アルキメデスを尋ねて私自身を知る
Posted at 07/10/13 PermaLink» Tweet
昨日は比較的ゆっくりすごせた。少しアルキメデスについて書こうと思って(なぜアルキメデスが思いついたのかはよくわからないのだが)いろいろ彼に関するエピソードを思い出しながら書いてみる。子どものころに知った「ユリイカ」の話、ローマ軍の侵攻で殺された話など。一度原稿用紙に書き終えてからパソコンで打ち直しているときにウィキペディアなどで調べてみると、自分の知っていたことも案外あやふやなことが多いんだなと思ってびっくりした。
まず「アルキメデスの原理」という物自体をあまりちゃんと理解していなかった、ということを知った。液体中に別の物質があるとき、その物質と同じ体積の液体の質量分だけ、その物質に「浮力」が与えられる、という原理なのだ。具体的に言えば「体積×液体の密度×重力加速度」の力が重力と反対方向に働く、ということになる。はあなるほど、ちゃんと理解してみるとかなりすっきりした法則だ。「水を押しのけた分だけ」とか言われるとなんだかわからなくなってしまうのだけど。
つまり有名な「ユリイカ」のエピソードは、というか大体ギリシャ語では本当は「ヘウレーカ」らしいのだが、(これはエラスムスが発音を間違ったために誤った発音が定着したという説があってその辺も味だ)アルキメデスの原理とは直接関係ないことになる。あの話は結局は王冠の比重を測定して金塊の比重と比較し、混ぜ物をしている事実を突き止めるということだから、浮力とは直接関係ない。王冠によってあふれ出た水の分だけ水の中で王冠に浮力が与えられたことは事実だが。このエピソードはアルキメデスの原理を説明するものとして使われていることが多いのだけど、実際はかなり混乱を呼んでるんじゃないかな。みんなどんなふうに関連づけて説明しているんだろうか。
逸話にはシラクサの僭主ヒエロンが出てくるが、ウィキペディアで見ると僭主だったが民衆から王に推挙された、何てことも書いてある。ヒエロンは王と書かれているものと僭主と書かれているものと両方あって実際はどうだったのかと思う。またヒエロンという僭主は二人いて、アルキメデスと関係あるほうは(実際アルキメデスの親族だったらしい、これもはじめて知ったのだが)「ヒエロン2世」と称されている。シラクサの町の歴史というのももう少し突っ込んで調べてみると面白いのだろうなと思う。ていうか、地中海の諸都市の歴史ってなんだかわからないことが多くてちょっとワンダーランドっぽい、私にとっては。
で、このヒエロンは実は親ローマ派だったようだ。ローマの侵攻を招いたのはシラクサがカルタゴ側に寝返ったためで、その直前にヒエロンは死去しているから、ヒエロンの死後親カルタゴ派にシラクサの実権が奪われたということなのだろうか。確かめてみたいことが多い。
アルキメデスはローマ軍の侵攻を防ぐために数々の新兵器を繰り出したという説もあり、そうなるとシラクサの政治にもかなり深くかかわっていたことになるし、ある意味愛国者だったとも言える。そうなると、地面にかいていた図形を踏まれて怒ったためにローマ兵に殺されたというエピソードも意味が違ってくる。私は純粋に真理の探究に没頭する科学者、というイメージを描いていたのだけど、戦争に関与していて殺されたなら、むしろ反骨の愛国者ということになる。ローマの将軍マルケルスはアルキメデスを殺すなという命令を出していたというから、よけいその印象が強くなる。実際はどうだったんだろう。というか、人間そんな単純なものではないといってしまえばそれまでだが、語る人の意図もさまざまだということもあるし、アルキメデスの実情というものにはちょっと関心が深まった。
アルキメデスは球と円柱の関係(球がすっぽり入る円柱と球とは、その表面積と体積とはそれぞれ3:2の割合である)の発見をもっとも誇りにしていて、その墓にもその図が刻まれたという話を聞いたのも初めてじゃないかな。そのほか実際たくさんの業績があるようで、もう少し科学史というものもちゃんとやっとけばよかったと思った。
またアルキメデスの原理は科学の法則としては最古のもので、次に古いのがケプラーの法則だというのもびっくりした。(ウィキペディアによる)つまり、「科学」(あるいは近代科学といってもいい)というもの自体がガリレオの実験と観察の方法論やニュートンの力学体系の発見によって初めて成立したものだというのも実はあんまり認識していなかった。17世紀はまだ自然観がネオプラトニズムによって支配されているから、自然観まで含めて科学的な認識というものが確立したのは啓蒙時代以後、ということになる。そう考えてみると、音楽の歴史(近代音楽といってもいい)がバロックから語られるのと同じくらいの歴史しか、科学にも歴史がないことになる。経済学も産業革命以後、国民経済の確立以後に関してしか実質的に意味がないことになるわけだし、何と言うか近代以前と以後とでは学問にしても自然観にしても芸術観にしても本当に全然違い、前時代とは本当に急激な断絶があるのだということを改めて感じた。
逆にいえば、私はどの時代も人間がいて社会があったことには違いないんだからそんなに本質的には違わないさという感覚がもともととても強いんだということを認識したとも言える。で、自分の感覚というのは昔からそうだが、結構古代中世寄りなんだよな。近代的感覚、ないしは現実的感覚に欠けてるということでもあるんだが。
なんかずいぶん調べてしまって、しかもウィキペディアの「ユリイカ」の項に「ヘウレーカ」との関連のことの投稿までしてしまった。(ウィキペディア初投稿・笑)
さることあり、自分は表現とは縁を切れないなとしみじみ思った。しかし実際には目に見える活動はできていないので、表現を止めたと思われている。ちょっと辛いなとも思う。
午後から夜は仕事。まあまあ忙しく。終了後、テレビを見ながら夕食。自動改札機のニュースとか。黒川紀章氏死去には驚いた。父に愉気、入浴、就寝。所用で昨日は上京せず。今夜上京予定。
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