからないとよく言うが、実際には落とし穴に気がついていても大丈夫と踏み、その期待に賭けるという選択は少なからずある。そしてその結果落とし穴に落ちても、「あれは仕方なかった」で片付けるわけだ。
今回の落合采配にはそれがなかった。セオリーにひそむ甘さも、常識にひそむ甘さも、一切排除して日本ハム打線に物理的な死を与えることのみを優先した。そして選手もそれに答える高い能力と決断力を持っていたということだろう。ノモンハンにおける戦車の能力差による敗北のような、徹底した鋼鉄の意志を感じる。落合はスターリンのような男になった。スターリンとは、「鋼鉄の男」という意味である。
***
このシリーズで目立ったのはMVPを取った中村ノリの活躍だ。年俸400万の育成選手で拾われ、ホームランへのこだわりも捨て、みごとに復活した。しかしこれも、落合の鋼鉄の意志があってのことだろう。そういう意味では、今年のMVPは落合以外にはありえない。
しかし来期の中村の年俸はどうなるのか。今シーズンも結局、2億円分くらいの働きはしただろう。2億になったら年俸50倍だ。今後も絶対に破られない昇給記録が出来るだろう。
***
日本ハムはいろいろな意味でショックが大きいが、課題もはっきりしただろう。まずは打者も投手も、一人一人の能力を高めることだ。荒木井端の超人的な守備、中村のつきぬけた打棒、川上・中田・山井・岩瀬らの安定したピッチング。それらは落合に統制されることによって生み出された部分もあるけれども、日本ハムにはそういう統制によって強くなるチームにはなってほしくない。ダルビッシュのような飛びぬけた力を持つ選手になるように、すべての選手が目標を高くもって頑張ってほしい。来年は高卒の中田も入るし、大学社会人からの補強も期待できるだろう。梨田監督の采配がうまくはまるかどうかは未知数だし、来年のGMが誰になるのかよくわからないが、能力が高く甘さがなく、それでいて底抜けに明るいチームであってほしい。来年も日本ハムを応援したい。
***
コミックガンボの『ステージガールズ』を、ガンボの巻があるだけ(つまりちゃんと貰えた分だけ)読み返す。この話なんでこんなに面白いんだろうといろいろ考えてみたのだが、随所に細かい工夫がたくさんあるのだと思う。各回につけられた表題が「人形の家」「どん底」「回転人魚」「コーラスライン」「黒蜥蜴」「三文オペラ」「少女都市」とすべて芝居の題名なのだ。これはわかる人にしかわからないだろうな。「回転人魚」は野田秀樹の夢の遊眠社時代の作品だし、「少女都市」は唐十郎の状況劇場時代の作品だ。それに劇団四季の「コーラスライン」が入ったり、イプセンの「人形の家」が入ったりしたら、よっぽどの芝居好きじゃないと気がつかないのではないかと思う。
この話は少女漫才師コンビ「ステージガールズ」が大手の「吉玉興行」ににらまれて解散に追い込まれたのを再結成を誓い合ってそれぞれが新しいコンビ相手を得、「漫才全国コンクール」略してマゼコンを勝ち上がっていく、というストーリーだ。その中で「吉玉興行」所属の大御所漫才師「松園さん」が出てきたりする。まあその辺はあざといといえばあざといのだが、ストーリー作りとしてはうまく出来ていると思う。
で、マゼコンにでてくる漫才コンビの名前がおかしいのが多い。「サテライト」とか「リッカーシンガー」とかなんとなくまともな名前もあれば、「五月人形」とか「泣きパン」とかわけのわからない名前もある。一番ウケたのは”ナニワの大砲”「ブリーデン」というグループで、ブリーデンという名前なのに二人ともランディ・バースのようなヒゲを生やしていることだ。このオチが可笑しいのは世代的にも限られているだろうとは思うが。
また、ステージガールズの舞台のありさまが、夢の遊眠社の舞台を思いだすんだよな。舞台上で存分に走り回り、暴れまわるあの感じ。野田秀樹に言わせればお客さんを喜ばすためには「足でも上げる」、という感じを思い出す。この原作者(上野毛あさみ)は芝居の世界に近いところにいた人なのではないだろうか。また作画者(黒岩よしひろ)もそういうものをよく知っている人なのではないかという気がする。ライバルの少女漫才コンビ・サテライトの冠番組が「サテライトのサテラダ・ファミリア」という題なのも個人的に好き。
***
アゴタ・クリストフ『昨日』。現在110ページ。亡命者の悲哀と苦衷。幼なじみとの再会。劇中の主人公が書いた設定の文章と、現実に起こったことの地の文という組み合わせで展開していく。ものすごく面白い。面白くて、ゆっくり読みたい。あまり先を急ぎたくない。そういう作品は私にはなかなかない。私の読み方が変わったのかもしれないが。
昨日 (Hayakawa novels)アゴタ クリストフ,Agota Kristof,堀 茂樹早川書房このアイテムの詳細を見る |
今日は曇っていて、重苦しい空。雨は降らない。そんなに寒くないが、パソコンに向かってじっとしているとかなり冷えてくる。
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