変節/人食い人種としての日本人/笙野頼子「三冠小説集」/佐藤優「国家と神とマルクス」

Posted at 07/07/10

昨日。午前中友人から電話がかかってきて話す。野田秀樹の「変節」が一番の話題だったのだが、20数年前と今と、彼が同じであることを要求することはできない、とは思う。ただ、私もそうだけど、彼に影響を受けて芝居やアートの方に進んだ人たちにとって、彼が当時の作品を否定するような発言(今までは遊びだったけどこれからは本気、みたいな)をされるとちょっとやりきれないというか、ふざけるなというか、裏切り者!みたいな感想を持つことは、まあ仕方がないことだと思う。このへんは人に影響を与える人が感じる宿命のようなものではある。

まあ戦前と戦後で言うことが変わった人がいくらでもいるように、80年代と今とでは時代状況が全然違うから、時代の風を敏感に感じる人が変化していくのはある意味当然かもしれないという面もある。野田があの時代の旗手であるとしたら、ある意味あの時代は永遠に終わったと言うことでもあるのだろう。

なんというか、最近あの時代に対するノスタルジーと言うものがあまり強くはなくなってきた。今に生きることに一生懸命だからだろうな。良きにつけ悪しきにつけ。

ただこの問題、ここまで書いてみて、そんなに簡単に自分の中で終わりに出来るものではないということに突然気がついた。多分割りと近いうちに、また考える必要がでて来る気がする。その気付きについてはそのときに書ければと思う。

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お昼を食べに外に出て、蕎麦屋で焼肉定食。1時半を回っていたからこれから空くだろうと思ったら、どんどん客が入ってきて驚いた。昼飯遅番と言う人たちがあるんだろうか。ゆっくり食べるつもりだったのに申し訳ないからさっさと食べてさっさとでてしまった。

日本橋に出る。日本橋丸善に出て、本を物色。何を買おうという作戦はなかったのだが、結果的に佐藤優『国家と神とマルクス』(太陽企画出版、2007)と笙野頼子『笙野頼子三冠小説集』(河出文庫、2007)を買う。『国家と神とマルクス』は、佐藤の思想的な核である国家・キリスト教・宇野弘蔵によるマルクス解釈について、その周辺の物を含めて佐藤が自分なりに解釈したさまざまのことについて書いていて、面白い。学者による論文製造的な書き方ではなく、外交官として活躍し、国家によって断罪されている最中の状況の中から生まれた部分がその解釈に現れているので、非常にスリリングな部分がある。状況ゆえの解釈の特殊さと言うものも多分あるのだけど、生きるために思想を駆使する、その駆使の仕方には共感を覚える部分が多い。

国家と神とマルクス―「自由主義的保守主義者」かく語りき

太陽企画出版

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『笙野頼子三冠小説集』。芥川賞受賞作「タイムスリップ・コンビナート」、三島賞受賞作「二百回忌」、野間文芸新人賞受賞作「なにもしてない」の三作が収録されている。あとがきによると、笙野は本が手に入りにくい作家であり、大学のゼミで使おうとしても集めるのが大変だ、という声を受けて比較的長期に絶版にせず維持し続ける河出書房から三作を集めた(彼女いわく代表作ではない、とのことだが)文庫を出す、というのはなるほどと思った。また、今回改めて文庫に収める際、相当手を入れて書き直したらしい。「タイムスリップ…」は前の文庫を持っているので、暇なときに比較してみてもいい。

笙野頼子三冠小説集 (河出文庫 し 4-4)

河出書房新社

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ただとりあえず読み始めたのは「二百回忌」。これは読みやすいし、まだ読み始めたばかりだけどうまく書けている印象。私は笙野の躁狂的な部分があまり得意でないので、こういう落ち着いたタッチはありがたい。

しかしなんというか、これもあとがきによるのだが、若い読者による理論的な解読を強く肯定したり、自分の過去の作品をどんどん理論的に位置づけ、自分の書きたかったものはこれなんだとどんどん書き直すという現在の笙野のやりかたはびっくりした。経緯を知らないからなんともいえないが、いわゆる「純文学論争」の中で理論化が進展したのだろうか。文学の固有の可能性、あるいは固有の使命、固有の価値とは何か、という問題について、さまざまな表現手段がある現在において、その意味を明らかにしていくことは難しいと思うのだが、この辺は実は佐藤優が『国家と神とマルクス』で述べているように、「映像でない」ことそのものにあるのかもしれないとちょっと思った。

このへんもともと私も演劇やマンガの方から入っているから、どこかで小説、あるいは小説至上主義というものと対峙しなければならないときが出てくるような気がしないでもない。ただ実作者としてはまだまだそんな理論的な喧嘩ができるような段階ではなく、とにかく書くしかないという段階ではある。

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佐藤優『国家と神とマルクス』(太陽企画出版、2007)。

メモすべきと思った箇所を書く。

1.p.24「オリエンタリズムの古典」としてのマルコ・ポーロ『東方見聞録』には、日本が黄金の国・ジパングとしてだけでなく、「人食いの文化のある国」として取り上げられている。このことはどこかで読んだことはあるが、馬鹿げた妄想として忘れていた。しかし佐藤によると、欧米の東洋学者、日本専門家は『東方見聞録』で潜在意識にこの言説が刷り込まれているので、「南京大虐殺」や「七三一部隊」「死の行進」などの「人類の敵」的な言説を駆使する中国の言説工作が成功し、中韓のみならず米欧のマスコミの日本に対する冷淡な報道を実現させているという。しかし、この工作は同じオリエンタルである中国人にも跳ね返ってくることを、中国人自身は理解していない、と佐藤は指摘する。

確かにそれはそうだと思う。日本人の中にも、韓国人や中国人のネガティブイメージを米欧に売り込もうという人たちがいるが、米欧にとって見れば我々はあまり差異がないのであり、あまり有効な作戦とは思えない。日韓中いずれの国にとっても一緒くたにされることが心外なのはお互い様だと思うが、現実問題としてそういうことが起こることは考えておくべきだろう。

2.p.42広松渉が「本は読まれなければインクのシミに過ぎない」と言ったという。なんとなく広松さんらしい感じがして、好感?を持った。まあマルキストである広松に共感する部分はないが、物神化というテーゼ自身は分かりやすい。

3.p.50ヘーゲルの「理性の狡知」と言うテーゼについて。しかしドイツの哲学者の言うことはもっと分かりやすくならないかな。要するにたとえば、自由と言う概念は傷つかないまま、ロベスピエールをはじめとする個人のおびただしい血が流れたフランス革命のような現象が起こると言うようなこと、かな。

小泉政権以後の日本の政治の潮流は新自由主義と新保守主義にあり、村上正邦の失脚は新自由主義に反する「ものつくり国家」構想によるものであり、鈴木宗男の失脚は中央の財源の地方への再分配という政治スタイルによるものであり、ホリエモンの失脚は天皇制否定の言説が新保守主義に反していたからで、同時に新自由主義の行き過ぎの歯止めにもなった、という佐藤の見立ては納得がいく。要するに彼らは広義の政治犯であり、思想犯なのだ。それを破廉恥罪で否定することによって小泉政権が切り捨ててきたもの・直視しなかったもの(職人文化・地方・国体変更)を国民の目に晒さないようにしたのだ、と言うわけだ。理念は生き残り、個人は切り捨てられる、というのが「理性の狡知」なのだが、つまりこの場合は理念とは日本国家そのものを指していると言うことらしい。

これはつまり、「日本のために頑張った自分がなぜ日本国家から切り捨てられたのか」ということを考えあぐねた作者自身が到達した結論と言うことのようだ。ただこのあたりには少し生煮え感がある感じがする。まだ十分な理論展開や掘り下げ方がたりない感じがする。国家そのものが理念といわれるとちょっと私は戸惑わざるをえないし。

4.p.63-86 弁護士安田好弘についての一文には賛同できない。ただ、安田(光市母子殺人事件差し戻し審であの唖然とする被告人弁護を行った人物だ)の問題は、民主主義、とりわけ戦後民主主義と司法・法律あるいは弁護の陥ってしまう罠のようなものについて考えるべき点がたくさんあるのだということはこの文を読んで思った。戦後民主主義の闇、つまり日本がどうしてここまでだめになったかと言うことと、彼の問題は密接に関係している。佐藤の書くものについてここまで絶対的な拒絶感を持ったものは今までなかったからちょっと驚いた。このあたりに彼と私との根本的な違いがあるのかもしれないと思う。
現在132ページ。

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本を買った後、コレドの地下でコーヒーやチョコレートを買い、帰宅。午後はだいたい『国家と神とマルクス』を読んでいた気がする。自治会の仕事が少し入ってまたそれを片付け、9時過ぎに夕食を買いに出て、オルハン・パムク『わたしの名は紅』を読んだりしながら就寝。

わたしの名は「紅」

藤原書店

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goo検索やyahoo検索でブログフィルタと言うものがあるのを知る。どのくらい使われているのかな。もしかなり使われているなら、最近あまり熱心でなくなっている「本を読む生活」の更新も意味があることになる、と思った。

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